(暫定版)2021年10月7日に発生した「千葉県北西部」が震源の地震について
【はじめに】
この記事では、2021年10月7日午後10時41分ごろ、「千葉県北西部」を震源とし、最大震度5強を観測した地震について、気象庁から発表された暫定値のデータなどを元に、振り返っていきたいと思います。
なお、地震発生後1時間半後に公開した記事は「速報版」としましたので、そちらもご確認いただきながら、最新情報のご確認をお願いします。(↓)
0.速報値・暫定値の違いについて
前回の記事を公開した約1時間後に、気象庁が記者会見を行い、震源の深さとマグニチュードの更新を行いました。いわゆる「暫定値」というもので、今回の記事では、全て「暫定値」に更新した値でお話ししていきます。
速報値 → 暫定値
深さ 約80km → 75km
規模 Mj6.1 → Mj5.9
概ね「速報値」と同じですが、規模が「M6」の大台を下回ったという点で、一部データの見直しを図る必要性はあるかも知れません。ちなみに、最大震度5強を観測した3地点については、『震度観測点の観測環境に異常は認められず、観測点周辺に目立った被害は確認され』なかったとのことです。
1.地震発生時の状況
それでは、地震発生時の状況について、まずは振り返っていきましょう。
(1)テレビなどでの報道状況
地震が発生したのは、2021年10月7日の22時41分23秒のことでした。丁度、就寝していたり、寝る準備をする方が自宅にいた他、仕事中、帰宅中という方などが外に多く居る時間帯でもありました。
テレビでは、テレビ朝日「報道ステーション」が生放送中。ニュースを中断し、スタジオに画面を切り替え、大きな揺れが襲う中、必死の呼び掛けを続けていました。
また、NHKは『SONGS』で山崎育三郎さんが『栄冠は君に輝く』の1番が歌い終わるタイミングで番組を打ち切り、30秒あまりで報道体勢へ切り替えています。アナウンスも極めて冷静だったと思います。
そして、ウェザーニュースでは、産休直前の松雪彩花キャスターとウェザーロイド(ポン子ちゃん)がアナログゲームを楽しむ中での地震発生。館内に自動音声が流れ、震度4~5クラスの揺れが襲う中、20秒あまりで揺れへの警戒を呼び掛ける報道体勢へと移行しました。
その他、各媒体をみても、東京で震度4~5クラスの揺れがあったということもあり、通常よりも極めて早く「番組を打ち切り」、報道体勢に移行する傾向が顕著だったように感じました。
(2)緊急地震速報の発表状況
緊急地震速報に関しては、制度的な限界もある中で非常に良く善戦した部類だったと思います。ほぼ「適報」とみて良いですし、その役割を果たせたものと思います。
地震波検知から「3.7秒後」の第1報の段階で、
・震源地:(◎)千葉県北西部
・深 さ:(◯)約60km
・規 模:(◯)M6.2
・震 度:(◯)最大5弱程度:千葉県北西部
と、ほぼ実際の観測データに合致する情報をはじき出し、関東地方1都6県(全域ではないが)に警報を発表しています。
その後は、14.2秒後の第13報から、「M6.5」と少し上振れをしますが、逆に震度予想は更に確度が高まり、最大震度5弱~5強:首都圏としています。
緊急地震速報第1報提供から主要動到達までの時間及び推計震度分布図
第1報を提供してから主要動が届くまでには、僅かながら時間があり、震源から少し離れた地域では、一番大きな揺れが伝わる直前に「警報」が届くという理想的な形を取れたものと思います。そうした意味でも大健闘でした。
※ただ、「緊急地震速報」が鳴っても強い揺れが伝わることが少なかった南関東地方では、「緊急地震速報のアラーム」に驚いて慌てて行動し、揺れの直接的な原因ではない所で怪我をしてしまう事例が多かった様に思います。やはり、冷静な行動が震度5クラス以下では大事になってきますね。
(3)2日連続の「緊急地震速報」について
「緊急地震速報(警報)」としては、前日(10/6)にも全国で2回発表されており、これで「2日連続」かつ「2日間で3回目」の発表となりました。詳細は、地震の前日に書いた記事をご参照ください。(↓)
別の地点での「1日2回」ですら、8年ぶりだとして記事にしていたのに、今回は「2日連続」での警報発表ですから、大変驚きました。地震はどこで起きるか分からないものだなというのを痛感させられましたね。
2.地震の発生地について
ここからは、今回の地震の起こった場所について振り返っていきましょう。
(1)震源地:千葉県北西部
今回の震源地は、気象庁の分類で「千葉県北西部」という地域でした。
千葉県の陸域は3つに分かれていて、「千葉県南部」と「千葉県北東部」、「千葉県北西部」でアナウンスされます。今回は、「東京湾」との境目付近でしたが、陸域という判定で「千葉県北西部」となっています。
千葉県民からは、千葉市付近は「北西部」なのか? という議論がなされていましたが、これはもう気象庁の区分がそうなので受け入れましょう。
気象庁「震度データベース」で「千葉県北西部」+「M5.5以上」という条件を検索してみると、14例ヒットします。黄色い40~50km台の地震もありますが、今回の地震の付近では緑色の70~80km台の地震が目立ちます。他の地域でみられる様なごく浅い地震は中規模では起きていないようです。
緑色の地震をピックアップし、気象官署3地点の震度を掲載してみました。
発 生 日 深 M 千葉/東京/横浜
1928/05/21 75 6.2 5 5
1951/01/09 64 6.1 4 4 4
1955/01/17 73 5.7 3 3 4
1956/09/30 81 6.3 4 4 4
1956/11/04 71 5.8 3 3
1980/09/25 80 6.0 4 4 4
2005/07/23 73 6.0 4 4 5
2021/10/07 75 5.9 5 4 5
今回に限らず、震央付近の「千葉」よりも東京・横浜方面が揺れやすい傾向は昔も今も変わらないようです。
そして、周期性のあるものではないでしょうが、この表をそういった見方で捉えると、1928年・1950年代・1980年・2005年・2021年と四半世紀に1回程度ずつ起きている計算になります。ただ、1950年代に4度発生している様に、10月7日の地震が最初で最後という保証はどこにも無いので、引き続き地震への備えをお願いします。
(2)「深さ50km以深の地震」の余震活動について
一般に、深い地震は、浅い地震と比べて、その後の地震活動が「低調」だと言われています。今回も記事を書いている現時点では、目立った地震活動は確認されていません。もちろん、将来のことは誰にも分かりませんが、私が昨日書いた記事もご参考にして頂ければと思います。
3.震度分布等について
続いて、私が力を入れる「震度分布」について見ていきましょう。ちなみに全体的な傾向としては、過去の事例と同じく、震源直上(震央)の千葉県内よりも西方向の東京・神奈川・埼玉方面で揺れが大きくなっています。
(1)昭和の時代の観測網(旧震度)だと?
私が提唱(?)している「旧震度」の分布をまず最初にご紹介しましょう。
☆【 参考・旧震度 】
強震:千葉、横浜
中震:柿岡、館山、東京
弱震:水戸、宇都宮、熊谷、秩父、勝浦、伊豆大島
甲府、河口湖、諏訪、軽井沢、網代、三島
軽震:福島、白河、小名浜、日光、前橋、銚子
三宅島、飯田、静岡
微震:盛岡、大船渡、仙台、石巻、酒田、会津若松
長野、松本、上越、新潟、輪島、福井、敦賀
石廊崎、伊良湖、名古屋、彦根、豊岡
現在の震度観測網では、震度5強を埼玉県と東京都の一部地点で観測しましたが、昔(体感時代)の観測網だと、千葉と横浜での強震(震度5弱)が、最大の値でした。
(2)観測点ごとの震度だと?
それではここから、「千葉」「横浜」「東京」の気象官署に限定して、震度の過去の経緯をみていきましょう。
①「千葉」(千葉市中央区中央港)
「千葉特別地域気象観測所」の震度観測点は、1953年に設置されたそうで、観測歴は60年近くということになります。逆に、昭和20年代以前の地震については、データがないという点にも注意が必要かと思います。
「千葉」で、震度5弱以上を観測したのは、1953年以降で「4回目」です。また、「千葉県北西部」を震源とする地震では初となります。
2011年の東日本大震災では、観測史上初の震度5強(計測震度5.0)を記録したほか、1987年の「千葉県東方沖地震」では、体感時代では唯一の強震を記録しています。
②「東京」(東京都千代田区大手町)
気象庁の本丸ともいえる大手町の観測点(東京)では、約100年前の神奈川県東部の地震以降、気象庁の「震度データベース」によれば、9回の強震を観測しています。「東日本大震災」以外は、いずれも南関東での地震です。
今回(2021/10)の地震では震度4でしたが、1928年5月21日には今回と近い震源地で震度5を観測しています。ちなみに、過去9度と申しましたが、「関東大震災」を引き起こした関東地震での余震のデータは、殆どが欠測と言って良いものと思われます。今で言えば、震度6が連発していたと見られますから、実際の観測回数は倍近くにはなるんじゃないでしょうか。
ここ半世紀に限定して整理すると、計4回の震度5級が観測されています。
1985/10/04 78 6.0 強震 茨城県南部
1992/02/02 92 5.7 強震 東京湾
2011/03/11 24 9.0 5強 東日本大震災
2014/05/05 156 6.0 5弱 伊豆大島近海
③「横浜」(横浜市中区山手町)
今回の地震で、東日本大震災以来10年ぶりに「震度5級」を観測したのが、横浜です。気象庁の「震度データベース」での検索結果がこちらです。
こちらも先ほどの東京と同様で、「関東大震災」に関するデータが欠測扱いになっています。本震も震度データはなく、神奈川県内では「横須賀」で、震度6(烈震)を観測したという公式のデータがあるのみです。
こちらも、ここ半世紀で整理をすると、4例目の震度5クラスのようです。
1978/01/14 00 7.0 強震 伊豆大島近海
2005/07/23 73 6.0 5弱 千葉県北西部
2011/03/11 24 9.0 5強 東日本大震災
2021/10/07 75 5.9 5弱 千葉県北西部
4.地震の被害等について
ではここからは、地震による「被害」について簡単にみていきましょう。
(1)人的被害について
今回の地震では1都3県でそれぞれ十数名の負傷者が出ており、全体で50人前後の人的被害が出ています。
東京消防庁によれば、東京都内では「日暮里・舎人ライナー」の脱輪による乗客の負傷者が出ました。そして、その他の県では、
・避難をしようとして足を滑らせて転倒
・家具やテーブルに頭を打って負傷
・ガラスなどの落下で体を切っての負傷
・階段や段差などでの骨折
など、地震の揺れそのものでなく、人の行動によって怪我をする事例が大半を占めました。これは、地震の少ない地域だったり、緊急地震速報が広範囲に発表されたり、最大震度5クラスの地震等で良く起きる印象の現象です。
『言うは易く行うは難し』の典型例ですが、まさにこういう地震の時にこそ「冷静な対応・行動」が欠かせないと、この被害だけを見ても思いますね。
(2)物的被害について
今回の地震では、東京都内で「ビルの外壁が地上に落下」した模様などがニュースに報じられていましたが、「建物」への顕著な被害というのは殆どありませんでした。ただし、長周期地震動階級2を観測するなど、高層ビル等では特に長く大きく揺れる事例が認められました。
その結果として多く発生したのが「エレベーター」の緊急停止(および閉じ込め)です。閉じ込められた方が首都圏で数十名、エレベーターの停止は数万台にのぼったということで、生活に影響をきたす都市型災害の一例です。
また、大規模な被害とはなりませんでしたが、数件の「火災」が発生をしたことも気になる点です。阪神・淡路大震災などで記憶されている方も多いかとは思いますが、同時多発的に火災が発生すると消火が追いつかず、類焼面積も被害も甚大となる恐れがあります。
火災に関連して言えば、インフラ、特に水道管の破損もテレビで良く取り上げられていました。電気・ガスの被害は限定的でしたが、水道管の影響は、予期せぬ所に波及する可能性があるので、断水への備えもチェックです。
(3)交通機関への影響について
そして、10年ぶりとも言われる強い揺れを感じた首都圏で、10年前を思い起こす様な混乱を招いたのが、公共交通機関のマヒです。
午後10時台の地震発生に伴い、列車の中に閉じ込められた人や、今まさに帰宅の路に就こうとしていた方々の多くが交通網のマヒの影響を受けました。
マグニチュード6に満たず、震度6弱以上を観測していない今回の地震で、これだけの混乱をきたすとなれば、ふた回りは大きいとされる所謂「首都直下型地震」では、「東日本大震災」を遥かに上回る大混乱となるでしょう。
道路の交通止めなどが限定的で、一般道も東日本大震災時に比べれば大きな混乱はなかったですが、時間帯によっては大渋滞を引き起こしていたかも知れないと思うと、避難への意識を再び高める必要があるなと感じました。
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