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ソーシャルリサーチ(Webとマーケティング 授業資料⑪)

ソーシャルリサーチをしてみる

ソーシャルグラフの特性について考える前に、ここまでの知識で、どこまでリサーチが出来るか、試みてみます。

まず確認です。Facebook、Instagram、Twitterの、代表的なソーシャルメディア上の情報発信は、どういうポリシーで使い分けていますか?
要するに、あなたのペルソナは、各ソーシャルメディアによってどう異なっていますか?

これは授業中に受講生の皆さんの匿名調査をしようと考えています。
以下のページに、企業による調査結果が公開されています。

恐らく皆さんが、直観的に感じていることとほぼ同じだと思いますが、
Facebookは、「実際の友達・仕事関係の人が中心で、ある程度面識がある人」が多く、Twitterは、「実際の友達・共通の趣味を持ったオンラインの友達が中心で、面識がない人」も多いとされています。
その意味で、テキスト中心でありサイコグラフィックによる繋がりが含まれているので、ソーシャルリサーチには、Twitterが主に使われると考えていいでしょう。

リサーチしたいのは、本授業の課題の一つですが、「大学生、女性」というデモグラフィック属性を持った人たちの「典型的」なサイコグラフィック属性を中心とした女子大生のペルソナです。
ソーシャルメディアというプラットフォームを利用したソーシャルリスニングですので、単に検索をすればいいというわけではありません。

まず理解しておくべき考え方に、「エスノグラフィ(ethnography)」があります。
これは、民族学や文化人類学などで広く行われている研究手法で、フィールドワークによって行動観察をし、その記録を残しながら、現象を記述しモデル化する手法のことです。

エスノグラフィ(Ethnography)は,フィールドで生起する現象を記述しモデル化する手法である.文化人類学における未開の民族の調査に起源をもち,その後,社会学で逸脱集団や閉鎖集団の生活 様式を明らかにする方法として用いられるようになった.
近年では,教育学や看護学において日常的でミクロな生活世界や対人関係を解釈する方法としても用いられている.記述とは,フィールドへの参与 観察によりデータを収集し,その分析を通して現象の構造とプロセスをストーリーとして描くことである.

マーケティングでも、このエスノグラフィ手法を利用したエスノグラフィ調査が行われています。そこでは、特定の商品やサービスにフォーカスを当てるのではなく、調査対象者の行動観察を行うことを内容とします。上記の説明でわかるように、そこから、人々の日々の生活像を明らかにして行きます。
この手法は、ペルソナづくりに有効なのはわかると思います。特にソーシャルメディア上に残されている発信やそこから推察できる行動を観察して、基礎データを集めていくわけです。

尚、ソーシャルメディアを用いた観察対象を、自分に設定することで、自己分析ができるということは指摘しておかねばなりません。ペルソナとしての自分を客観視することを、デジタルセルフと呼びます。
例えば、自称詞の変化によって、自意識の成長をみることができますし、どういう出来事に反応しているかによって、社会性の獲得を見ることが出来ます。また繋がりで言えば、どういう時代の繋がりがあるのかによって、自分に対する影響を測ることもできます。

これらの考え方を前提に、ソーシャルリサーチ、リスニングの例を考えて行きます。あくまで、一つの手法例ですので、受講生の皆さんは、個々で試行錯誤してみてください。

ここでは、リスニングを通して、様々な会話やバズを拾うために、Twitterをプラットフォームにします。
着目するのは、ソーシャルメディア上の繋がりです。ソーシャルリスニングの基礎データとするために、まずは特定の繋がり(広い意味でのクラスター)を見つけ出します。

そのためのプロセスとして、以下の流れを考えてみます。

1.ソーシャルグラフの起点ノードを見つける
2.それらの繋がりから、共通するデモグラフィック変数を持ったノードを見つける
3.それぞれの発信や対話などを可視化する


まず、①デモグラフィック属性が明確な起点となるユーザを見つけます。
一つの考え方として、よりメジャーに近いデモグラフィック属性を持った人を探します。ここでは、女子大生のペルソナリサーチですので、大学生について考えます。

まずリサーチの前提として、考えてみましょう。

日本に大学はいくつありますか?
大学生は何人いますか?
その中で最も学生が多い専攻は何でしょうか?
最も大学が多いのはどの地域でしょうか?

これらのデータに基づいて、まずは基点となる「誰か」を探します。
つまりこれから得るリサーチデータは、どの位の規模観を持っているのか、その中の最もメジャーな人からリサーチを始めます。

総務省統計局のサイトから、「日本の統計2020年」を参照して、データを整理しましょう。
学校関係のデータは、文部科学省による統計調査「学校基本調査」で集計されており、総務省統計局ではそれらが集計されて公開されています。

そこから、この問いかけについて、整理してみます。
まず国内の大学の数は、2019年5月の時点で、782校あり、学生の数は2,909,159人となっています。ちなみに専任教員の数は、187,163人です。
782校の内訳として、国立86校、公立93校、私立が603校です。

全大学生2,909,159人のうち、男性が1,628,753人、女性が1,280,406人、女性の割合は男性より低く、7割8分程です。
学生の数も学校数に比例して、国立608,969人、公立155,520に対して、私立は2,144,670人と圧倒的に多いです。
私立大学の女性の数は、983,399人で、女性の大学生の中の、7割6分強、大学生全体から見れば、3割3分強の数になります。

地域別で言えば、東京が138校で、大阪55校、愛知51校と続きます。神奈川、埼玉、千葉の東京圏では、223校で、全国の2割8分の大学があり、大学生の数でも4割が東京圏に居住しているということになります。

専攻で言えば、人文系が365,163人、社会系が837,240人、その他に、家政、教育、芸術が、計332,937人、いわゆる文科は、合計すると1,535,340人、理学、工学、農学、保健、商船の、理科は、867,379人ですので、文科の学生が過半数を占めています。また文科における女性の比率は、人文系が6割5分、社会系が3割5分となっています。

ごく分かりやすい結果ですが、東京圏に居住し、私学に通学しており、人文系を専攻している女子学生が、比率的には一番多いということになります。
但しあくまでもリサーチの起点となるノードですので、これだけで一般化は出来ません。

次に、それら大学生のSNS上の繋がりに関して整理しておきます。
これらに関しても、既に広告代理店やマーケティング系のシンクタンクなどが調査を行っていますし、総務省でも「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の中で、ソーシャルメディアに関して取り上げています。

しかしこれらは、利用率や利用時間などの、ユーザのメディア接触が中心で、マスメディアとの対比でソーシャルメディアが捉えられているのがわかります。

ここでは、ソーシャルグラフを辿りながら、リサーチを行うための起点となるノードを探したいわけですから、少なくともソーシャルメディアのユーザが、どの位の繋がり(次数)を持っているのか、そこでどういうコミュニケーションがなされているのかを知っておく必要があります。

若干古い調査ですが、電通が以下のような調査結果を公開しています。

「SNS100友調査」
100人以上の友達を持つソーシャルメディア利用者を対象にした、友達関係意識調査だそうですが、調査方法としては、公開されているSNSのデータを手作業で集計したようです。母集団は、15~37歳までの男女で、mixi、facebook、twitterを対象としています。時代的に、現在のデータとは若干違うことも推定されます。
以下、そこからの引用です。

平均友達数が256人12のコミュニティに参加。ミニブログ利用者では、6割以上の友達と「ネットだけの交流」。
参加しているコミュニティは、「趣味」つながりがトップで65%。
ネットでの振る舞い方は、「なるべく空気を読む」が44%。
ソーシャルメディアでの友達は、「同質さを確認」しあうことから始まる。

ここで言う「ミニブログ」とは、Twitterのことで、当時はそういった捉え方がなされていました。

実は、ソーシャルグラフの数的な性質に関しては、余り実態調査されていません。おそらく電通の調査が唯一に近いと思います。
ここで注目したいのは、「平均友達数が256人、12のコミュニティに参加」という部分です。
次数平均が256、クラスターは12ということですが、これに関してはもう一度リサーチをしたいと思います。

以前、2017年の開講時に、調査したデータがありますので示しておきます。各ソーシャルメディアに対する、繋がりの数を受講生(140名弱)に申告してもらい、次数分布と平均、中央値を取ったものです。

次数

この時は、3つのソーシャルメディアの他に、LineとMixiを調査しましたが、Mixiは既に母数がゼロに近く、データは取れませんでした。

図に示すような結果になったのですが、ここではTwitterに着目します。平均値で言えば、Twitterではフォローしている数が302.78で、フォローされている数は384.6でした。
電通の調査よりも時代が下っており、大学生の場合、入学を切っ掛けで使い始めるケースが多いようです。

平均が300台ですので、この辺りがリサーチの起点を見つけ出す基準になりそうです。

以下、リサーチに関する留意事項です。
特にTwitterとInstagramのフォローされている数に顕著なのですが、平均値だけではなく、中央値で求めると、平均値とは大きく異なっています。

分布現象を起こしているある母集団を理解するために、その集団の代表値を求めることを行います。統計処理の出発点は、そこにありますが、代表値には、平均値(mean)と中央値(median)、さらに最頻値(mode)という種類があります。数値データは、平均を用いるのが普通です。
しかし平均は、成績や身長、体重のように、ある程度のデータのリミットがある場合有効です。成績はどんなに頑張っても、100点満点でしたら、それ以上は取れませんし、身長も体重も、人間という生物でしたら、ほぼ限界があり、ゴジラのようには決してなりません。

しかし、青天井のデータの場合、平均は実態とかけ離れてしまうことが多々あります。
例えば、日本人の世帯当たり平均貯蓄額をご存知ですか?
家計調査報告によると、2018年の2人以上の世帯の平均値は、1,752万円です。

実感が無いと思います。貯蓄はいくらしようと、自由ですから、飛びぬけた値(外れ値)があると、平均値は急激に変動します。
中央値は、大きさの順番に並べて真ん中の値を代表値とするものですから、貯蓄額も中央値にすると、もっともっと値が下がります。

実は女子大生の中には、読者モデルだったり驚くほどのInstagramのフォロワーを持っていたりする人が少なからずいます。その人がこの集計に入ると急激に値が左右されてしまいます。この年も、モデルとして名前を知られていたインスタグラマーの走りのような学生さんが履修していましたので、次数に外れ値があったわけです。
ですので、ソーシャルメディアの次数に関して、平均値という値はそれほど実態を表すものではないと考えたほうがいいでしょう。

平均値の付近にデータが集積するような分布を、正規分布(normal distribution)と呼びます。この場合、平均値と中央値が一致します。
しかし現実社会にある様々な分布は、決してそうした形をとるわけではありません。
極端な値をとるデータの数が多い場合、例えば、サンプルのほとんどがゼロの値を取るが、ごく一部のサンプルは極端な値を取る場合が、しばしばあります。こういう、大きな値の方向に向かって長くなだらかに裾野を伸ばしていくものを、べき分布(Power distribution)と言います。

自然現象としては、地震の大きさと発生頻度、山火事の被害面積ごとの発生頻度、さらに経済現象としては、株価、為替などの市場価格の変動、所得の分布、資産の分布、社会現象では、本の売上分布、論文の数と引用された回数の関係、戦争の発生頻度と死者数などが、べき分布を取る例として挙げられています。

要するに、平均的な何かがその母集団の実態を表していないもの、典型的な例が存在しないものと言えます。
例えば、ある年のある授業では有名なタレントさんが履修者だったことがあります。彼女をこの母集団に加えた場合、平均値と中央値が大きく離れてしまうのは想像できると思います。

ここでは、繋がりを追っかけるために、デモグラフィック変数が明確なTwitterユーザを1名選びますが、次数が飛びぬけていないことと、例えばフォロワーとフォローの数が余りかけ離れてないことを条件で選び出してください。
また遊休アカウントではないほうがいいでしょう。

起点

これから、その人のプロファイリングをして行きます。
こうした条件でTwitter上のある人を抜き出しましたが、公開されているアカウントとは言え、いろいろ差支えがあるでしょうから、ここでは仮にAさんとしておきます。
そこから、フォロー、フォロワーをリストアップします。

どういう人が繋がっているのか、特にフォロー先で、公人、有名人ではない人を外してみると、私的な繋がりが見えて来ます。
今回は、女子大生のペルソナですので、繋がりのある女子大生を抽出してみます。
実際には、マーケティングに使われる分析ツールなどを使って、この一連の作業をやりますが、今回は原理を知るために、めんどくさいですが、手作業で行ってみましょう。

例えばAさんは、都内にある大学の2年生で、社会系の学部に所属しています。382人のフォロワーがいます。
2020年の4月からアカウントを運用しているようで、サークルの勧誘などの目的に使っているようです。
フォロワーを分析してみると、フォロワーのうち同じ大学で、女性は、126人いるようです。つまり、この方が126人とのコミュニティを作っています。

ここまでで、まず基準となるソーシャルグラフが出来ました。
この後、この繋がりの中でのやり取りを考えて行くわけです。

以前述べたように、Twitterでは、ユーザIDを中心にオプション設定をして検索をすることができます。
抽出したAさんの繋がりを元に、指定ユーザ自身が発信したツイートや、ツイートとリプライ等を検索して抽出することが出来ます。

但しこれでは、単にTwitterの会話を視覚化しているだけですので、ここからは仮説を立てながらリサーチしていくことにします。

以下余談ですが、マーケティングのリサーチとは言え、自分とは全く繋がりの無い特定の女子大生のSNSを分析しながらプロファイリングをしていくのは、結構なストーカー気分に浸れます。
ある学生が、「他人のSNSを見るって痴漢みたい」と宣っていましたが、まぁさもアリなんと。しかし、公開しているということは、どう見られても構わないということでもあるわけです。
学生さんたち、いわゆるディジタルネィティブと、我々教員とは、こうしたディジタルメディアや技術に関する感覚の違いを感じることもよくあります。就活や初対面の人と会う時は、我々は当然のように相手の検索をします。同じように、自分がどう見られているかを、エゴサ―チとしてチェックすることもよくやります。しかし学生さんは「エゴサ―チはキモい」と断言します。
今、20歳くらいの学生さんは、1990年代後半から2000年生まれで、丁度デジタルとアナログの汽水域に育っています。まだアナログで自分の写真を撮った経験がある人も結構います。スマホやSNSに触れるようになるのは、中学から高校生位でしょう。先ほどデジタルネイティブと言いましたが、個人的には、学生さんを見ていると半端なデジタルネイティブっぷりを感じることがあります。
ベビーカーの上でスマホ触ってる子供、赤ちゃんに近いですね、を見たことがあります。こういうボーンデジタルなデジタルネイティブは、おそらく今の学生さんとは、メディア感覚などは相当違うのではないでしょうか。
要するに、学生さんは中途半端なデジタルネイティブでしか過ぎないので、こうした微妙なデジタル倫理観を持っているように思っています。
はい、学生さんに喧嘩売ってます。

※トップ画像は、「日常」をテーマにした「とみえり」さんの写真をお借りしました。光に溢れた写真が気に入っています。感謝申し上げます。


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