圧縮_RWCカメラ席

新聞社のフォトグラファーに不可欠な「意外」な能力

新聞社のフォトグラファーに最も必要な能力は何か?

一瞬を逃さない瞬発力。
いやいや一瞬を逃さないためには「忍耐力こそ必要」という人や、「少し先の展開を読む予測力」という人もいるかもしれません。
もしくは「生まれ持った運」と開き直る人も笑
(冗談抜きにすごく重要!!)。
このあたりは実際に働いたことのない人も、なんとく想像がつくと思います。

でも、実際に働いてみて初めて気付いたとっても、とっても重要な能力がありました。それは間違いなく、日刊の「新聞社」(一般紙、地方紙、スポーツ紙問わず)に属する全てのフォトグラファーに求められる能力です。

何だと思います?

撮った写真を送る能力」です。


現場で撮影した写真を編集・発信する「本社」に、できるだけ早く(締め切り時間内に)、確実に届ける能力です。

なぜなら、どんなに苦労して、どんなに良い写真を撮影しようが、本社に届けて発信してもらわないと、その写真は存在しないことになるからです。
極端に言うと、送信されなかった写真は価値ゼロ。取材していても、取材取材していないのと同じ。撮影していても、していないのと同じになります。


災害現場では、消防、警察、自衛隊の救助・捜索、医者の応急処置、ボランティアの活動は目に見えて役に立ってるのに、マスコミがいる意味はその場見えづらく、「泥かきした方が絶対、助けになるよなぁ」「水のひとつでも持って行った方が助かるよなぁ」と、被災した人を取材するたびに申し訳ない気分になります。

もちろん、何が起こっているのか伝えることはとても大事だと信念を持ってますが、現場に行くと、やはりどこか自らの存在意義に不安を覚えます。
もちろん、その後、記事が掲載されて反響があったり、特に取材した相手から感謝されると、取材してよかったと安心しますが。

でも、記事も写真もせっかく取材したのに、それを本社に送れないと、無かったことになり、存在意義、存在価値がほんとうに0になってしまいます。いや、こちら側が価値無しになるのはまだしも、取材を受けてもらった相手の貴重な時間や労力、思いを、ただただ浪費させてしまったことになります。


だから、良い新聞社のフォトグラファーは、写真を撮るための能力50、写真を送る能力50でできていると本気で思っています。
それくらい、写真を送る能力は重要なんです。



じゃあ、「写真を送る能力」って具体的に言うと何?

と聞かれると

①インターネットがつながり、パソコンが作動する環境を常に整える
②限られた時間のなかで、適切な写真を選び、正確な写真説明をつける

能力です。


まずは①についてもう少し具体的に説明します。

新聞社のフォトグラファーはみなデジタルカメラで撮影します。
パソコンが正常に作動しインターネットにつながってさえいれば、地球上どこからでも(もちろん宇宙からでも)、本社に写真を送り、ウェブや紙面に掲載することができます。

は?それって今のデジタル時代普通でしょ?と思いますよね。
でも、どんな状況でも当たり前のことをするためには、ちゃんとした準備や工夫が必要です。

例えば災害現場。停電が続き、携帯が使えなくなった現場では、取材者も当然、電気も携帯も使えなくなります。多くの人が集まるスポーツ会場では、回線が混み合い激遅になりますが、当然取材者もそうなります。

だから、予備バッテリーや、車のシガーライターから電源とれるカーインバーターは常日頃から持ち歩きます。災害時、本当は野宿してでも現場にいた方が取材には良いのに、わざわざ遠くの宿に帰るのも「確実にPCとカメラの電源を補充するため」です。

紅の豚風に言えば「撮れないフォトグラファーはただの人だ」ですが、カメラが元気でちゃんと写真が撮れても、パソコンが故障して使えなくなった、またはパソコンの電源がなくなったフォトグラファーも、ただの人なんです。


さらに、PCが動いていても、通信回線につながっていないと写真が送れません。なので、会社から支給される通信端末1台ではなく、キャリアが違う別の端末やWiMAXを個人で契約して選択肢を増やしている人がほとんどです。


大きな災害現場では、すべての通信網が絶たれていることも珍しくありませんので、会社が備えている衛星通信端末を持って行きます。国内で衛星通信です。写真を送ると普段の軽く10倍以上は時間もコストがかかります。

デジタル時代の新聞社のフォトグラファーは、カメラ=パソコン=通信、が持つ価値がイコールなのです。どれかが欠けただけで、フォトグラファーではいられなくなってしまいます。
(僕はコンパクトフラッシュから写真をPCに取り込むカードリーダーが故障し、現場でただの人になって茫然自失したこともあります。なので、若いカメラマンにはカードリーダーの予備もちゃんと持って行くことをオススメします!)


次に②です。

特にスポーツの現場や締め切りがタイトな現場で求められます。
最近は紙面の締め切りに間に合いさえすれば良い時代ではなくなり、リアルタイムで速報することも多いので、「とにかく早く送ること」を求められることも多くなってきました。

例えば私が最近取材したラグビーワールドカップ。
日本が史上初の決勝進出トーナメント進出を決めた試合は、トライはもちろんのこと、試合のターニングポイントになりそうなスクラムやタックルの写真も試合中にどんどん送信します。紙面だけでなく、ウェブ上ではリアルタイムの速報が求められるからです。


プレイが止まるわずかな時間の中で、カメラの背面で写真をプレビューし、ピントがぼけてないかチェックし、良い瞬間の写真を選び、写っている選手の名前を確認し、前半のどういうプレーなのか写真説明をつけて送ることが求められます。

カメラから目を離す瞬間を作るということは、撮り逃すリスクをとるということです。
トライの写真を確認し、送る間に「あ~、コンバージョン撮り逃した…」ということが大会期間中に1度や2度じゃなかったのはここだけの話です。
「あれ、リーチいつの間に交代したの?」なんてことも…。
(雑誌の仕事などをするカメラマンは、試合中は撮ることだけに集中できます)

少し先の未来に起こることは、当然誰にも分からないにも関わらず、良いカメラマンはこの撮り逃すリスクを上手にとります。


と、ここまでをまとめると要は「新聞社のフォトグラファーは撮るだけでは半人前」と力説してきました。
が、よくよく考えてみると、それは働けば誰でも身につけられる能力ですし、できない人を見たことはないですし(もちろんうまいヘタはある!)、だから「能力」と呼べるものでもないような気もします。

なので、将来報道カメラマンになりたい、興味があるという若者に勘違いして欲しくないのは、やっぱり1番大事なのは「何にレンズを向けるか」だったり「被写体と出会う努力を続けることだったり」「決定的瞬間に身を置く努力をすること」だったり、「だれも目を向けなかったものに目を向けること」だったり、「被写体にどう向き合うか」です。

つまり、フォトグラファーとして大事なことは、デジタル時代になっても、何も変わらないということですね。

結論ですべて、ちゃぶ台返ししてすみません。。。