秋の陽が傾くころのユートピア

機械式腕時計とAnimacy(生命感)の正体

原宿のSEIKO seedにある「からくりの森」に行ってきた。去年も同じ時期に行ってきたのだが、展示物ひとつひとつが精巧に作られていて、本当に「からくりの森」に迷い込んだかのようでとても印象的だった。

こちらは「連鎖するリズムのコラージュ」という作品。ちなみに「コラージュ」とは、複数の紙片や物体を接合することである。今回は複数の機構が接合していることからコラージュとしたのだろう。人類の叡智を集約した時計の機構はそれ自体が美しいと感じさせる。実際は多くの機構があるが、今回はその中でも歴史的背景などその背景に着目してピックアップしたそうだ。

個人的に、最も美しいと感じたのが、こちらの機構だ。無駄のない動きは神聖さも感じさせられる。一定の時を刻む動きはまるで心臓ようにも見える。私たち人間の身体もある一種のからくりでもあると思う。ただその部品が膨大に多いだけなのかもしれない。だから人間は自分たちに似た生命体を作り出そうとしているのではとしんみりと思った。

トゥールビヨン誕生の歴史は古く、天才時計師として著名なアブラアン-ルイ・ブレゲが発明し、1801年に特許を取得したことに始まります。当時の携帯用時計の主流といえば懐中時計でした。
懐中時計は基本的に、必要なとき以外はポケットで垂直方向に収められているものです。そのため、常に一方向の重力が機械構造にかかり続け、精度に影響を与えてしまうという問題がありました。そこで考案されたのがトゥールビヨンです。
トゥールビヨンをひとことで説明すると、“重力分散装置”。ブレゲは機械で最も重力の影響を受けやすい調速脱進機(テンプと脱進機)を、キャリッジと呼ばれる籠に収め、このキャリッジを1分間に1回転させ続けることで、重力を分散させる方法を思いつきました。

https://www.leon.jp/watches/68505?page=3

世界で数名しか作れない機構。これを作り出せたのは修練の賜物だなと感じた。私も特技に「トゥールビヨン機構作れます」って書いてみたい。お話を聞いたところ、今回展示したものは実際のモノより大きいため、3Dプリンターを用いて鋳型を造形した後に、パーツを作成したそうだ。実際の腕時計に使われる機構はもっと小さいとのこと。


この作品を見た瞬間、「水滴時計」と思った。作品名は「時のしずく」。仕組みがとても気になる作品だ。おそらく撥水加工されているのだろう。まるで蓮の葉でころころ転がる水滴のようだ。流れ出た後にぽつぽつ水滴が生まれてくるのが可愛らしい。

表面張力による水のベールは時間がたつと決壊する。その立体感のある動きは見ているだけで心が落ち着く。

ちなみにハスの葉が撥水性なのか、以下のような仕組みである。

ハスの葉に水がかかると、水は葉の上で丸い水滴となりコロコロと流れていきますよね? これはハスの葉の表面に超微細な突起物があるから。そのサイズは数マイクロメートル程度。1マイクロメートルは、およそ0.001ミリメートルです。日本人の髪の毛の太さは0.08ミリメートルなので、とても小さいことが分かるかと思います。この突起物がクッションとなって水滴を支え、撥水効果を生んでいます。

さらに、ハスの突起物の先端には水に溶けにくいワックスがついています。突起物の凹凸とワックス、この2つの相乗効果で、泥水が気孔に侵入するのを防ぎ、高い撥水性を実現しているのです。こうした撥水効果を、ハスの英語名称(Lotus)から「ロータス効果」と呼びます。

https://jp.mitsuichemicals.com/jp/molp/article/detail_20220627/index.htm

その他にも自然とからくりを融合させた作品が展示されていた。


MPLUSPLUS「Embodiment++」

MPLUSPLUS「Embodiment++」 - シビック・クリエイティブ・ベース東京 [CCBT] (rekibun.or.jp)

世界初、人間不在の巨大ロボットアームによるパフォーマンス作品を披露。
テクノロジーと身体表現の関係を、MPLUSPLUSの活動から紐解く。
楽曲にはサウンドプロデューサー・ケンモチヒデフミも参加。多様な研究者やアーティストも参加し、テクノロジーによって拡張しゆく未来の「身体性」を考える。

ロボットアームによるパフォーマンス。初めに、音楽とともに時計の針がグルんぐるん回る作品を見た。音楽のビート(メロディかな)に合わせて時計の針が変化する。今風のパフォーマンスだなと思いつつ、不思議とかっこいいとも感じた。長針と短針、角度と速さという4つのパラメータを組み合わせることにより、1つのストーリーを生み出ているため、一見シンプルに見えるが、思ったより構成は複雑なのかもしれない。というより「かっこよくみせる」表現がなかなかに難しいのかもしれない。かっこよさとは何かを再考するパフォーマンスであった。

そのあと、別の部屋に移動して、2つの作品を連続で鑑賞した。両方ともロボットアームを用いたパフォーマンスである。

回転する台座、2か所で屈曲する腕。自由度3のロボットアームが見せる動きはまるで人間の腕のようだ。速さの変化によって、ここまで表現の幅が効かせられることに驚きを隠せない。

この作品も、わからないから面白い。「なんで、こんな動きになるの?」と始終考えていた。マジックのようだ。仕組みが分かると「なーんだ」とやや興ざめしてしまう。うまくその仕組みを隠しつつ、魅力的な生命感あふれる動きを見せてくれる点に、この作品の醍醐味があると感じる。

最初に見たロボットアームと構造は似ている。唯一違うのはプログラマブルに点滅するテープ照明をもっていることだ。

ドローンを用いて吊り下げる

この服は、アイドルやアーティストのステージ衣装として使用されたものである。

最近、光に関する作品が多くなったと感じる。それ以前にも絵画における光や照明、夜景など私たち人間は光に興味が持つよう本能的に感じるようになっているのでは?と時々思う。

光にまつわる作品は写真映えする

両方の展示は無料で楽しむことができた。都内はぶらぶら歩くだけでもその様々な世界が入り混じった混沌さを垣間見ることができる。目的なしにウィンドウショッピングをするのもセレンディピティにつながるかもしれない。

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