ミーターの大冒険 第七部 太陽系 第1話 不死の従僕の居場所
163第1話不死の従僕の居場所
ミーターの大冒険
第七部
太陽系
第1話
不死の従僕の居場所
あらすじ
ファウンデーション暦492年、いよいよミーターとイルミナを載せたファー・スター2世号はアルファ星から出発して太陽系に入った。
人類の故郷の星系。懐かしい星、地球。
かつて、カビレ星系と言われていた太陽系。かつてアタカナと言われていた地球。
R・ミーター・マロウの主人アルカディアの志しを携えて、アルカディアのなし得なかった志しの実現の領域に確実に入ろうとしていた。
はたして地球の放射能汚染を駆除することができるのか?
ミーターは、太陽系と地球についての最終的情報を得ようとしてアルファに降りることにした。
その前にメルポメニアで入手した図書館の蔵書に記されていた地球と地球人類、そしてアルファの住民の起源の土地、ニフについての恐怖の出来事について驚嘆する。
その古文書のなかに、メルポメニアの滅亡寸前に記されたであろう『スペーサーとアルファ』なる書物をミーターは、イルミナに提示し、その概略の説明をさせる。
ニフの起源と核戦争の事実であった。
イルミナはまたニフ人が二種類いることを語る。
ニフ人たちは、核融合という理想のエネルギーを人類に提供するものの、謙譲の美を進んで実行し、祖先がそうであったように、移動の民に目覚め、密かに宇宙に出て行った。
彼らは後にシンナックス人として知られるようになる。それは、ナックの思想に同調していたニフ人以外にも地球全土に人種を越えて散らばっていったからである。
残ったニフ人たちは、地球各地で放射能に汚染された環境浄化をしつつ、最後まで地球を守り続けた。が、最終的には地球を手放さなくてはならなかった。そして彼らはテラフォーミングを必要としていたアルファに移住した。
イルミナは、銀河の歴史的収束点前後の大事件について繙(ひもと)く。
それは、ケルドン・アマディロ博士の「核反応増強装置」による「地球放射能汚染計画」であった。
アマディロは、イライジャ・ベイリーとハン・ファストルフ博士への恨み骨髄に達するほどに執念を燃やし、ついに復讐の刃を地球人撲滅という悲惨で残酷なシナリオを完成させようとしていた。
ついに太陽系の入り口にたどり着いた。人類の母なる太陽系。そして夢の地球。
ミーターは、ロボットには病原菌は感染しないことを承知のうえで、万全の防備態勢でアルファに降り立った。そこには一人の少女が待ち受けていた。
ミーターは、まずこの少女が語る彼らの星の名称がメルポメニアで入手したデータと食い違っていることに驚嘆する。
さらにミーターはアルファ人の特異性について知らされる。
163
イルミナ ミーターさんたら、ご無事でご帰艦は結構ですが、わたしのこと、あのアルファ人のツムギさんに、わたしに対して失礼なこと言ってなかったですか?「女というか、人間じゃないとか」。
ミーター 聴こえていたのか。
イルミナ それになによ、鼻の下のばして、わたしに対する言葉とまるっきり違うんですから。丁寧語なんか使ってね。
イルミナ あれは、礼儀って言うもんだよ。銀河の反対側に来て、不躾な言い方、できないんじゃないのか。それにまだ、古代銀河聖語
はおまえのようにはしゃべれないからな。
もしかしたら、イルミナ、おまえ、彼女に嫉妬しているのかよ。
イルミナ まあ、お言葉ですこと。
あんなどぎまぎして女性と話すミーターさんだとは知らなかったものですから。そんなにツムギさんって美人だったんですね。
ミーター なにをいう、イルミナ。
確かに可愛いかったには違わないが、彼女って上半身なにもつけていなかったんだ。
イルミナ まあ!
ミーター イルミナ、こんなことで言い合ってなんかいられないんだ。アルファの神秘がだいぶ開かれた。
イルミナ どういうことがわかったんですか?
ミーター うん、まず、カビレの意味だ。太陽系の太陽を俺ら今までカビレと呼んでいたよな。なぜ太陽系がカビレと呼ばれたか。なぜ地球がアタカナと呼ばれてきたか。地球が太陽系のどの位置で太陽の軌道を回っているか。
などなど。
イルミナ それから、ミーターさん、それにそんなお荷物になるような品物。おみやげですか?
ミーターさん、地上で何人と会われたのですか?
ミーター 二人だけだ。ツムギさんがあとで、だいぶ年配者のモノリー先生を連れて来たんだ。
モノリーさんからそいつをもらった、きっとあとで役に立つと言われた。
イルミナ それってなんですか?
ミーター アルファ人が「繭ベッド」とよんでいるシロモノだよ。モノリーさんは、「直感できっと役に立つ」と感じてもって来た、と言っていた。
イルミナ ところで、どうなんですか、他にわかったことは?
ミーター 数知れない。
イルミナ なんですか?放射能除染の方法ですか?銀河復興の手がかりですか?歴史消滅の逆転換?
ミーター 正直言って、まだはんば不確かだが、おおよそのことが見えて来た。
イルミナ どういう意味ですか?
ミーター モノリーさんがそれとなく教えてくれた。相当曖昧で、回りくどかったが、俺の直感が騒いだ。
イルミナ 教えて、そのこと、ボス。
ミーター ジョン・ナックの教えの真髄というやつだよ。
モノリーさんはこう言った。ジョン・ナックが地球にいた頃、アルファ人に語ったとされる言い伝えがあるという、
「ヒトとは、森羅万象と交信できるのは当然であるなら、もっと確かなこととは、ちょっとした差異のあるヒトに対してはより深く融け合うことができるはず」、とね。
言い換えれば、このことばには二つのことが言われてる。
一つは自然との交流。もう一つは、兄弟同士から分離がはじまるが、このことが一番厄介であり、ホモ・サピエンスの特徴というか弱点だというのだよ。
イルミナ 少しだけわかった気がします。要するに、ジョン・ナックはあらかじめ彼の未来を見据えて、アルファ人とシンナックス人が、分離してはいても、決して仲たがいしないように戒めたのね。
ミーター そうなんだ、彼ら二つの星は別な展開へと移行していくが、それぞれ意味のある形態には違わない、との真理なんだ。今は全く別々な形態で存在しているが、きっと未来、それぞれが有意義な存在として機能するという。
たとえば、アルファは原初的ニフ人の形態を残し、科学技術を文字記録に頼らない、発声言語の口伝で残す。たとえば芸能など。かたやシンナックス人は機械技術を駆使し、銀河から飛び出しはるか他の銀河に到達できる。
イルミナ そうだわね、第1ファウンデーションと第2ファウンデーションの確執なんてその最たるものだったんですから。
それから?
ミーター 不死の従僕は太陽系内にいる。
イルミナ なんですって!
ミーター 推論に推論を重ねるとそういう事実にぶち当たる。
Photo 「二人のタヒチ女性」ポール・ゴーギャン(1899年)