見出し画像

「プレバト!!」の俳句査定で『2ランクアップ』となった作品を振り返る【2021/12/2更新】

【はじめに】
この記事では、プレバト!!の俳句査定史上に燦然と輝く『2ランクアップ』の作品を振り返っていきます。

他の査定(特に芸術系など)は、毎週のように行われる俳句査定と違って、頻度が低いことから「◯ランクアップ」(いわゆる「飛び級」)が当たり前ですが、俳句査定で『3ランクアップ以上』例はなく、『2ランクアップ』が数える程度あるだけです。

1.(2017/01)初日記とめはねに差すひかりかな/村上健志(5→3級)

「プレバト!!」の俳句査定が始まって3年強、特待生制度が始まって1年あまりで開催された新春『特待生・昇格降格一斉査定』スペシャル

昨年秋に75点(コスモスや女子を名前でよぶ男子)→78点(テーブルに君の丸みのマスクかな)と、僅か2回で「特待生」に昇格したフルーツポンチ・村上健志。彼が特待生昇格後、初めて出演したのが2017年の新春SPでした。

特待生5級ということで、最初に紹介されて句が紹介されるも、先輩特待生たちにイマイチな評価(いじられキャラ的な要素は勿論含んでのもの)をされてしまいますが、査定結果は本人も驚きを隠せない『2ランクアップ』

画像1
初日記とめはねに差すひかりかな/村上健志

上五の季語『初日記』は、新年の季語で、1年最初に書く日記のことです。まずこの季語は歳時記を調べなければボキャブラリーとして、持っていないものでしょうし、さらに「とめはね」で日記を書く人の動作を描き、さらに『に』と助詞から「差す」という動詞で下五への期待を高め、

最後に『ひかり』(ひらがな表記)で新春らしい明るいおめでたさを演出しつつ、最後に『かな』という切れ字で優しく詠嘆をするという格調高い新春らしい一句です。

画像2

この句、そしてフルーツポンチ村上さんに対しては、前回(78点)の時も、

・この人は本物です。本物の詩人です。他の特待生を蹴落とすかもしれない

(夏井いつき)

と絶賛していましたが、このスペシャルにおいて「確信」に変わった様で、

・巧い。やっぱり巧い

(夏井いつき)

と、発想だけでなく技術の高さも絶賛していました。(当時は、まだ「毒舌先生」という紹介が多かった先生が表情は厳しくしつつも大絶賛している事が感じ取れました。)

実際、史上最速で「名人」、「名人10段」に昇格しているのですから、その見立ては本物だったということでしょう。それぐらいの「逸材」であるとの存在感が、「俳句の2ランクアップ」にはあるのです。

2.(2019/03)「犯人逮捕」干鱈を毟る母の黙/柴田理恵(5→3級)

2017年の新春スペシャル以降「俳句タイトル戦」が開催されるようになり、特待生・名人の数も増加の一途を辿ります。

そうした中で久々に開催された、平成最後(H31)の「特待生の一斉査定」で、史上2例目の『2ランクアップ』が誕生します。先ほどのフルポン村上さんと対極に位置する苦労人・柴田理恵さんの作品です。

画像3
「犯人逮捕」干鱈を毟る母の黙/柴田理恵

号外という兼題で「犯人逮捕」まで発想を飛ばし、富山県出身の俳人・柴田理恵さんが良く用いる富山の季語干鱈ひだらの特性をうまく取り入れて読み込んだ力作です。

画像5

とんかちで叩きながら「むしる」ように食べる『干鱈』を食べつつも、号外が出るような凄惨な事件に対する母の無念や思いをもだという一語で描ききっています。

画像4

これも、先ほどの句と同様、「特待生5級」という低位だったことから、『2ランクアップ』になったという見方も出来ますが、作品単体として見ても非常に完成度が高いと感じます。

3.(2021/06)宵宮の慈雨は屋台の人波へ/千賀健永(2→4段)

過去と同様、また2年3か月ほどの間隔をあけて誕生した「史上3例目の『2ランクアップ』」は、Kis-My-Ft2の千賀健永・名人によるものでした。

スペシャルでない「通常回」での『2ランクアップ』
名人(というか特待生4級以上)での『2ランクアップ』
季重なりの作品での『2ランクアップ』

同グループの横尾渉名人の後を追うようにゆっくりと昇格をしてきた一方、一発勝負では『特大ホームラン』を放つこともある千賀さん。第1回冬麗戦では、『雪原や星を指す大樹の骸』で、史上初めて特待生(当時)にして、タイトル戦優勝を果たす快挙を成し遂げています。

しかし、特待生・名人の増加によって、タイトル戦が「一発勝負」でなくなった昨今、「予選」→「決勝」と連続で『ホームラン』を放つ打率をキープすることが出来ず、なかなかフィーチャーされる機会が遠ざかっていましたが、2021年6月に自信満々で挑んだこの作品、夏井先生からも絶賛でした!

画像6
宵宮よいみや慈雨じうは屋台の人波へ/千賀健永

『宵宮』は、作者いわく、熱田神宮の前夜祭のことで、『宵宮』の日に降る『慈雨(恵みの雨)』が、屋台の人波に降る情景を描いた作品。

実は、「宵宮」も「慈雨」も夏の季語であり、渋い季重なりの作品となっているのです。そのことに作者は気づいていたかはさておき、両季語が相互に作用しあって並び立っていることを高く評価されました。

画像7

句を披露する前に、『飛び級を狙いたい』と豪語していた千賀さん。これがスペシャルならば、きっとフジモン名人にいじられていたでしょうが、今回ちゃんと(冒頭に示した様な史上初の快挙を含めた)『2ランクアップ』を実現したことで、『予告ホームラン』を成功させるスター性が見えました!

4.(2021/12)母の余命知る冬の日のレイトショー/向井慧(5→3級)

記事を公開した時に「今後の展望」として書いた通り、過去に比べてかなり早いペースで4例目の「2ランクアップ」は誕生しました。2021年12月に、両永世名人を迎えて登場した「向井慧」さん。

春光戦では『花疲れ臓腑に溶けるチョコレート』で予選1位通過を果たしたものの、その他は最下位&現状維持など特待生昇格後は「ガヤ芸人」ポジションが確立しかけていた中で、この句を披露し、ネットを驚かせます。

母の余命知る冬の日のレイトショー/向井慧

まず、下の記事にも書きましたが、上五を大胆に「字余り」とします。音数的にも1音余っている感じをもたせながら「余命」という強烈なインパクトをもたらす単語を据えています。もうこの段階で勝ち確演出といった感じ。

更に、「母の余命知る」という動詞で、夏井先生も仰っていた通り「たった今(に準じるつい最近)知った」のだと分かります。そして、句またがりで季語の「冬の日」が出てきて中七までが完結。そこから加えてレイトショーという場所(新たな情報)が付くことによって、

母 → 余命 → 冬の日 → レイトショー → 母 → 余命

というスパイラルに陥って、気持ちの整理がつかない詠み手の心境が19音に収められています。これも、1・2例目と同じく「特待生5級」時での作品ですが、タイトル戦を圧勝していてもおかしくない傑作だと感じました。

【おわりに】今後の展望

1~3例目は、約2年3か月の周期で誕生してきましたが、今後はもう少し周期が早まるかも知れません。そう私が考える根拠を最後に。

(1)俳句査定は毎回あるものの、永世名人以外の特待生・名人の査定頻度が半分に減ってしまっている

梅沢名人のシュレッダーが好評なのは分かりますが、2020年以降、それまで2組あった「永世名人以外の特待生・名人の査定」枠が実質1組に減ってしまいました。(平場の査定は従来どおりほぼ毎回ありますが。)

この結果、従来に比べ「昇格のチャンス」は半減してしまい、昇格のペースも単純計算で「2倍」掛かってしまうこととなります。

「水彩画査定」で『7ランクアップ』が飛び出たように、「実力と段位」の乖離が目立てば、夏井先生であっても『2ランクアップ』を増やす、という可能性は十分あるのではないかと思います。

(2)一度出すと、夏井先生は『連発』させる傾向がある

この傾向を特に感じたのが、『1桁得点』についてです。これについては、個別に記事を書いていますので、そちらもご参照いただければと思います。

『1桁得点』は、これまで年に1回出るかどうかの頻度だったのですが、2020年に『史上最低点3点』が出て以降、2021年にかけて数か月に1度、『1桁得点』の評価がなされることが続きました。

これは、2010年代と比較するのではなくて、数か月前の『5点』と同レベルという基準で『5点』を付けてるのではないかと思うのです。そうなると、「千賀くんの宵宮の句では『2ランクアップ』を付けたし、この句も……」という思考回路に夏井先生がなり、案外『2ランクアップ』が連発するという展開もあるのではないかなと推測した次第です。

(追記)2021/12:やはり史上初となる「同じ年2度目」の2ランクアップが誕生しました。今後も2年3か月よりかは短いスパンで登場していくのではないかと想像しています。


いいなと思ったら応援しよう!