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「東方の美韻を呼び醒ます」

 日本に帰省のため、ユタ州の中国新聞『東方報』でのリンヤンコラム連載は三か月お休みしてました。
 9月からコラム再開し、その文章を日本語に訳してここで載せます。

 この夏、私は日本で、「美・Japon」のモデルさんたちに一水空のレッスンをしました。今回は、それについてお話しします。
 「美・Japon」は、日本を代表して世界各国の大使館や美術館などの文化施設を訪問しているファッション団体で、世界的に高い評価を得ています。ご承知の通り、着物は中国・唐王朝に起源を持ち、日本で独自の発達を遂げました。現在では日本文化を代表するものの一つです。一枚の着物は唯一無二の作品です。布を織り、色で染め、絵付けをし、裁って縫い合わせる、そのすべての工程を手作りで行います。一揃えの着物は美しい芸術品です。しかし、だからこそ、着付けが煩雑で、着た人の動きも制限されます。着物はしだいにその美を発揮する場を失い、多くの家庭ではタンスの肥やしになってしまいました。
  「美・Japon」の代表で、ファッションデザイナーでもある小林栄子さんは、長年にわたって民間の古い着物を収集してきました。それを新鮮で美しい現代風の装いに仕立て直し、着物の魅力を世界に向けて発信しています。
 
    すでに十分な国際的影響力を持つ団体が、なぜ私にモデルさんたちへのレッスンを依頼したのでしょうか?そのきっかけは、昨年夏に開かれた特別な活動にあります。東京国立博物館創立150周年記念行事の一つとして、「美・Japon」は国立博物館宝物館に出演し、天照大神をテーマとする服装を身につけて、ファッションショーを行いました。(天照大神は神話に登場する太陽神で、日本人の祖先の象徴です)
  この時の公演は非常に特別なもので、責任も重大でした。その他の条件はすべて整ったのですが、唯一、栄子先生を満足させなかったのが、モデルたちがランウェイを歩く姿の風格でした。従来のモデルの歩き方をすれば、天照大神の持つ歴史的な重さを担うのが、あきらかに難しいのです。モデルたちも苦しみ、どうすればこの特別な公演の使命を果たすことができるのかと悩みました。

 偶然の機会から、栄子先生は私の一水空を見ました。その瞬間、彼女は思ったそうです。「これだ、この感覚だ!」と。彼女がほしかったのは、軸をきちんと保ちながら優雅な姿を備えた東方の風格だったのです。この時は時間が限られていて、主演のモデルさんだけに何回かオンラインで指導するにとどまりました。それでも、私が教えたいくつかの要点は、この演出にとって、非常によい効果をもたらしました。この演出の影響は大きく、日本のNHKが特集番組を制作し、海外のテレビ局でも放送されました。

 これによって、わたしたちの縁が結ばれました。そこで私が日本へ行った時、貴重な対面学習の機会を得ました。「美・Japon」のモデルさんたちが、私と系統的かつ長期的に学習するという計画を立てたのです。この内面的な東方の風格こそ、彼女たちが以前から必要としてきたものであり、今後の舞台においても必ず役立つ所作だと考えられたからです。

 私は、ファッションショーについてはまったくの素人です。彼女たちに教えた内容は、私が「武術」「書画」「一水空」で積み重ねてきた経験に基づき、模索したものです。伝統的な気功の「身体を調える」「呼吸を調える」「心を調える」の三つの要素に基づき、東方の美しさを作り上げました。具体的には、次の通りです。

 最初は「身体」です。武術の第一歩は身体に注意することです。八卦掌で最も重視するのは、身体の中心軸を作る訓練です。天地と魂が結びつく正中線を支えにしてはじめて、身体をゆるめ、伸ばすことができます。モデルさんたちの流れるようなあでやかな姿は、中心軸の支えがあってこそ生まれる美しさなのです。

 次は「呼吸」です。私は、胸式呼吸ではなく、腹式呼吸でもなく、全身呼吸だといっています。身体全体は地球の原初的な単細胞生命のように呼吸しています。吸って吐く間に生まれるのが、生命が持つ本来のリズムです。このリズムが張力を生み、東方文化特有の「気韻生動」の美を体現します。

 最後は「心」つまり「意識」です。百年以上の歴史を持つ着物が呼び起こす新しい命は、モデルさんたちに特別な責任を負わせます。私は一水空での指導方法を参考にして、彼女たちが以前ランウェイを歩いていた時の視線を変えるように提案しました。眼の前の場所と観衆を見るのではなく、「世界を俯瞰する」視点に変えるのです。「宇宙を感じる」心を持つことが、精神を安定させ、落ち着いて力強い存在感を作り上げることを助けます。

 彼女たちは真剣に学びました。そして一つの門を開いた感覚がある、といってくれました。その実、私の指導方針は「物事の根源に遡った」だけです。東方文化に共通する原点を通して、それを深く掘り下げ、発展させたのです。

 「美・Japon」は、伝統文化の可能性と創造性をたえず探求し、今後も世界中で着物の新しい魅力を表現することでしょう。私は伝統武術の伝承人として、中華の理念のために、この形式を通してアジア文化の交流を進めることができたことを、大変光栄に思います。

新聞の原文

美・Japon  

一水空 (YiShuiKong)

レッスン風景
最終回レッスン後。栄子先生も来てくださいました!
東京博物館で『アマテラス』の舞台
栄子先生とモデルたち

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