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国立公園は日本の少子化対策になれるか?!

国立公園と少子化対策?
勝手な夢想ですが、決して寝ぼけたことを言っているわけではありません。

「国立公園に高級ホテル誘致、政府が公募 訪日客拡大へ」

岸田内閣の少子化対策がいろいろと物議を醸してますが、
23年3月1日の日経新聞に
「国立公園に高級ホテル誘致、政府が公募 訪日客拡大へ」という記事が出ました。
記事によると…

政府は2024年度にも国立公園内に高級ホテルを誘致する事業を始める。地元の自治体や企業と協力して自然体験プログラムを設け、訪日外国人(インバウンド)消費の拡大につなげる。自然保護にも配慮して事業者を選定する。 対象となる公園や事業者の選び方に関する実施方針を6月に決める。1~2カ所の国立公園を選びホテル事業者を公募する。1泊数万円以上で数十室ほどの小規模な施設を想定し、世界で高級リゾートホテルを運営する企業の参加を期待する。 

2023/03/01  日本経済新聞 朝刊

「国立公園に宿泊施設」と聞いて皆さんはどう感じますか?

「賛成」の方もいれば、「自然破壊が心配!」という方もいると思います。

そもそも、国立公園とは…

国立公園は、我が国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地であつて、環境大臣が指定するものをいう。(自然公園法の定義)
日本を代表するすぐれた自然の風景地を保護するために開発等の人為を制限するとともに、風景の観賞などの自然に親しむ利用がし易いように、必要な情報の提供や利用施設を整備しているところであり、環境大臣が自然公園法に基づき指定し、国が直接管理する自然公園です。(環境庁HP)

環境大臣が指定し、保護の為に開発等を制限、国が直接管理する自然公園というと、何人も勝手なことは許されない…という印象ですが、

実は、日本の国立公園は
アメリカやオーストラリアみたいに「公園全体が国の土地」ではなく、
「地域制自然公園制度」といって、
公園の内、1/4は私有地で、
公園の中に住んでいる人もいますし、
水田や畑もあり、公園内の木を伐採する林業を営んでいる人もいるんです。
(もちろん、一定の規制や制限はありますが…)

環境庁「日本の国立公園」より

ですから、すでに国立公園の中のホテルってのは、結構あります。

しこつ湖鶴雅リゾートスパ水の謌(支笏洞爺国立公園)
星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル(十和田八幡平国立公園)
日光湯元温泉 奥日光 森のホテル(日光国立公園)
赤倉観光ホテル(妙高戸隠連山国立公園)
五千尺ホテル(中部山岳国立公園)
ホテルリッジ/鳴門パークヒルズ(瀬戸内海国立公園)
わたらせ温泉 ホテルささゆり(吉野熊野国立公園)
城崎 円山川温泉 銀花(山陰海岸国立公園)
雲仙温泉 九州ホテル、石山離宮 五足のくつ(雲仙天草国立公園)他

筆者調べ
楽天トラベルより

国立公園の目的は、はじめから「外客誘致」

そもそも、国立公園というものは、自然保護するのが主目的ではなく、
「国民の保健休養のための公園」としてスタートしています。

今から約百年前、1931 年に自然公園法の前身となる国立公園法が帝国議会で審議された際の提案理由は、
我ガ国天与ノ大風景ヲ保護開発シ一般ノ利用ニ供スルハ国民ノ保健休養上緊要ナル時務…」だったそうです。
そして、さらに「且外客誘致ニ資スル所アリト認」と、
初めから「外客誘致」という狙いがあったのです。

つまり、今回政府が打ち出した
『国立公園内に高級ホテルを誘致し、訪日外国人(インバウンド)消費の拡大につなげる』というプランは、百年前からの方針であり、
岸田首相のアイデアではなかったのです。

国立公園内「高級ホテル」に期待したいワケ

とはいえ、「国立公園内の高級ホテル」には、ちょっと期待しています。
以前記事「これからの観光…スイスから学ぶ11のヒント」に書いた通り、これからは、日本の観光もサステナブル型を志向すべきと思っています。

サステナブル型観光の試金石

旅行客自身が、
環境インパクトに配慮することと併せて、
地元にきちんとお金を落として、そのお金が地元を豊かにし、
地元の持続的な環境保全に貢献するという循環がきちんと回る
サステナブル型観光の魁になって欲しいと思っています。

「国立公園内の高級ホテル」は、
こういった意識を持ち、そのホテルを起点として、
ゆったりとした時間を過ごし、それなりのお金を落としてくれる層
ターゲットとしています。

「国立公園」は、価値を生み出す資産

観光庁の定義によると、
訪日一回で、一人当たりの総消費額100万円以上の旅行者
「高付加価値旅行者」として、その増加に力を入れています。

国立公園内ホテルに、そういった裕福な外国人旅行客を呼び込み、長く滞在してもらう(≒お金を落としてもらう)鍵は、
アドベンチャーツーリズム(AT)とも呼ばれる体験型観光の充実です。

アドベンチャーツーリズム(AT)は、
「100人のクルーズ客の経済効果を4人で達成できる」
「ATの旅行消費額が地域に残る割合は65%で、
クルーズ客などのマスツーリズム(14%)の4.6倍に上る。」 

2023/02/06  日本経済新聞 朝刊

ATの市場規模は、コロナ前の18年には70兆円規模で、
近い将来、130兆円規模になると予想されていますが、
日本はまだ1兆円レベルだそうです。

一方、観光庁資料によると、主要9カ国中7カ国が
「ATで一番訪れたい国」のトップに日本を挙げたそうです。

そしてそのATの核となるのが、
34箇所ある国立公園など国土の約15%を占める自然公園です。
他に、国定公園は57箇所、都道府県立自然公園311箇所。

地元にお金が落ちる仕組みづくり

国立公園は、公園内の私有地であっても、自然保護のための規制があり、開発や事業経営には国の許可が必要です。

今回の「国立公園内の高級ホテル」について許可権を持つ国には、
自然保護はもちろんですが、「地元にお金が落ちる仕組み」についても、ぜひ強制力を発揮してほしいと思っています。

1人100万円以上使う「高付加価値旅行者」まではいかなくとも、
仮に半分の50万円、1人1泊当たりの予算が5万円×10日の滞在でも、
宿泊や食事はもちろん、
地元での観光コンテンツを支えるガイドや観光従事者などのスティクホルダーは、かなりの数になり、
地元に落ちるお金もそこそこになる可能性があります。

ところが、日本の観光は「宿泊施設と飲食店」だけで、それ以外に落ちるお金が極端に少ないのが現状です。

例えば、沖縄県の資料によると、H29年の沖縄県の「旅行・観光直接消費額」7800億円の内、宿泊業と飲食店が4000億円以上を占め、娯楽サービスはわずか約200億円(2.5%)だそうです。

 沖縄県観光政策課「H29 沖縄県における旅行・観光の経済波及効果」より

今回の「国立公園内の高級ホテル」は、ホテルだけでなく、地元もきちんと儲かるモデルケースになって欲しい。

そのために、国がホテル誘致の条件として、
自ホテルだけでなく、周辺地域全体の活性化を目指し、
観光・滞在に携わる地元の人を単なる雇い人や下請けではなく、
ステークホルダーとしてきちんと位置づけ、地元にお金が落ちるよう
ホテルグレードにふさわしいクオリティの観光コンテンツとサービスを共創することを、約束させてほしいと思います。

ATガイドという仕事の創出

海外旅行のときに自然探検のツアーなどに参加すると、若くて颯爽としたガイドさんが多いと感じませんか?

一方、日本では(自分も含めてですが)、スポーツアクテビティを除くと、年配のガイドさんが多いです。
実際、日本財団の19年度全国調査で、国内ガイドの平均年齢は66.7歳だそうです。(前述の日経記事)
しかも、
リタイア後のボランティアだったり、兼業だったりで、収入も少ない。
絶対数も少なく、外国語を話せるガイドさんは更に少ないそうです。

今回の「国立公園内高級ホテル」へのリッチな外国人誘客には、外国語も堪能なガイドの育成が必要ですが、
それは同時に、ガイドという職業をリブランディングして、海外の颯爽としたガイドさんのように、「若い人が稼げるおしゃれな仕事」にするチャンスだと思っています。

「国立公園内高級ホテル」を作ろうと考える外資などの企業が持つ、ATや富裕層の観光ニーズについて豊富な知見を活かし、地元との共創で、魅力的な観光コンテンツ開発とそれをガイドする人材の育成ができれば、今までの地方には少ない「若い人にとって魅力的な職業」の選択肢が増える可能性があると思っています。

地方で「年収300万の壁」を超える可能性

男性の結婚には、「年収300万の壁」というものがあり
結婚適齢期である25~34歳での年収300万円を境に
既婚率が大きく変わるそうです。

ところが、47都道府県の半数以上で、
その年齢の約半数が「年収300万の壁」を超えられていないそうです。
地方には「仕事がない」「稼げない」「結婚できない」という現実があります。

日本の少子化の原因は、結婚し子供を作ることに対する経済的な裏付けがないからです。

今回の「国立公園内高級ホテル」は、当然なことながら、都会ではなく地方でもさらに他に産業が少ない場所です。

そういった土地に海外の富裕層などを誘致する拠点ができ、雇用が生まれ、周辺もATによる経済波及があり、ATガイドという新たな職業も生まれる。

もちろん、
日本にある国立公園は34
そのすべてに高級ホテルを作ったとしても、
それだけで、「年収300万の壁」を越えられる若者が増えるとは思いません。

でも、日本には、国立公園以外にも350以上の国定公園・都道府県立自然公園があり、すべてを合わせると国土の約15%、年間9億人が訪れる魅力的な自然公園があります。(自然公園財団HP)

それぞれの自然公園に、ATや魅力的な観光コンテンツとそのガイドが生まれれば…

ちなみに、アメリカの国立公園は年間3億人の来訪なのに、2万人のガイドがいるそうですから、9億人訪れている日本だったら…

と、若い溌剌としたATガイドがたくさん活躍している姿を勝手に夢想しています。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。

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