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Webとマーケティング 授業資料(16)

改めて人の繋がり

ここまで、少し遠回りしましたが、ソーシャルメディア上に点在している人々の対話の断片を、拾い集め、形態素解析をして頻度をカウントし、さらに共起などを元に、会話の連鎖を抽出して、サイコグラフィック変数を明らかにする試みをしてみました。
実際には、ツールを使ってもっと大量のデータを扱いますが、ごく僅かのTweetでも、デモグラフィック変数を元にユーザを選別して行くと、それなりの結果を得ることが出来ます。
いかに人々が、SNSでは無防備な発言をしているかということでもあるわけですが、特に目的性を明確にしたり、特定の商品、サービスなどを前提にすると、市場にある多様な意見を収集することに、大きな効果があることはわかると思います。

ソーシャルメディアは、主に利用者同士のコミュニケーションに使われておりその会話がインターネット上で見えるようになることが、特にマーケティングにおける本質的な価値と言えるでしょう。

ですので、ソーシャルリスニングとは、ソーシャルメディアから消費者の生の声を収集、分析し、マーケティングに役立てる手法を指すわけです。

さて、人の繋がりの持っている特徴について考えてみます。
繰り返しになりますが、①低いネットワーク密度、つまり、頂点数の多さに対して、各頂点の次数の合計が低く、ネットワークの密度が低く粗いということと、②比較的高いクラスター係数、ノード群がクラスターとして塊になっており、クラスター係数が比較的大きいという、2つの特徴に関しては、既に述べました。
この2つの特徴は、まぁ直観的にわかるものです。
全員が繋がっているということではなく、また小さなグループがそれぞれ独立して存在しているというのは、大教室だけではなく、居酒屋などでもそうなっていますよね。

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以下の図は、本学の学生のFacebook上の繋がりを、体育館で紙テープで繋いだものです。

繋がり

左側は、下級生の演習科目で、この科目は全学部生を対象にしているので、学部が違う学生が集まっており、この通り、繋がりは殆どありません。しかし右側は、専門演習(ゼミ)科目の繋がりなので、ほぼ全員が繋がっている完全グラフ状態になっています。
ゼミは学内にいくつもあり、ほぼ全ての学生がゼミに所属します。ですので、学校の中には、こういう緊密な繋がりが多数あります。しかしそれぞれは独立しており、どんな小さな学校だとしても、全員が繋がりということはあり得ません。

以前にも示しましたが、ある高校の感染症の感染経路図も、かなり特殊なものですが、そうした性質をこの図からも見ることが出来ます。

つながり

つながり-社会的ネットワークの驚くべき力-,ニコラス・クリスタキス 講談社2010より

結論から言えば、多くの人たちは、ソーシャルメディア上の繋がりも、こういったものだと思っています。居酒屋の中の会話のようなもの、確かに表面上はそう見えます。
ですので、仲間内のざっくばらんな会話を、ソースシャルリスニングによって集めることができるわけですが、もう一つ、人の繋がりには特徴があります。なかなかそれは可視化することが出来ないために、気が付きにくいのですが、実は炎上を引き起こすのは、この3つ目の特徴があるためです。
炎上ということは、情報が伝搬することですが、感染症で言えば、広く病気が蔓延することでもあるわけです。
人間の繋がりには、もう一つの特徴があります。

炎上を例に、考えてみましょう。
情報に纏わる様々な出来事は、伝説になっているものが殆どです。
おそらく一番有名なのは、アメリカのラジオ放送での出来事ではないでしょうか。
1938年10月30日に、アメリカのラジオ番組「The Mercury Theatre on the Air」で、放送された放送劇で、音楽中継の途中に突如として臨時ニュースとして火星人の侵略が報じられるというもので、多くの人がパニックになったと言われています。
現在では、その時の番組の録音を聴くことも可能です。自分自身も、ある本の執筆のためにいろいろ調べてみました。裏番組のことや、新聞記事がなども残されているのですが、何よりその場には立ち会っていないので、後から伝説化されているというのが正直なところです。
要は、こうした情報が引き起こした出来事は、後からきちんと検証はできませんでした。

しかしデジタルの時代では、全ての記録がそのまま残されています。ですので、デジタルの世界で起こったことは、未来永劫に残ります
その情報源を消去したとしても、ネット上では、どこかに残っています。
全てのWebを保存しようとしている、アーカイブサイトがありますし、検索サービスで知られているGoogleも、自社の中のサーバに様々なWebページを保存しています。

これを、デジタルタトゥーと呼ぶこともあります。
ネット上で公開された書き込みや個人情報などが、一度拡散してしまうと、完全に削除するのが不可能であることを意味します。こうしたアーカイブサイト自体の存在も、それを支えています。
同じタイトルのドラマもありましたし、ACジャパンのCMにもありますね。

実は、ここで述べる例も未だにネット上で個人情報として残っていますので、詳しく述べることはし難い話です。
簡単に言えば、ある大学生が、バイト先に有名人が来たということをツィートした、それだけの話です。

2011年1月11日の、22時50分に、そのツイートが書き込まれます。内容はたわいもないものでした。
しかし、翌日の21時5分に、そのバイト先の総支配人から、店舗のWebにお詫びが掲載されます。その翌日13日には、スポーツ紙に掲載され、数日内に一般紙にも次々と掲載されます。
ツィート主は特定され、個人情報や写真までも公開されて行きます。一説には、バイト先から多額の損害賠償を請求されたと言われていますが、そのことよりも、その人の名前で検索すると、その全ての情報が一気に明らかになるとこの方が、遥かに大きな問題でしょう。まさにデジタルタトゥーです。

幸いなことにと言うべきか、その後東日本大震災が起こり、こうした個人レベルのニュースは、誰も気にしなくなりました。しかし、その人の名前とTweetは、未来永劫にネット上に残り続けます。これはとても恐ろしいことだとしか言えません。

ツィートからお詫びまでに何があったのかは、様々なまとめサイトに掲載されています。簡単に言えば、ソーシャルメディアを使ったプロファイリングなので、ここでは触れません。

表には、筆者が分析したツィートのやり取りを示します。
最初のツィートから誰に対してどういう会話がなされたかという記録です。
22時50分から23時51分のツィートまでは、強い紐帯です。日常的にやり取りがなされており、おそらく同じデモグラフィック属性を持っていると推定できます。

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要するに、仲間内の会話です。実際、このツィート主は、他にも有名人の来店に関するツィートをしばしばしています。

久々にバイト先で芸能人見たーXXが店に来た…!
うちにXXが泊まってるらしい!会いたいー笑
明日もバイトなわけだが…明日は超超VIPな人が来る。うちのレストランのマネ2人が玄関に迎えに行く程の。警視庁のSPが警備に来るとかどんだけwwwwww
XXのXXとXXのCEOwwwww たぶん円高への対応と中国と今後の日本経済についての密談じゃないかな?
明日XX来るらしい 背とか何もかもが大きくて迫力ありそう(笑)
ていうか今日もXXの社長くるっぽい。またSP来るのかな…

もう見るからに危ない書き込みですが、これらが問題にならなかったので、その延長だったのでしょう。
実際その頃、ツィートの対象になったスポーツ選手に纏わるツィートも、多くの人がしていましたので、軽い気持ちだったと推定できます。
企業のVIPよりも、スポーツ選手とモデルの恋愛ネタの方が拡散するという事実を見る限り、Twitterも俗なメディアでしか過ぎませんが、と言うより多くの人間は俗物でしか過ぎませんが。

最初のツィートから3時間50分経過後、翌日の2時40分に、このツィートがリツィートされます。返信ではなく、リツィートですので、このツィート主は、元のクラスターとは無関係だったようです。以降、返信はなされないまま、リツィートが続いていきます。つまり、本人とは無関係な場所で、このツィートが流れて行ったということです。つまり、3時間50分経過以降は、発信人とは弱い紐帯でのコミュニケーションです。
その多くが、あるスポーツのファンで、元のツィートのクラスターとは全く異なったクラスターになって行きます。

異なものを繋げるもの

この一連の流れで、人間の繋がりが持つ、一つの特徴がはっきりわかります。

人間の繋がりでは、緊密な塊が多く存在しています。このツイートでも、元の小さなクラスターがあって、そこでは同じ価値観を持った人たちが集まっています。そして、それらが相互に隔絶していて、バラバラにネットワークを構成しています。
そこまでは、我々が直観的に分かる点でしょう。
しかし、それらの小さなクラスターが、ある瞬間に繋がることがあります。今回のように、人の好奇心をくすぐるような情報の場合、それが顕在化します。
つまり、個々の小さなクラスターが、ショートカットで繋がっているということが、3つ目の性質です。
例えば、感染症のグラフでは、図のようにAとBの間に直接の繋がりがあるとしてください。

ショートカット

そうすると、右半分のクラスター群と左半部のクラスター群がより近い経路で繋がることになり、感染症の蔓延速度は倍加するでしょう。
こうした、異なったクラスター群を結びつける役割を持ったノードを、ネットワークの世界では、ブリッジと呼んでいます

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例えば、上の図は、電話回線の回線多重化装置を含んだ電話網の模式図です。多重化装置とは、いくつかのデータを、大容量で高速な1本の通信回線に多重伝送するための装置のことですが、ここではその詳細は置いておいてください。
この通信網の場合、多重化装置が、左右の電話網を繋げているのはわかると思います。ブリッジとはこういう役割を持ったものです。
特にこの場合は、このブリッジが機能停止してしまうと、ネットワークが分裂してしまいます。これをネットワークの切断点(Cut Point)と呼びます。
これらのノードは、このネットワークの中で多くのノードの接続を媒介しており、こうした性質を、媒介中心性(Betweens Centrality)と呼びます。
ネットワークの中で、多くの次数を集めているものを、次数中心性(Degree Centrality)と呼び、他のノードへの平均距離が近いものを、近接中心性(Closeness Centrality)と呼びます。

つまり、ブリッジによるショートカットで、頂点間の距離が短くなっています。①低いネットワーク密度、②比較的高いクラスター係数、そして③小さい平均頂点間距離という3つの性質が、人間の繋がりにはあります。
これによって起こる現象を、スモールワールド性(Small world phenomenon)と呼んでいます。

このCMを見てもらえますか?

2011年にLIXILという企業が、トステムやINAX等が統合して、発足した時に流れたCMです。

さて、ここには何人出てきましたか?

堤真一さんが、「LIXILって知ってる?」と問いかけられ、また彼に戻ります。複数の会社が統合したということを示しているのでしょうが、これはスモールワールド性をも示しています。

六次の隔たり(Six Degrees of Separation)と言う言葉を聞いたことがありませんか?
世界中の人々は、6回の繋がりを隔てると、全てが繋がっているという経験則、あるいは仮説のようなものを意味しています。ソーシャルゲームで知られている、グリー株式会社の社名の由来にもなっているそうです。

自分たちは、自分たちのクラスターの中で会話をしているつもりでいる、しかし、ネットワークのどこかでブリッジの役割を持った人間がいて、別のクラスターに情報を運んでいきます。
同じ価値観の繋がりではなんてことのないこと、ごく普通のことでも、違うクラスターでは全く違う捉えられ方をすることもあります。
炎上とは、情報がクラスターを飛び超えて広がって行くという点に起因するといっていいでしょう。

では、ネットワークの中では、誰が炎上の切っ掛けを作るのでしょうか?
ここで述べたように、①ネットワーク上のブリッジとなっている人が、その役割を果たします。実は、もう一つあります。ブリッジであること、なおかつ、②??な人、それが、最終的に大きな人々に影響を与えていきます。
どういう人が、炎上の切っ掛けを作るのでしょうか。

次回に続きます。

※Topの画像は、3villagesさんのレインボーブリッジの写真をお借りしました。ありがとうございました。


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