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Raison d’etre 【父の初盆】

お精霊迎え(おしょらいむかえ)ってご存じでしょうか?
京都では、お盆にお帰りになるご先祖さまをお迎えに行く仕来りがあります。今年は、4月に亡くなった父も迎えに行きます。

明日はお精霊迎え

父の初盆、僕は父のお精霊を迎えるについて悩んでいた。
死んでからもなお、僕を悩み苦しめている父。
僕が、父のお精霊を迎えると決めた事に、嫁はあまりいい顔をしなかった。
父が恐れていた死後の世界、きっと、ゑん魔さまに地獄に突き落とされているだろう。
ならば、僕がこの世へ呼び返してあげよう。
私の家の仏壇で、大変な迷惑を掛けた嫁の両親、そして置き去りした元妻と一緒に過ごしてもらおう。
里帰りも、針のムシロに座って貰おうと、僕は決断した。

父の恐れたゑん魔さま

父は、自分が死んだあと、ゑん魔さまに地獄に落とされることをとても恐れていた。
自分の生き方が人の道から外れていることを自覚していた証拠でもある。
破格の金銭を積んで、得度を積んだ者しか授けられない戒名を手に入れた。
チヤホヤされて死を迎える為に、40年入籍を拒んでいた女性の意向を受け入れ、全てをその女性に託すと遺書を残したのは死の2週間前。
父は認知症を患っており、正常な判断など難しい状態であったはずだが、遺言書は公証人の手によって作成された。
証人となったは、外房漁協の最高幹部と聞いた親戚の男と、父から小遣い巻き上げていた不動産屋である。
この2人は、遺言書の開封後に多額の現金を、父の新しい妻となった女から貰っていた。
そして、この証人2人が相続問題を仕切り、私と交渉をしている。
何かを企てた形跡があちこちに見える。

父が死の直前に思い出した大罪

僕は3人兄弟だった。
3人目の弟は、生まれて間もなく父の仕打ちによって命をなくした。
望んで居なかった子どもにせよ、生まれてきた自分の子どもの命が尽きるように企んだ。
その弟の名前は、高校生だった僕が健治と付けた。
そして、戸籍の登録と死亡届けを僕が出した。
父は健治のことを長く忘れていたのだが、遺言書を作る際に、妻の座を狙う女が父の子どもを確認するため司法書士に父の戸籍調査をさせた。
そして、司法書士が父に「3男の健治さんは?」と言った瞬間に、父は狂乱したそうだ。
ガタガタと震え「坊主を呼んでくれ!」と何度も何度の頼んだと、父の妻となった女は葬儀後に笑みを浮かべながら僕に話した。
父は、戒名を与えた僧侶にお祓いをしてもらい、難を逃れようとした。
しかしだ、僧侶に罪を許すことなどできない。
その罪を背負ったまま、父は亡くなった。

死後が怖いなら、功徳を積もう

僕は、義父が京都市原にある恵光寺のお世話をしていたので、その跡を継ぎ恵光寺に通うことになった。
その中で、お寺の表と裏を知ることとなり、穏やかに死を迎える為には、功徳が必要だと感じた。
それは、どの宗教であっても同じだと思う。
ただ、それを金銭に置き換えることには素直に同意できなかった。
僕の功徳とは、人を育てることだと自分で決めた。
困っている人を助ける力も智慧もないけれど、自分の技術や知識を伝え、豊な人生を作るちょっとしたお手伝いはできそうだ。
もはや、功徳を積むというよりも、僕の人生の喜びになってしまった。
僕は、恐怖に怯えた最後なんて「まっぴらごめん」だ。
死んで尚、苦しむなんて、絶対に嫌だ。

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