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森の中でゆっくり読みたい一冊 「マザーツリー」 スザンヌ・シマード著
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『森林は「インターネット」であり、菌類がつくる「巨大な脳」だった』という惹句と、養老孟司氏や隈研吾氏、斎藤幸平氏という錚々たる顔ぶれの推薦コメントにあっさり釣られ、発売日に入手しました
映画「アバター」にも影響を与えた森のメカニズム
森の木々は、根に着生した菌根菌のネットワーク(脳内のニューロンネットワークの様な)で繋がり、種が違っても炭素や窒素を融通しあったり、異常気象や害虫などの危機を知らせあったりするというメカニズムを発見したスザンヌ・シマードさんの自伝です
映画「アバター」で描かれている
パンドラに生息している木々が電気信号を出して交信しあうことで、巨大なネットワークを形成し、惑星全体の生態系を維持している…という世界観は、彼女の解明した森のメカニズムにインスパイアされたそうです
森に隠された「知性」をめぐる冒険
森で生まれ、森の中で育まれたスザンヌ(著者)が、
森林監察官として気づいた発見 -「植林した樹木以外の勝手に生えてきた木は、植林の生育を邪魔する厄介者であり、除草剤を使ってでも徹底的に駆除するべき」といった従来の常識や固定概念に囚われた森林育成が、却って植林の健全な成長を妨げているという事実-が、男性中心の職場環境で否定され、疎まれる挫折や、
妻として母として、家族の絆と、森の神秘を科学的に解明するというライフワークとの間で揺れ動く苦悩、
森の生命の営みとシンクロする自分自身の病との闘いなどを縦糸とし、
森の驚くべきメカニズム解明の道のりを横糸として織りなされています
森とは 単なる木の集合ではない
森には叡智と感覚、そして癒しの力がある。
これは、どうしたら私たちが森を救えるかについての本ではない。
これは、私たちが 木々によって救われる可能性についての本である。
WWW(ウッド・ワイド・ウェブ)
「森とは単なる木の集合ではない」
「木々は互いに網の目のような相互依存関係のなかに存在し、地下に広がるシステムを通じてつながり合っている」
序章の数ページでグイっと惹きこまれました。
WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)になぞらえ、
WWW(ウッド・ワイド・ウェブ)とも呼ばれる菌根菌を通じた森林のネットワークの神秘に、驚嘆の連続です。
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・菌根菌は、宿主の木との一対一の関係ではなく、菌根菌が脳内のシナプスのように森全体のネットワークを形成し、森林全体の安定や発展に寄与している…
・植林された針葉樹と、その生育を邪魔すると思われている実生の広葉樹の間には知られざる共生関係がある…
・炭素という成長通貨を裕福な木から貧乏な木へ、そして貯えが枯渇した時期には逆に貧乏だった木がお返しをするというようにお互いに融通しあっている…
・病気になってしまった老木は、次世代への生前分与を彷彿させるようなバトン渡しをしている…
・「マザーツリー」と呼ぶにふさわしい巨木は、自分自身の幼木だけでなく、幼木が健全に生育するために、森全体の面倒も見ている…
・害虫被害にあった木は菌根を介して、被害が森全体に及ばないように防御策を促すシグナルを出している…
ひょっとしたら、我々もネットワークに取り込まれている?
「幼木の生育のために、森全体の面倒も見ている」
「菌根を介して、被害が森全体に及ばないように他の木々にシグナルを出している」
このエピソードを読んで、ふと思いました
森全体を守るために、木々が種を超えてネットワークを構成し、
シグナルを送り合っているのだとしたら、
それは木と菌根菌の間だけなんだろうか?
ひょっとしたら、
菌根菌と密接な関わりのある土壌生物やそれらを餌とする森の動物そのネットワークに繋がっていてる...というのは、突飛な考えだろうか?
更にさらに、
私達、ヒトもマザーツリーや森からのシグナルを受け取っているのかも…
という夢想が拡がってきました
森の中に入ると妙にリラックスするのは、
木々が放出する「フィトンチッド」という物質の働きというのは、
よく知られています
元々、「フィトンチッド」は
「植物」を意味する「Phyto」と「殺す」を意味する「cide」(genocide:ジェノサイド=大虐殺のcideです)を合成して作られた物騒な言葉で、
動くことのできない植物が、有害な微生物(菌や細菌)、昆虫などから身を守るために、自己防衛のために放出する揮発性物質ですが、
微生物や昆虫を寄せ付けない(時には殺してしまう)ためのフィトンチッドが、なぜ人間にとっては癒やしの効果があり、逆に人間を森へ引き寄せるのか?
ひょっとしたら、それはたまたまや偶然ではなく、
森の木を伐り倒したり傷つけようとする「凶暴なヒト」という動物を、手懐け、穏やかな気分にさせて、森を傷つけないようにするために、木が意識的に放出しているのかもしれない...
そんな突拍子のない妄想さえ浮かんでくる不思議な世界に誘い込まれました
森に備わる「知性」
スザンヌは、森は人間が一方的に収奪できる対象ではなく、
我々人間と同じように知性を持つ生命体であるということを認識し、リスペクトすべきと言っています
確かに、同じ生物でも動物に対しては、生命体として一定の敬意を持って接するのに対して、無言で目立った反応がすぐに見られない森の木に対しては、どこかぞんざいな扱いをしていることを自省させられました
森は複雑で、自己組織力を持っている。
知性と呼ぶのが相応しい特徴を備えているのだ。
森の生態系は人間社会と同じようにこうした知性の要素を備えている、と認めれば、木々はじっと動かず、単純で平面的でありきたりなもの、という古い概念を捨て去ることができる。
そうした古い概念が これまで、森の急速な搾取を正当化するのに役立ってきたのであり、それが、森林 における将来的な生物の存在を危険にさらしてきたのである。
普段私たちが、感覚性、英知、知能と呼ぶ性質を彼らは持っているのだ。
木々、動物、菌類——人間以外のありとあらゆる 生き物—— が そうした性質を持っている ことに気づけば、人間が自らに与えるのと同じだけの敬意が 彼らにも 与えられるべきであることがわかるはずだ。
私たちはこのまま、温室効果ガスの増加を年々加速させてこの地球のバランスを崩し続けることもできるし、一つの生き物、一つの森、一つの湖を傷つけることで複雑なネットワークの隅々にまで影響が及ぶことを悟り、本来の バランスを取り戻すこともできる。
一つの生き物を不当に扱えば、それはあらゆる生き物を不当に扱っていることになるのだ。
森や木々について、今までと違った見方を接し方を気づかせてくれた一冊です
森の中で「紙の本」でゆっくり読みたい一冊
科学的な文献ではなく、森で生まれ育った著者の自伝ですから、
森で過ごす日々や家族の記述のウエイトも多く、直接的な知識吸収の目的で読むのには向いてないかもしれませんが、
ソロキャンプで焚火をしながら本を読むのが趣味の自分にとっては、森の中でゆっくり読み返したい…そう思う一冊です
なお、頁の途中途中に、スザンヌや家族、森とともに生きた父祖の写真や、森の写真が挿し込まれており、臨場感を盛り立ててくれます。
残念ながら、電子本では写真が不鮮明だったりするので、やはり、森の恵みである紙の本がおススメです
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