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『風起隴西』 中国ドラマ 鑑賞記録

風起隴西 ー SPY of Three Kingdoms ー
风起陇西
2022年4月 爱奇艺
全24 話

トップ画像 风起陇西 微博


原作は中国の人気作家、馬伯庸の『風起隴西』。歴史もののサスペンスが得意な小説家で、他にドラマ化されている『長安二十四時』『風起洛陽』『三国機密』も視聴しましたがどれも面白かったです。歴史ものやスパイものが大好きなわたしは本作も撮影の開始からウォッチしていた期待作。

現地配信時にサワリだけ視聴し、何故か必ず上陸するという謎の確信をしたので(笑)日本語字幕を待つことにしました。人物関係が複雑そうで、わたしの中国語力では十分に楽しめないかもしれないと危惧したからです。
すると思いがけず、5か月ほどでWOWOWさんで超スピード上陸!ありがたや。
毎週ハラハラドキドキ、楽しく鑑賞しました。

ミステリーという作品の性質上、どんなフレーズもネタバレになる可能性があります。未視聴の方はこの先ご注意くださいませ。


陰影ある映像やポスタービジュアルのセンスも抜群 风起陇西 微博
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背景

三国志の時代、蜀漢による曹魏への北伐は、曹魏からの偽情報により敗北する。その偽情報を送ったのは蜀漢に潜入していた間諜、コードネーム白帝こと陳恭だった。彼が裏切ったのかを突き止めるために派遣されるのは、義兄弟でもある荀詡
荀詡の調べによれば陳恭は裏切っておらず、逆に曹魏から蜀漢に潜入している間諜、コードネーム燭龍が情報をすり替えたのだと判明する。
では、燭龍とは誰なのか??!!

と、最初からややこしいのだが、回を進めるほどに益々ややこしくなるのである(笑)
ミステリーなので正解が分からないようにミスリード前提で描かれていくのは当然だが、本作のトリックは超高度。蜀漢と曹魏それぞれが相手に密偵を送り込んでおり、さらに彼らはダブルスパイ、いやトリプルスパイなのかもしれず…
話はもつれにもつれて片時も目を離せない。
果たして、裏切り者は誰なのか??!!


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登場人物と配役

主な登場人物は上の画像の方々。なかなか味がある。というか、地味(笑)
放送中、皆同じ髪型にお髭、似たような年齢層、一面茶色くて区別がつかないという声をよく目にした。確かに。
わたしは人の顔と名前を覚えるのは割と問題ないのでそこはクリアできるのだが、人物の関係性がややこしいのは変わりない。何度の高いサスペンスが余計に複雑怪奇にみえてくる。
唯一花を添えるのはアンジェラベイビー演じる柳瑩翟悦。片や荀詡が想いを寄せる女性、片や陳恭の妻。どちらもお美しい!
が、その二人さえも実は間諜なのだった…

陳恭役の陳坤と荀詡役の白宇、この二人の持ち味を生かした演技が素晴らしかった。間諜として妻をも犠牲にせざるを得ず、究極の選択を何度も迫られる苦悩。あるいは義兄弟を信じつつ、周囲から欺かれても国と任務に忠誠を誓いもがき続ける姿。
間諜としての責務と私情の間で苦悩しながらも、お互いに心の隅々まで見通せるほど理解し合い、最後の最後まで相手を信じ切った魂の絆が、胸を打つ。
それぞれの持つ静と動のイメージが時に逆転し、ぶつかったり離れたりしながら物語と共に転がり続ける。

脇役もそれぞれ重厚感ある演技がストーリーに陰影を添えたが、特によかったと思うのは馮膺役の聂远黄预役の张晓晨郭剛を演じた黄子健だった。


着流し風の衣装が異様にセクシーな陳坤 数年前より確実に若返って見えるけどどうなってるの?
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殆ど茶色一面の画面の中で光り輝くように美しい杨颖 アンジェラベイビー様
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疑わしい人々の間で唯一の安心材料 粘り強く安定感の権化のような白宇
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間諜という身分

最終話で楊儀が諸葛亮に事の顛末を伝えるシーンがある。その時諸葛亮が怒って発した「諜報を政争に用いたのは許されることなのか?」という台詞。この言葉に本作の結末の哀しみの根源があると思う。

荀詡も、陳恭も、翟悦も、柳瑩も、みんな間諜だ。特に荀詡と翟悦は諸葛氏に代々仕える密偵の家系の生まれ。だからみな間諜としての分や覚悟は備わっている。国や主君のために身を捨てる覚悟は、その命に「大儀」あればこそ
しかし本作の結末に感じた理不尽さは、政争に巻き込まれ、結果的に利用され、犠牲にならざるを得なかったからだ。

表舞台で語られる三国志の世界。本作はその舞台を裏で支えた密偵たちの、諜報活動の悲哀を描いたドラマなので、このエンディングは最初から織り込み済みではある。
だが、それにしても辛い。

ただ救いに思えるのは、たとえ犠牲となったにしても心休まる生活にりたいと願った本人の想いが、ある意味叶うからだ。そしてもう一人がその遺志を受け継ぎ、新たな意思を持って歩いていこうとするからだ。


陳恭、自害する翟悦との別れのシーン 风起陇西 微博


映像、衣装、美術等の世界観

写真でも伝わっているかと思うが、本作は衣装も映像もセットも全て色調をかなり抑えている。
照明がほの暗く、電気のない時代の夜の暗さがリアル。衣装も華美に流れず古風で、よく絵で見かけるような袖が長くてゆったり目な衣装が再現されていて興味深い。
諜報の話であるから、色彩が抑えられているのも雰囲気を醸し出すのにぴったりだ。
また映像もカメラアングルと光源の位置関係に工夫が見られたし、一コマ一コマに意味を持たせていることが伝わるカメラワークだった。このあたりは再視聴でじっくり味わいたいところ。


完全なるハピエンではないから気分爽快!とはならないが、非常に見応えのあるよいドラマを観たという充足感で一杯になる佳作だった。

もう一つこの機会に。
中国ドラマは女性が観るもの、という固定観念があるかもしれない。女性向けの作品が多いことは確か。ただ、老若男女が大河ドラマを観るように、本作のような作品群は年代性別問わず誰が見ても楽しめるのではないか

そんな意味で、僭越ではあるけれど宣伝の仕方にも工夫が必要かもしれないと思う。
また以前放送されていたような『バッド・キッズ』あたりのラインアップが最近途絶え気味なので、「現代劇枠」「サスペンス枠」などあればより幅広い層にアピールできる気がする

いずれにしても、いつも観るべき作品を率先して放送してくれるWOWOWさんには感謝しきりなのである。


お茶目な中堅実力俳優さんたち 风起陇西 微博




複雑に張られた伏線の回収を全て見届けることができたのか…
荀詡のように粘り強く何度も確認しないと味わい尽くすことはできないのかもしれない。そんな物語でした。
日本語でも難易度高かったので字幕を待って正解でした(笑)

また陳恭と荀詡に会いにいこうと思います。

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