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桜の美しさ

「試合ってのは、これ(花)ですよね。練習で本来こっち(幹)が作られてくるんでしょうね。」

この言葉は、昨日引退を表明した、プロボクシング元WBA世界ミドル級スーパー王者・村田諒太さんのものです。

昨年4月9日の“世紀の一戦”を戦い終えた翌日、彼はNHKのインタビューに答えています。上記の言葉は、そのロングインタビューの中で語られた一節です。

彼は、ボクシングを通じて、勝敗だけではなく、人間としての弱さを乗り越えることを目指してきた、と語ります。
しかし、そのための試合ができない日々が続きました。コロナ禍で、試合は7回にわたり延期や中止。2年以上、闘うことを許されなくなったのです。

そんな時期、試合を見据えて練習に打ち込むモチベーションを持ち続けることに苦しみ、

「ああもう嫌だと。なんできょうジム行くんだと。いや、でも俺は機械なんだと。もう淡々と、別にモチベーションは関係ないと。淡々と俺は練習をするだけの人間、それでいいんだと」

こんな風に思い詰めていた3月、練習の合間に公園に立ち寄った彼は、ある桜の木を見てこう考えたそうです。

「(試合をする自分は)この桜みたいに、パッときれいに見えたかもしれないけど、やっぱり人生こればっか咲かせようと思って、
 こっち(幹)を見てなかったですもんね。
 試合ってのは、これ(花)ですよね。練習で本来こっち(幹)が作られてくるんでしょうね。

 人間としてどうあるかとか、何も花が咲かなくなった、試合がなくなった、注目されなくなったときに、この幹がしっかりしているか。

 これが人間としてしっかりとしているかどうかなんでしょうね。

 それがないと、永遠にボクシングをしなければ輝かない人間になっちゃいますよね。

 これ(幹)がある限りは、ことし咲かなくても来年咲かなくても、何年後かには咲く。結局強さってここなんだろうな」

ある写真家(スミマセン!覚えてないので・・)が桜についてこう語っていました。

「桜の美しさは、実は幹や枝なんだ。樹皮の色が濃く、漆黒の枝や幹に、可憐な花が咲くのが魅力なんだ。」

満開の桜は、春の訪れを可憐な花で知らせてくれます。特に今年は、みんなで桜を愛でることができる喜びがあふれています。

だから、今はしっかり花を愛でよう。でも同時に、必ず幹の部分もしっかりと愛でておこう。
人は、ついつい花だけを見てしまいます。でも、その花の美しさは、春までの長い間、地面から栄養を取り込む根と、それを蓄えるしっかりした幹があるからこそ、なんだ。誰かに愛でてもらえなくても、しっかり根を張って、幹を太くする。そんな風に強く生きる人になりたい。

めぐってきた桜の季節に引退を発表することを、村田さんが選んだのも、そんな決意があったから、かもしれません。

「誰かに愛でてもらえなくても、しっかり根を張って、幹を太くする」

これから、桜の季節を迎えるたびに思い出し、心に刻み続けたい、そんな言葉に出会えました。

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