俳句チャンネル ~字余りシリーズ【上五字余りなプレバト俳句たち】~【2021/12/2更新】
【はじめに】
この記事では、2020年7月16日にYouTube『夏井いつき俳句チャンネル』にアップロードされた動画『上五の字余りってどうなの?』を、筆者(Rx)の交えつつ紹介していきたいと思います。
紹介する元動画については、こちら ↓ から是非ご覧ください。
1.「(上五の)字余り」について
同チャンネルで『季重なり』に続き、視聴者からの質問が多いということで始まった『字余り』シリーズ。初回である今回は『上五』の字余りについてです。初心者から良くある『上五の字余りってどうなんですか?』という、極めて漠然とした質問(問題提起)から始まります。
ただ、組長もやや端折り気味に本題へと行ってしまって、初めて聞く人に、一部誤解を招きかねないと感じる部分があったので、そこを整理します。
ステップ別に「上五」に対する考え方を(私なりに)まとめてみました。↓
(1)【初心者】無理やり五七五に入れて日本語としておかしくぐらいなら字余りにした方が“マシ”
(2)【中級者】下五・中七を字余りにするぐらいだったら、後半にリズムを取り戻しやすい「上五」を字余りにする方が“無難”(許容しやすい)
俳句の基本は「定型(五・七・五)」だということを肝に銘じて欲しいと、夏井先生は仰っています。(夏井先生曰く『やっぱ俳句は五・七・五だ!』などと語る梅沢のおっちゃんとは、そこは気が合うとのこと。)
そして、字余りについては、以下のように要約してみました。
(3)【上級者】「字余り」とはテクニック(俳句の技)の一つだから、『俳句の内容が濃く・深くなる時』にだけ使うのが“理想”
以上から、「字余り」に対する考え方を改めてまとめて列記しておきます。
2.字余りの名句鑑賞 ~字余りにする理由がある~
続いて、上五字余りの名句を紹介するコーナーに入ります。1.(3)の内容の確認で、次の2句に共通して言えるのは『字余りにする理由がある』ことです。(本記事での説明上、順番を逆にしました。)
どちらも「7・7・5」の19音の俳句ですが、上五を(無理やり)5音へと置き換えた比較句と比べてみることにします。
原句の方は季語以外の部分で「~~も旅人」と対表現を使って「リズム」を作り出しています。『~~も旅人』が2回登場させることに意味を持たせているので、これを無理やり5音にしたら「良さ」が削がれてしまいます。
(こちらの方が寧ろ意図が分かりやすい様に感じます)
「毒消し」は夏の季語で、食あたりとかに対して飲む薬です。
飲み薬ならば「飲む」が無くても良いじゃん?という意見も出ましょうが、ここでは意味合いが変わってくると言います。
皆さん。『毒消し飲む』と句の冒頭で言われたとしたら、自然と『毒消し』を飲むための、首・喉を上(天井)にあげる動作を想像しませんでしたか?
一方、比較句の「毒消しや」だと、『毒消し』の小粒の黒い薬にフォーカスして、飲むというより、薬や瓶が『眼の前にある』印象が強くなるのです。
以上の2句については、上五を「2音」余らせてでも伝えたいことがある、すなわち『字余りにする明確な理由があ』って、盛り込もうとすると、定型には(どうしても)収まらない という訳です。
と、ここまでが「字余り」シリーズ初回の動画10分で説明された内容です。
ここからは、私なりの補足説明と、プレバト!! 俳句を通じての鑑賞です。
3.上五字余りを音数で二分してみた
ここまでフワッと「上五・字余り」と言い続けてきましたが、動画内でも、具体的には定義されてきませんでしたので、ここで、『上五・字余り』が、何でないかを定めておきましょう。
動画に出てきた2つの名句も、「7・7・5」で上記定義に合致しますね。
そして、私がプレバト!! 俳句を振り返る上で、以下の2パターンに収斂させることを提案しようと思います。上五字余りの音数で分類する方法です。
(1)「上六」:1音だけ溢れたパターン
1つ目は「上六」、すなわち、「6・7・5」の全18音の俳句を指します。
これは上五が1音だけ溢れた様な印象が持たれそうな俳句が多い印象です。もう少し細かく分類していくと、(ざっくりですが、)
◯◯◯◯◯◯ 6音の単語を上五に据えるパターン
◯◯◯◯◯◎ 5音の単語+1音(助詞など)
◯◯◯◯◎◎ 4音の単語+2音(助詞2つ組み合わせなど)
◯◯◯◎◎◎ 3音の単語+3音(リフレインなどを含む)
などが多いように感じました。後ほど実例と共に見ていくことにします。
(2)「上七」:2音以上溢れさせたパターン
2つ目は「上七」としましたが、上五が7音以上になってるパターンです。
よっぽど技術が足りなくて溢れちゃったパターンもありはしますでしょうがやはり2音以上も定型を外してくるということは、能動的に「溢れさせた」テクニックの一つとして使ってきているパターンだと思います。
「上六」は、耳で聞く限りは上五とそこまで大差が無いのですが、「上七」にもなると明確に「字余り」だなぁ、と感じられますので、『インパクト』を持たせる意味も多分に盛り込まれているかと思います。
4.「上六」な「プレバト!!」俳句
ここからは、「プレバト!!」の番組内で紹介された俳句から「上五字余り」の作品を幾つか紹介していきます。
まずは、2019年炎帝戦2位の梅沢永世名人の句から。ベスト50優秀句です。
『鯉◯◯◯』などと五音の表現とせず、『やはらか』と“旧かな遣い”で鯉のしなやかさを表現して選択する姿勢が強く感じ取れ、句柄とピッタリです。
続いて、2014年に春香クリスティーンさんが75点を獲得した一句。
これ、字余りを解消するのはある種、簡単で、事実を少し曲げ「はや5年」などとすれば良いのでしょう。テクニック的には。
しかし、『はや6年』というフレーズは、語呂が良くて「字余り」が殆ど気になりませんし、何より『6年だという感慨』(5年や10年などではなく、純粋に事実として6年目だった)が句の肝だったのですから、これは字余りでも素直に詠んだ。それがうまく行ったというケースだと思います。
ここまでは「上五」が「2+4音」というケースを見てきましたが、続いて「5+1音」のパターンの句をご紹介します。
個人的には添削前の作品、好きです。『モノレール』に『ルール』と返す、で『しりとり』なことはある程度想像付きますし、これこそ「4音」で、「ル」で終わる単語なんて無数にありますから、「◯◯◯◯」に「ルール」とすれば上五は解消されます。
しかし、きっとお子さんとのしりとりで「モノレール → ルール」という流れが実在したんだろうな、想像できますし、『モノレール』が小さい男の子、『ルール』がその子のしりとりに付き合っている大人(ルールで返せる位、その子の成長を実感している家族)だと詠み手は容易に想像できますねぇ。単語だけで人物が浮かび上がる技術、改めて読んで素晴らしいと思います。
読書好きな村上名人らしい半径数十センチの“あるある”な感慨を詠んだ句。文字数を揃えるなら『著者別に』とかとも出来ますが、そうすると本の作者への“愛着”が薄い(自分で買った本というより、愛着の薄い書店員?とか)のかなと感じてしまいます。本好きなら字余りでも「作家別」の方が、言葉遣いに馴染みがあるように思います。
『作家別に揃え直して』という13音が、『夜長』という秋の季語を、絶妙に体現していてこれも素晴らしい句です。
これも村上名人らしい句です。『オルゴール』という5音の小物を、うまく上五に配置することで作品の『雪・冬』の時間が特別な物になっています。
では、ここからは『6音』の一単語を上五に据えたパターンを見ましょう。
『元素記号』という俳句にあまりならない単語(広く理系用語)を、上五に置いて『春』の感慨を詠む。こちらも上五字余りを使いこなした一句です。
続いては、立川志らくさんが6音の季語を使って春を詠んだ一句です。
特待生4級(当時)としては非常にチャレンジングな句。『桜隠し』という春に降る雪(雪・月・花のうち2つ、季節感が難しい)季語を詠みました。
そして、「上六」の最後は、冒頭の梅沢名人と同じく、ベスト50・優秀句に選ばれた俳句から、フジモンの2020春光戦2位の句です。
これも例えば間取りに手を入れる(ダイニングを諦めるとかww)ことで、上五を解消することは出来ますが、絶妙なバランスで句全体の世界観を保っています。意図をもって6音の単語を配置しているタイプの俳句でしょう。
そして、2021年12月に発表された「パンサー・向井慧」の俳句は、2ランクアップの高評価を得ましたが、3音の二字熟語で上五を字余りにすることでのインパクトは強烈なものがありました。
ここまで見てきた通り「上五・字余り」の俳句の中でも、作者がはっきりと字余りにする意図 or体験をもって詠んでいる作品をピックアップしました。夏井先生が「上五字余り」について語っていた内容がお分かり頂けますか?
5.「上七」な「プレバト!!」俳句
続いて、更に意図が明確になる「上七(音以上)」の作品たちです。
まずは、先日(2020夏)に特待生に昇格したばかりの【筒井真理子】さんが2017年に詠んだ才能アリの一句から。
特待生候補ということでハイレベルな添削もなされましたが、添削前でも、各単語が全て句の中で強い意味をもっています。
ベンチなんて押し並べて硬いに決まっているのに、敢えて上五字余りにしてでも『硬い』ことを表現したかった、その強い意思が感じ取れます。
続いて、力士では最高得点クラス? 72点を獲得した輝関の一句です。
これ、「ざんばらの新弟子の背や」にして字余りを解消しても成り立ちそうですが、『ざんばら髪』とすることで、髪 → 背中と脳内のカメラワークを、より明確にすることが出来ます。
同じく春の光景を、6音のものから描く手法は、村上名人も実作してます。
兼題が『観覧車の写真』だったこともありますが、4音のアトラクションにすれば上五は解消されます。しかし、これは全ての単語が『春』の遊園地の光景を引き立てていて、絶妙なバランスだと思います。
続いても6音の物を上五に据えた名人(10段)の句です。
別の4音の食べ物でも良いのかも知れませんが、ここは『花鶏(あとり)』という秋の季語と、『林檎』という秋の雰囲気を持つ(林檎そのものは秋の季語ですが、アップルパイだと季語の力はほぼ無い)6音の食べ物との取り合わせがうまく行っているのだと思います。
ここから2句は、タイトル戦の予選で敗退した参加者の決勝挑戦用の俳句を続けてご紹介したく思います。
どちらも炎帝戦の決勝進出なら、上位に来ていたと絶賛された句たちです。どちらも上五に7音で夏らしさを演出してて、強いインパクトがあります。
続いては、特待生(候補)が平場で披露し高得点を叩き出した夏の句です。
これら7音の単語は日常会話でも使いそうな親しみやすいワードでしたが、最後にご紹介する2句は、プレバト!! で紹介された時に、視聴者に対して、大きなインパクトを与えた漢字4字な俳句たちです。
俳句査定史上2度目となる「2ランクアップ」を達成した柴田理恵さんの句です。『犯人逮捕』という7音の無機質な単語が語る情報量の多さが、干鱈以降の情報に負けないくらいの強烈なインパクトを与えています。
同じく強烈なインパクトを残した漢字4文字。千原ジュニアさんの句です。
これも柴田さんの句とほぼ構成は同じですね。上五にインパクトのある8音の漢字4文字を配置して、その次にカニューレという(これも)インパクトある単語を配置し、絶妙なバランスで句の世界観を立ち上げています。
と、ここまで「上七」の句を続けてご紹介してきましたが、実はベスト50に一句も入っていません。夏井先生の選としては、やはり『有季定型』が基本だという姿勢が明確に打ち出されているのかなと感じますね。
【おわりに】
今回は、上五の字余りについて細かく見てきました。
というのを「プレバト!!」の実作例などを踏まえつつ確認してきましたが、やはり「上五・字余りにする理由」があるのかどうかを今一度、顧みていただければという風に思います。
その上で『上五を字余り』にすれば、定型には無いインパクトやアクセントになるかと思います!ぜひ皆さんも、定型(五・七・五)の腕を磨いた上で「上五・字余り」に挑戦していきましょう!
それではまた、次の機会にお会いしましょう!Rxでした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?