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『ロング・シーズン 長く遠い殺人』 中国ドラマ 鑑賞記録

2023年春、中国での評判が伝わってきて第1話だけ観たところかなり難解そうなサスペンスドラマでした。これは上陸する!といういつもの謎の確信の下、日本語字幕になるのを待っていたところ、幸い秋からWOWOWで放送され、最終話の今年1月に合わせる形でイッキミしました。

10年に一度の作品という呼び声も高く、本作が獲得している豆瓣の評価は 9.4
一概には言えませんがスゴイですね! これに並ぶのはあの『琅琊榜』とのこと。益々期待は高まります。

今回はその感想です。

※このドラマは情報を入れずに観た方が楽しめる気がして、わたしは途中一切他の方の感想が目に入らないように注意していました。結果それはよかったと思っています。
以下の記事ではネタバレに注意はしますが、皆無とは言い切れません。
これから視聴される方はどうぞその点お気を付けてお読みくださいね。





原題 漫长的季节
邦題 ロング・シーズン 長く遠い殺人
監督 辛爽(シン・シュアン)
配信 2023年4月22日 腾讯视频
話数 全 12話

トップ画像 漫长的季节 微博


漫长的季节 微博



概要

中国東北地区の小都市、樺林。樺林鋼鉄という製鉄工場が街の産業の主軸を担い、人々はその盛衰と共に生きている。中国ドラマでよく描かれる舞台設定だが、そこではその工場内部や関わる役所、警察等の間で慣習化する癒着が事件の引き金になり勝ち。本作もそんな工場を中心としたコミュニティが舞台となる。

話は2016年から始まる。王響范伟 演)は以前、樺林鋼鉄の資材を運搬する機関車の機関士だったが、今はタクシーの運転手をしている。 運転手仲間の龚彪秦昊 演)が新しく買った車を彼に見せる。二人は義理の兄弟だ。
龚彪はお金を騙し取られたらしく、この車と同じ偽造ナンバー車が事故を起こしていることが判明、彼らは独自に捜査を始めることになる。

そうこうするうち場面は1997年に切り替わる。何が、どう、繋がっているのか分からないが、そこでバラバラ殺人事件が起きる。どうやらこの事件が、今(2016年)にも関係しているらしいのだ。

シーンは2016年と1997年-1998年を行ったり来たりしながら進むが、第7話あたりまでは話は広がるだけ広がって前には進まず、それぞれの繋がりが掴めない。時に軽妙な会話や描写が混じるものの、全体のトーンはどこか不安感が付きまとう。話がどこに進んでいくのか全く見当がつかず、地に足がつかないまま彷徨っているかのように妙な違和感に捕らわれ続ける。

登場人物は、王響の息子  王陽刘奕铁 演)、王陽が好きになる女子大生 沈墨李庚希 演)、独自捜査に協力する元刑事の 馬徳勝陈明昊 演)、2016年の王響と仲がいい女性  李巧雲刘琳 演)、同じく2016年に登場する 王響の息子 王北史彭元 演)、沈墨の弟 傅衛軍蒋奇明 演)、沈墨の叔父 沈栋梁侯岩松 演)、馬徳勝のかつての部下 李群唐曾 演)他。

サスペンスの体裁ではあるが、殺したのは誰か、動機は何かといったミステリーが主眼ではなく、描かれているのは "事件" という窓口から覗いた "人間の心" そのものだ。


中年私設捜査チーム(後方)が何かとコミカルに和ませてくれる
特にお気に入りは馬徳勝。3人のケミは最高であった 漫长的季节 微博



色使い、音楽

話のトーンは暗く陰鬱なのに比して、映像が明るい。それが妙な不協和音となって迫ってくる。色使いはポップで、かわいいとさえ表現できる。
その中で特に好きだったのは 龚彪の最期の場面。彼は掴みどころのないチャランポランな人物であったが、人生最後に改心した直後に宝くじで大当たりする。その瞬間の映像、明るい色彩の中で最高に幸せそうな笑顔で映し出される 龚彪のスローモーションが脳裏に焼き付いている。

音楽は、音楽出身の監督らしく凝りに凝っていて、OP/EDは12話全て違う楽曲が使われている。それぞれのエピソードへのマッチングが秀逸だ。監督のインタビューにも解説されている第10話EDの『美しく青きドナウ』(ヨハン・シュトラウス)は、あのエンディングが流れると同時にゾクゾクと戦慄が走るような体験だった。
他わたしが知っていたのは、第3話ED『月の光』(ドビュッシー)第5話ED『きらきら星変奏曲』(モーツアルト)だが、それ以外の曲も各エピソードにとてもよく調和していたと思う。


詩人になりたかった 王陽が 沈墨に自作の詩を聞かせるこのシーンは、とても美しく心に沁み渡る
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特殊メイク、他

龚彪を演じた 秦昊は体重増加と特殊メイクで目を疑うほど容姿を大きく変えていたが、事前に知っていたので驚かなかった。

それよりも、過去と現在を何度も同一人物なのか?と見比べてしまったのが 龚彪 の妻 黄麗茹を演じた 王佳佳だ。彼女は途中で美容整形をしているという設定なので、整形を施したという特殊メイクだったそうだ。鼻や顎にシリコンを付ける等、毎日3時間かかるメイクとメイク落としは肌に負担がかかり大変だったとのこと(王佳佳 微博)。
またメイク自体も過去とは全然違っていて、特徴あるブルーのアイラインで目全体を囲むメイクは東北人女性の典型だそうだ。実際、わたしが先日お会いした東北出身の方も同じ感じのメイクをしていらして、本当だわ!と感動。

他、キャラ的に一番好きな馬徳勝も、ラテンダンスで登場した時には一瞬誰だか分からなかった(笑)あれはカツラなのかしら?w


これはポニテにしているがバラっと乱れ髪の時など大変味わいのあるヘアメイクであった(笑) 
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余韻

さて、後半、話数が進むほどに全体像が徐々にハッキリしてくる。謎解き部分では解明していくのだが、それとは反比例してそれぞれの人間模様が胸に迫り始める

耳が殆ど聴こえない沈墨の弟 傅衛軍の気高さ…
王響の、王陽や妻、王北への想い…
馬徳勝の元刑事としての矜持…
龚彪の優しさ…

愛すべき人たちの選択が一つ、また一つと心に静かな余韻を残していくドラマだ。

全12話の本作だが、1話毎に長さがバラバラなのが珍しい。11話などは1時間47分もありWOWOWさんは番組調整が大変だったのでは?と拝察する。そのことも含め、キラキラ系俳優が一切出てこない本作を放送してくださった英断に感謝したい思う。

ミステリーとしても、最終話まで残る謎を少しずつ解決しながら最後まで引きつけるプロットも素晴らしかった。
少しの抜けもなく掃き清められたように綺麗に回収されるラスト。
温かいものが心に沁み込んでくるように舞い降りる雪
そしてそれまでの鬱屈を晴らすようなトウモロコシ畑と線路。
純粋に、いいドラマだった



この中年トリオが本当によかった! 漫长的季节 微博





素晴らしい作品でしたが、正直なところ大好きとまでは言い切れないのが少し残念です。なぜなら期待値が大きすぎました…。
もしも豆瓣や10年に一作、等のふれこみがもっと控え目だったなら、感動がもう少し大きかったような気がします。
そう考えると、やはりドラマって観るタイミングだなぁと思うのです。
中国配信時に躊躇なくリアタイしていたら、もっとインパクトが強かったのかもしれません。

同じ辛爽監督の作品でいうなら、わたしは『隐秘的角落』の方が好みでした。
でも、確かに、秀作であることに間違いないと思います!

拙い感想をお読みいただきありがとうございました。





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