宇宙がくれた秘密【ショートショート】
あ~、今日も眠いなー。
授業前、まぶたの開き具合から眠いことを再確認する。
「朝6時から1時間も走れば、眠くもなるよね。」
そうつぶやき、私は机の上に形ばかり教科書を準備する。
今日の朝練もハードだった。念入りなストレッチから始まり、ジョギングし、最後は筋トレだ。高校生の有り余る体力をもってしても、一日中元気で授業を受けるには運動量がハードすぎる。
今日は、前期最後の登校日。
みんな、夏休みに入るのがうれしくてそわそわしている。
そんな中、私はため息をつく。
放課後は暑い中また練習だし、来週からは合宿が始まる。憂鬱なことこの上ない。
今は、この授業の後の昼食だけが楽しみだ。
「売店でクッキーメロンパン買おっかな、それともやっぱり学食でカツ丼かな~」
脳内が食べ物で一色になったところで、教室に先生が入ってきた。
「遅くなってすいません~、授業を始めます」
地学の梨木先生は、おっとりとした、小さな熊みたいなおじいちゃん先生だ。
急いで来たのだろう、ふうふういいながらハンカチで汗をぬぐっている。
「今日は、ビデオを見ます~」
先生がそう言うと、教室には小さな歓喜の声が広がった。
もちろん私もその一人だ。
寝れるやん!!!
本当に失礼ながら、「ビデオ学習」と聞いた瞬間、この授業で寝ることが確定した。女子高では、寝ることは恥ではないのだ。
午後に備えて、体力を蓄えることにしよう。
そう思って寝る態勢を整えると、5秒も経たないうちに、眠りに落ちた・・・。
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ふと目が覚めて画面を見ると、何やら緊迫した状況。
どうやら、大事故に見舞われた宇宙飛行士のドキュメンタリーらしい。
回想シーンでは、寒さに震えながら、懸命に対処を試みる宇宙飛行士たちの様子が再現されていた。
さっきまでの眠気はすっかり吹き飛び、画面に釘づけになる。
酸素や水も少なくなり、どんどん絶望的な状況になる機内。
そんな中でもリーダーシップをとり、軌道修正を続ける船長。
「どうなっちゃうの?!」ハラハラしながら、行方を見守る。
そして・・・ついに海上に着水。地球に帰還した。
その後インタビューで、泣きながら当時を思い出す船長。
「あきらめなかった・・・最後まで・・・」
感動で、私は涙をこらえられなくなっていた。あたりをふと見渡すと、なんと全員寝ている。いつも真面目に授業を受けている子までだ。
後ろを振り返ると、一人だけ起きている子と目が合った。
普段はあまり喋らない、菜穂ちゃん。そして、私と同じように涙を流している。
もう一人目頭を熱くしている人がいた。梨木先生だ。
菜穂ちゃんと私、そして梨木先生。
じりじりと暑い夏の、3人だけの秘密。
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