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[見学つぶやき①]埼玉ピースミュージアム

見学日:2024年7月5日午前
※お断り:本シリーズは「どうせ記録するなら文章に」という思いで、あくまでも文脈も資料も何も調べていない状態で見学した後の主観的な感想です。またネタバレはバンバンするので自分で見て感じたい人はお気をつけください。


概要

 埼玉県東村山にある埼玉ピースミュージアム。渋谷から副都心線乗って直通で東上線の高坂駅に降りて、普通だとまたバスに乗り換えてバス停から坂に登っていくという、島に住んでいた人間からしたらすごく遠くてアクセスの悪い存在だった(大東文化大学の方に怒られそう)。今回幸いその辺出身の友達が車を出してくれて連れて行ってくれた。
 県立の平和資料館はおそらく相当珍しいく、友達(埼玉県民)も小学校の時は一回見学したという。とても暑い平日の昼間なのに、自分たち以外にも数組見学者がいた。丘の上にあって展望台もあるし、アニメの上映会や、平和と全く関係ない演奏など各種イベントも開催されているので、確かに近所に住んでいると週末のお出かけのついでに展示も見てみようという家族もいるかもしれない。職員は平和キャラバンといって出前授業も県内たくさんの学校向けにやっているようだ。

常設展

 最初はタイムスキップという意味で水平のエスカレーター(調べてみれば動く歩道というらしい)に乗って展示室に入る。入ると青い目の人形の話があって昭和初期の家の再現があって、そのあとガラスケースが時系列に並ぶ展示エリアと擬似体験エリアに分かれて、決まっている長い片道の順路に縛られないという点では自由度が高くて小学生でも見学しやすいかもという印象を受けた。

常設展示室

展示内容

 建物の立派さの割に展示スペースは思ったより広くなかったが、コンパクトにまとめられていてとてもわかりやすい。さすがに全県から資料が集まるからか、いい写真も多いし、実物資料もわかりやすいものがちゃんと選ばれている印象だった。米国公文書館のアメリカの空爆計画が空襲のところに貼られてあって、日本側以外の視点からも検証するという意図がはっきり見ええている。真ん中に風船爆弾と焼夷弾が上から吊るされていて文字と白黒写真だけで構成されるものよりは目線として休めるところがあって見やすいと思えた。
 ガラスケースの反対側に沖縄、広島、長崎コーナーがあった。概要がわかるパネル一枚と古い動画が流されているがそれ以外の説明は何もない。カミソリだけ書いて他の説明が一切なかったことは少し気になった。あえて書かないで知る人ぞ知るスタンスなのかやはり議論か何かがあって出せない状態なのかは不明。

擬似体験エリア

 再現された教室の中でまず戦時中の国民学校の修身科を再現した映像を観る。授業の途中で空襲警報が鳴り、教室を出てすぐ隣で再現された防空壕に隠れる。友達によると見学した記憶はこれだけが残っていて、クラスで入ると防空壕がぎゅうぎゅうになってしまったという。
 今までの模型はどちらかというと当時の人々を非常にリアルに作ることによって臨場感、怖さを感じてもらうものがほとんどで(浮かぶものだけで新宿の平和祈念展示資料館、リニュアル後のしょうけい館、沖縄平和祈念資料館、読谷の歴史民族資料館など、人形のない小規模のものならもっとたくさんある)、勉強にはなるがどちらかというと受動的に見るものが多い。本当の怖さが知れないからとか言って、追体験を否定的に考える人もいるかもしれないが、個人的には教室に座って修身の授業の映像だけちゃんと見てくれるだけですごく価値あることだと思った。
 子どもを巻き込んで戦争を推進する総動員体制を今の子たちにとってすごく理解しにくい。大げさに大東亜共栄圏を強調する先生に対して「ありえねえ」と思ってもいいし、「海軍になります」という男の子を笑って「そんなの俺だったら行かない」と思ってもいいし、「当時の子どもってこんな教育を受けていた」イメージが少しでもつくものであれば、「昔は食べ物がなくて大変で、今は平和でよかった」だけで終わるよりは100倍もいい。
 防空壕の隣に戦時中の家が入り口の家と同じ間取りの部分だけ再現されており、ご飯が粗末になっていたり、灯火管制がある部分だけ変わったので、見比べができてとてもわかりやすかった。最近流行りの異変探しゲームを想起させる。

映像

 古くて更新されていない3分間のアニメがまず入り口入ってすぐのところにあった。三画面のものは現代アートではわりとよく見るが戦時中の古い白黒録画だけを使って説明する映像としてはうまくできていると思った。またどちらもヨーロッパ戦線の話が混じっていて日本だけじゃないスタンスがよくわかる。「侵略」、「植民地が解放された」など文言も普通に使われている。

感想

 今から考えたら映像が古いとか全体の話を紹介して個人の体験が見えないところは更新してほしいが、太平洋戦争ではなく第二次世界大戦、世界史の中の日本、そして埼玉というスタンスはとてもよくて、総務省委託の3館と色が違うのがはっきり見えてくる。戦争のことを入門で勉強する子からしたら十分なのではないかと思える。

常設展以外のスペース

分類展示室

 2階には収蔵庫のような展示室がある。ガラスケースと横の引き出し、縦の引き出しがうまく組み合わせられており、ガラスケースには軍服など、横の引き出しには用品や飾り物、縦の引き出しから当時のかるた、すごろく、新聞などさまざまな紙ベースの実物が読める。まるで収蔵庫に入っているような気分になれるので構想としてはすごく面白かった。

一階の廊下

 ちょうど企画展がまだ始まっていない時期に行ったので、展示室のシャッターが閉まっていた。企画展示室の反対側には掲示板があり、出征したある兵士の写真が「可愛がってくれた先輩」など少し面白いキャプション付きでパネルにされた「ギャラリー展」が貼ってある。細かい時代の文脈の説明は一切なかった。「手間が少ないが意味のある」展示の参考になった。

広々とした廊下。友達は「ここで流し素麺できるよね」って。

つぶやき

 結論から言うと、今ある戦前から戦時下の資料の保存と利用にすこく力を入れている館だと思った。常設展以外の展示はそうだし、企画展は見れなかったが、買った図録のイメージでは一点一点の収蔵品をテーマごとに紹介する(特にかるた順に戦時中の様々な生活の側面が紹介されるものがとてもよかった)。「もの」に興味ある人は限りなく楽しめる内容だし、逆にそれ以外の視点、そこからはみ出た視点はそこまで重視されていない気もする。(例えば、個々人の体験は証言ビデオの部屋、そしてライブラリーのデータベース検索に「閉じ込められる」感じがする)館はそれぞれ強みがあるので、ものの扱い方という意味ではすごく勉強になった。

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