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石鹸

野暮ったい眼鏡の太った女の子が電信柱の横で散歩中の飼い犬の頭を何度も膝で蹴っていた。

なにが気に食わないのか、犬が何か不始末でもしでかしたのか、ただでさえ不器量なその顔は下卑た嘲り笑いのせいで益々不細工に見え、多分もともとは白かったのだろうその灰色の雑種犬は、ただうつむいたまま不条理な嵐が過ぎ去るのを、哀しそうな目でアスファルトの舗道をにらんだままじっと耐えていた。

犬の胴体半分から後ろは、足も尻尾も含めて体毛がぼろぼろに抜け落ちていて、まだらに見える茶色っぽい胴体とほとんど毛の残っていない後肢と尻と尻尾がその雑種犬を余計汚らしく惨めに見せていた。

青信号にかわりアクセルを踏む。この世界はハードだ。映画なんかよりずっと。

石鹸で手を洗う。すごく念入りに洗ったおかげで石鹸のいいにおいがいつまでも残ってる。
鼻先に指を近づけて何度も嗅ぐ。
ぬるく艶かしい気持ち。

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