学びを通して地域と関わる・東京大学UT-1プロジェクト(地方創生の現場シリーズ)
0. ティーザー版
1. 社会連携による学び
UT-ONEは、学外からは詳細はわかりませんが、以下の資料によれば、東京大学で実施されている、新人向けのプロジェクト学習講座のことです。
UT-ONEはソニー社会連携講座 Ignite Your Ambition が2022年度から開始する、一年生3000人全員と同時進行を目指す超大規模な野心的セッションです。
2010年頃から、旧来の講義を中心とした受動的な学びに対するある種のアンチテーゼとして、アクティブラーニングというトレンドが盛んに喧伝されるようになって来ました。中でもPBL(Project Based Learning)、通称プロジェクト学習が多く試みられています。
但し、周囲でPBLと称しているものを見る限り、安易な商品開発を内容とするものが多く、端的に言って、PBL自体を教員側が理解していない例が多いように思えます。人文系の科目の中に、なぜ商品開発を導入するのか、正直言えば理解に苦しむ例をしばしば目にします。繰り返し的ではないプロジェクトであり、グループ学習(ソーシャルラーニング)であり、ゴール指向の課題学習であるという、最低限の条件がPBLを成立させますが、特に内発的に課題が作れない場合、あえて学外のセクターから課題を頂いて展開するものが、社会連携型のPBLです。
UTーONEのお話を伺うと、まさにその社会連携型のPBLに該当する内容です。SONYとの連携授業として、前期の特設サイトも設けて展開しています。いずれにせよ、社会連携型のPBLは個々の教員が片手間で出来るようなものではないということがよくわかります。
内容としては、いわゆるアントレプレナーシップの涵養を意図したものであり、いくつかのコースに分かれており、複数の企業との連携課題が設定されています。こうしたキャリアを想定した学びは、私学が先行していて、立教大学などは広く知られています。しかし国立大学でも、旧来の公務員や大企業といった進路以外のキャリアを想定した講座を開講するというのは、時代性を感じます。
その中で、海陽町で1次産業ベンチャーを起こしておられる(株)リブルさんとの連携で、あまべ牡蠣の販売促進のテーマを選択された、緒方さん、坂原さんのお二方にお話を伺いました。
元々地方創生そのものに関心があったというわけではないとのことで、殆どの大学生の本音でしょう。お二人とも理科系(理学、工学)だとのことでしたが、その辺りは文理無関係のようです。これは印象でしか過ぎないですが、自分の教育経験からみて、総体的に理系の学生は、社会に対する興味が薄いようです。ですので、こういう機会を通して、この国が抱えている大きな課題を知るトリガーになるのは貴重だと思います。
特に前職も含めて、社会連携型のPRLを展開されている教員に問いかけてみたいです。あなたの学びで、履修者はどういう新しい発見をしますか?既に知っていることを無理にその課題に適用していませんか?そして学びの解をあなたが誘導していませんか?
緒方さんは数学専攻だということですが、興味深かったのは、数学が好きだから学ぶので、将来の途とは別に考えているということです。我々の時代は、主に将来のために大学で役に立つことを学ぶというスタンスが中心だった気がします。それは今でも多くの大学生に共通した価値観だとは思うのですが、こうした新しい価値観を見てみると、新しい時代には新しい人たちが出てくるということを痛感します。起業の途も考えているとのことで、現在の大学においては、教養科目がより重要な位置を占めているのを痛感しました。ですので、下級生で専門科目を学び、上級生で教養科目を学ぶ方がいいのかもしれないと思ったりもします。
地方創生の文脈で言えば、学びによる関係人口の確保というテーマには大きな関心があり、その入り口としてこうした正規科目に注目をしています。
まず単位というインセンティブがあるのは当然ですが、明らかに日本の地域課題は、学びのモチベーションを高めるポテンシャルがあります。地方の課題は、都市部の学生にとって純粋に面白いんだと思います。殆ど知らないことでしょうし。
ですので自分の経験でもそうでしたが、都市部の学生さんは、学びの素材に対してエンゲージメントを抱くようになるのは間違いない話です。おそらく、この履修者の皆さんも、リブルさんとか海陽町のファンになるのではと勝手に思っています。実際自分の研究室の元学生も、今だに最初に足を踏み入れた過疎地である海陽町や、限界集落の九尾という地域に対して、強い思いがあるようです。たまに会って飲んだりすると、必ずその話になって行きますし。
こうした社会連携型PBLに関しては、巷間にあるものが玉石混交であり、専門的に研究する意図で、経営情報学会に研究部会を設立して長い間活動を展開してきました。
そこでの知見も様々ありますが、国立大学でもこうした試みが動き始めたのは、注目すべきトレンドでしょう。とにかく、ただでさえ社会性の希薄な大学の教員が個々の付き合いと価値観の範囲で行っている、自称「社会連携PBL」では、もう時代の変化に対応できないということを痛感します。何より、社会連携と称して学外から課題をもらわないと、教員の内発では同時代的な課題が作れないということを、現役の教員は認識しなければならないでしょう。
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