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ウェザーニュースで振り返る「東日本大震災」(その1)

【はじめに】
この記事では、2011年3月11日に、ウェザーニューズ(WNI)社の「SOLiVE24」で放送された『東北地方太平洋沖地震 特別番組』を振り返りながら、東日本大震災当時の状況をコメンタリーしていきたいと思います。

2009年から2018年まで続いた「SOLiVE24」は、公式がYouTubeに約1時間毎に分割した動画をアップしているので、当時の状況を追うことが出来ます。

1.14時台

2011年3月9日にM7.3の地震が三陸沖であり、その後もM6クラスの地震が頻発していたものの通常どおりの放送が続いていた2011年3月11日14時台。横町藍キャスターが視聴者からのリポートを紹介、動画の40分頃には岩手県大槌町の朝の晴れた海の写真も見えます。

そして、動画内の時間で53分から54分に差し掛かるあたり、弘前大学で地震学を専攻し、千葉県旭市職員として防災業務に携わっていたこともある気象予報士【宇野沢達也】さんが、天気概況を解説しているタイミングで「東北地方太平洋沖地震」が発生します。

画面が切り替わった瞬間で、M7.2の震度4、その後、情報が更新されるにつれて、予想規模が上がっていきます。まず特筆すべきは、速報受信から30秒余りで「津波への警戒」を呼びかけていた点でしょう。(54:25)

勿論、3月9日に津波注意報が発表されていたこともありますが、視聴者への最初の呼びかけに「津波」を挙げたメディアは少なかった様に思います。

そして、M8クラスの巨大地震という予測になった55分あたりから、主要動が千葉・幕張にある「ウェザーニューズ本社」にも到達し始めます。そうした中、55分20秒には(当初)最大震度6強での震度分布を画面表示します。

※順次「震度情報」が更新され、約1分後の56分13秒をもって「震度7」に情報が更新されますが、NHKは全く震度分布を表示していませんでしたし、民放テレビ局も大半が震度7確定後に表示した程度。断層の破壊につれて、震度6弱以上などが広がっていく様を画面で図示できたメディアは、殆ど無かったと言えます。

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この震度情報を伝える最中、幕張は揺れが最大となります。気象庁の観測では美浜区付近は「震度5強」とされる強い揺れであり、更にスタジオが高層階にあることから、長周期地震動も相俟って座っていることも困難な状況に陥っていました。

※55分から56分に掛けて「スタジオの音」も拾っていますが、強い揺れの中で何とかアナウンスを続けようとする姿勢は高く評価されるべきでしょう。

そして、強い揺れによって「画面モニタ」が映らなく(?)なった中でも、紙の原稿(最新情報)を頼りに、『最大震度7』への更新や『大津波警報』の発表などを速報しています。

※テレビなどと比べて、津波報道の違いの特徴としては、
 ① 都道府県単位ではなく「観測点(◯◯港など)」をベース
 ② 津波の予想の高さの報道を最小限に抑える
 ③ 津波の到達予想時刻に加えて「満潮時刻」を併記

などが挙げられます。もちろんこれは気象庁から発表される情報の一部なので、情報の取捨が偶然うまく行っただけではあるのですが、結果的に「3m」といった津波の最初の予想高さや「既に津波は到達」などといった県内最速の津波到達予想時刻(の誤理解)を避けることに繋がっています。

2.15時台

2本目の動画に入り、7分の段階で、大船渡の第1波観測情報(14時54分に20cm)を報じています。そして、15分ほどしか経っていない段階で「広域での停電」や「建物への被害」といった『リポート』を紹介し、地震による被害の情報も伝え始めます。

更に、一通り津波の情報を伝えた直後、「交通への影響」や注意点を伝え、気象スタジオの体勢が整う時間を確保します。(13:50~16:10)

そして、16分10秒からは、【宇野沢】さんを進行役、(当時)地象センターの【山口剛央】さんとの2名体勢での報道に本格移行していきます。

(16:45)最初の地震が極めて大きかったことから、相当期間かなり強い揺れが余震として起こる。
(17:25)速報段階で「予想高さ6m」と出ているが、この高さは、ここ十年という単位で遡っても出ていないような高さ(の予想)。今回は、震源が陸地から比較的近いことから、一昨日(三陸沖・M7.3)の地震とは違い一気に沿岸に押し寄せてくる。川を遡ると相当奥まで津波が押し寄せると想定。

この時点では、マグニチュードは7.9、津波予想高さ6mという速報情報しか無かったのですが、それでも、山口さんは上記のコメントのとおり「余震」と「津波」の見通しを正確に伝えています。

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(18:50)「避難場所が津波の避難場所に該当していない場所もあるので、海岸から離れた場所を選んで避難すること」を宇野沢さんも呼びかけます。

※これは、津波に対する防災訓練を重ねてきた三陸沿岸でも陥ってしまった誤解。『大津波からの避難』なことをしっかりと意識する必要があった。

(21:00)千葉県市原市から「近くの工場から火災」のリポート。

※TBSテレビの中継映像よりも早い第1報だったのではないかと思います。

(21:50)「大津波警報」のエリアが変更(追加)されたことを伝える中、

(23:20)茨城県沖を震源とするM7.6(Mw7.9)の地震が発生。最大震度は「6」クラスで、千葉・幕張でも「震度4~5」相当の揺れが到達します。

※揺れが収まるまで、画角でメインに映る2人を除き、地象センターの全員が机の下に隠れています。(緊急地震速報の発表が困難な状況下にあって、揺れの大きさから判断する対応力、流石です。)

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(29:25)宇野沢さんが埼玉からのリポートを伝える背後で、地象センターの方々が駆け出します。恐らく、テレビ(NHK?)の映像を見に向かったのではないかと思います。

※時間としては「15時22分」頃に当たり、ちょうどこの頃NHKでは「釜石」など岩手県を大津波が襲い始めた時間帯に当たります。

良く聞くと29:30で『釜石が!』(?)という様な声が聞こえます。また、29:35 あたりに掛けて、小型受像機を山口さんが食い入る様に覗き込んで、スタッフと頷き報道に戻る姿が映し出されています。

(30:15)
山口「宮城県で10m以上という予想が出ているが、これは非常な大津波、大被害になってもおかしくない。内陸相当深くまで津波が来るという予想。なので、一刻も早くとにかく高台、内陸の方に向かって逃げて下さい」
宇野沢「また、車での避難は、逆に渋滞に巻き込まれて逃げ遅れることにも繋がるので、歩いて避難するようにして下さい」

と、“まさに”大津波が来襲している「最中」における有益な呼びかけを行っています。そして、32分30秒になると、津波観測情報として、釜石4m20cmなどの情報が入り始めます。この3~4m前後の観測値が並ぶ状況に、思わず山口さんも『凄いな』と声が漏れます。

(34:10)
山口「4m20cmとかっていう値も出ていたんですけれども、津波を観測する験潮儀で4m20cmなんて値が第1波で観測されたというのは、過去遡ってもそうありません。
過去振り返りますと、今から80年近く前の『昭和三陸地震津波』では、3,000人近くの方が津波で亡くなった、そういう歴史を持つ場所でもある。今回の地震が同じものかは分からないが、過去にはそういう風な津波が来て、実際、本当に大被害になったということもある。そういったことが今回また来たといえる可能性もありますね。」

最後は不確定情報という事でトーンを落としましたが、実際、昭和三陸地震や明治三陸地震の様な大災害となったことを踏まえると、『地震の歴史』に対する関心を中学時代から培ってきた山口さんの知識が生きた瞬間だったと言う風に言えると思います。

(36:20)そして、1時間前まで番組MCを務めていた横町キャスターが、ビル本社前から(初めて)中継を行い、泥水に覆われている(液状化)現象や階段の段差(ヒビ割れ)の様子を伝えています。南関東地方でも物的被害が発生していることを伝える中継映像です。そんな中、39:10 過ぎになると、スタジオに戻り「大津波警報」等の対象地域が拡大されます。

(41:10)
山口「今、大津波警報は東日本が対象地域なんですが、津波警報にも注目して欲しいです。沖縄、西日本、東海地方、小笠原諸島、日本のほぼすべての沿岸に出ています。……大津波警報は勿論、大津波が予想されますけども、それ以外の沿岸、震源から遠かった、或いはそれほど大きい揺れを感じなかった皆さんも海には近づかないで頂きたい。」

宇野沢「以前、30cmの高さの津波で、町の中まで入ってきたという報告があった。(減災カルテにも登録している情報)」

山口「今、10m以上という予想がかなり広い範囲に出ているが、そのこと自体が歴史的に見ても異常なこと」

と、ついつい大津波警報との相対的位置関係から軽視してしまいそうになる「津波警報・注意報」についても重ねての注意喚起を行っています。そして宇野沢さんはこの後、10分以上に渡って、津波に関する情報を読み上げ続けます。それを受けて、

(53:10)
山口「今お伝えした情報だと(津波の観測された値:)『4.1m以上』など。情報の読み方として、特定できる値ではなくて、それ以上の津波が来ている可能性があると読み取れます。
 また、銚子で15時25分に40cmだったのが、37分に2m20cm、12分を掛けて2m海水が上がっている。更に時間をかけて更に高くなる恐れもあるので決して海には近づかない様にお願いします。」

と、『以上』という情報の読み方についても、正しい理解を促す呼びかけを行っています。(未だに理解していない方も多くいらっしゃるかと思う。)

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(55:20) 千葉県銚子市・犬吠埼で撮られた津波の「大引き波」の映像
山口「これ相当な規模で引いてますね。このカメラでこれだけはっきり分かるということは、数メートルの単位で今上下していると思います。これ下がったら必ず上がってくるのが津波ですんで。これで終わることは絶対にないです」
「引き波で始まるか、押し波で始まるかは、海底の断層の壊れ方によって変わってくる。犬吠埼は引きで始まってるが、他の海岸でも引きで始まるか、前兆があるかは分かりません。一気に押し寄せてくる第1波の可能性もあるので、くれぐれも警戒して下さい」

ここまでが、2011年3月11日午後4時(の少し前)までのウェザーニューズの報道状況でした。後から振り返って見ても、(多少、プロのアナウンサーではない不慣れな面などはあったにしても、)的確な情報分析と呼びかけを徹底して続けており、情報の正確性や専門性は、キー局に引けを取らない程のレベルだったと改めて感じます。

ここから天気だけでなく地震・津波への対応・対策も強めていくこととなるウェザーニューズ社ですが、2011年の当時でもかなりのクオリティと矜持をもって放送されていたことが確認できました。

そしてここで報じられた内容に関しては、何も東日本大震災に限った事だけではなく、多くの大地震や津波において同様に警戒すべき内容ばかりです。私(Rx)は時々、当時の映像を振り返りますが、皆さんもこの記事やウェザーニューズが残してくれた情報(映像)で振り返って、災害への備え・教訓に思いを馳せていただきたいと思います。


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