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乾坤―易の門 ~天地を開く父母卦 乾為天と坤為地~

中国の最高学府、清華大学ではこのような校訓があります。
天行健 君子以自強不息 「天行建(てんこうけん)なり 君子は以て自強して息(や)まず」 「地勢坤、君子以厚徳載物(地勢坤なり、君子は以て厚徳載物)」

これは易経の第1卦乾為天と第2卦坤為地からとった文言です。

天行健・・の意味としては「天は、とても健やかに廻っていって、途切れることなく、規則正しく、健全に運行されていくということで、そのように君子も自ら努め、学問に励み,人と交わり、職務を全うし、怠ることはなく規則正しく健全に行われなければならない」

地勢坤・・の意味としては「大地があらゆる生物を育むように、君子は人徳を高く持ち義務を成し遂げる」。

易の64卦を開くとまず、目に飛び込んでくるのは純粋な陽の象徴である「乾卦」と純粋な陰を象徴している「坤卦」です。

乾坤が象徴しているのは天地です。天地がまだ形成されてなく、陰も陽も分類されず混沌としていた無極から生じた、宇宙の小さな一点が大爆発してビックバンが起き、天地が開闢し、森羅万象が生まれたのは、有名な創世記の話です。

天地は宇宙の爆発によって同時に現れ、天が上に昇り陽になり、地が下に行って陰となり、陰陽の氣の交じり合いによって、万物を生み出しているのです。
そういう意味で見ると、易経を開く門は、「乾坤にあり」と言うことになります。易経の64卦の分類をすると、陽卦・陰卦・陰陽卦合わせての三タイプだと言えます。
乾坤合わせて父母卦であり、乾坤が交じり合って生み出したのが他の陰と陽が混じっている62卦と言うわけです。

この乾坤の門を通る事が易を理解するための必需な基礎入門となります。

太陽と木

乾の象徴は天で、天は「天行健」と言う言葉で表現しているように、天は常に運行変化・創造することです。
形あるものは、すべて形のない想像上での設計図が先にあったはずではなかったのでしょうか。天の「創造」の考えを、行動に移し、実行することによって形を作っているのが坤の象徴である地の役割と言えるのです。

「天尊地卑」という言葉がありますが、これは決して、天だけが尊い、地は卑しいというではなく、天は天の役目、地は地の役目があって、天地ともに相手があって成り立つ関係であって、合わせて一つということなのです。

乾は純粋な陽、坤は純粋な陰を意味しますが、この世界では純粋な陰陽はなくすべては陽の中に陰があり、陰の中に陽がある陰陽の交じり合いの存在で、乾坤は合わせて一つである太極の関係なのです。

人間世界での学びはすべて自然現象が教えてくれることばかりです。
易経を創った三聖は(伏羲、周文王、孔子)は宇宙のなりたちから、万物が生まれ、発展・成長して、成熟・変化、収斂、凝固し、また命が循環する過程を長い間観察しながら、変化の中の不変な宇宙の法則を見出しています。そして易経という最高の人生テキストにして私たちに天道・地道・人道を伝授してくれようとしています。

学びは知識や方法論を学ぶのではなく、知識を統合し、自分なりの方法論を見出す為の創造力を身に付ける為の学びではないでしょうか?

天は創造し、地は実行するがセットなのです。人はまず「こんな自分でありたい」と言う考えが先にあって、それを言葉に出して、行動に移すことによって、その結果を体験できるようになります。

そういう意味では私たちが常に何かを考えていることは、創造の原理が働き、その考えに相応した現象が起きるということになります。

無意識状態であれば、何を創造しているかも分からず、常に創造しつづけているのです。人生は好きなようにならないと言う考えが根底にあるのであれば、その考えもまた創造の原理を動かしているのではないでしょうか。

「目覚め」ということは意識的に、創造の原理を理解し、自分の魂の喜びにつながる創造力を働かせることなのです。

中国の古典「礼記」の一篇である「大学」ではこのような記述があります。
「大いなる大学の道は天から授かった徳を明らかにすることが目的である。さらに自分の人徳を高めるだけでなく、周りの人々を教導して、道徳的な進歩を後押ししなければならない。そしてその最高の善を常に継続し続ける事にこそある」

大学は中国では古来「太学、聖学、大人の学問」とも呼ばれていました。
大人とは広い心を持って生命価値を最大限に伸ばし続ける高い志を持つ人と言われています。

清華大学での校訓である乾坤の精神は若者に、創造と実行の原理を応用して、大人になって人生を楽しんで欲しいと、そう伝えたかったのではないでしょうか。

様々な体験を通して、本当の自分に気づき、また自分を新たに創りなおしていけるチャンスが人生という時間だとそう思うのです。

人生の喜びは与えられた安易な生活ではなく、自らの力で望む人生を創っていくプロセスではないでしょうか。そして一瞬一瞬が新たなチャンスと新な自分に出会うワクワク感で生きていたいものです。


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