南里のエンニュイレポ⑦「結んで開いたアブストラクトレポ」

エンニュイは出演者と演出家が経費折半で行われている。という生々しい書きだしではじまるこの文章はエンニュイの12か月間連続公演をドラマトゥルクや演出助手として参加している南里亮の12分の一の総括である。よろしければ最後まで読んでいただきたい。

なんでもコロナにこじつけて話を膨らませることに飽きたので、演劇それ自体について考察すると、今だって昔だって演劇というものが非常に瞬間的なものであるのにそれに費やされるものは膨大な人の時間、労力、金を捧げないといけないものだと思う。

加えて、あえて監督も俳優も制作も含めた全員を歯車という言い方をすると、その全てが噛み合わないと機関としては成り立たないし、なおさらそれぞれが意志する歯車であるからして、ひとつのまとまりを表現することは容易ではない。

そのような演劇の前提の中で、俳優中心主義で、登録制バイトのようにその月々で自由に公演に出ることができるエンニュイの試みは、歯車が噛み合うように矯正しあうことではなく、演者たちの自由な演出を通して、自然発生的な合致をくりかえし、有機的な機関をつくることである。

演じるということに瞬間的だけど一生のうちに墓に刻まれずに魂に刻まれるほとばしりがあるのであれば、どうして旧来のシステムのままの演劇に追従する必要があるか。俳優の人が全員、演じて、演じて、演じて死ねる場所があるとすればそれもひとつの天国の形ではないだろうか。

こういった作品の作り方は、作品の強度を保たせるためにはそれなりの時間がいると思う。個性の違う俳優たちがそれぞれの芝居を絡ませるたびにお互いに寄りかかることができるようになってくるので、観客もそうだが、監督も同じようにして待つ必要がある。監督は、夏休みに学校から持ち帰った朝顔のように園芸支柱をさしたり、伸びていく方向を整える。苗が木になっていくように、時間を作っていくシステムである。

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次は今回の公演で出会った俳優たちについて、

もし、自分が俳優だったらと考えと、自分は一年目の芸人であり、ネタをつくるということの快楽に固執しているので、俳優に徹するということについてはわからない部分がある。演じることの楽しさはわかってきたけれども。

そういう心の面持ちで出会うことになった俳優たちをはじめは、ドラマや映画で見てきた、いわゆる演技らしい演技を投影してみていたために気がつかなかったけれども、段々とそれぞれの持ち味がわかってきた。自分は演劇初心者でわからなかったが、演劇は演劇でもスポーツが無数にあってルールも人数も様々なように、演劇ごとに様々であるのだ。

システムを踏まえて個人的な考察として話すと小林さんと青柳さん、長井さんは今回のシステムには慣れていて、個を確立しつつ臨機応変に対応していった。逆に演技らしい演技として自分が当初上手だなと思っていた浦田さんとヨシオカさんはシステムに順応するのが大変だっただろうと思う。

それぞれの思うことはあるとだろうが、自分が思うのは、自分の感覚に依拠して演技をすること、12か月公演で一本筋を通すのではなく、公演ごとの空気感を大事にして毎回の作品を生かすことである。だから、最初から狙いに行くことなんて何一つない。さっきは勝手に浦田さんとヨシオカさんを大変だっただろうといったが、彼女たちそれぞれの演技や声の質は、他の俳優たちとのメリハリがついて面白いし、もっと好きなことをやってみせてほしいと思った。過去は捨てて、未来も捨てて、今に集約する。これはセリフを覚えて吐き出す行為と矛盾するかもしれないが、セリフはあくまでも矢印としてみていいと勝手に思っている。このシステムも、脚本の内容の解釈の一つも、自分はそういう含みがあると思っている。

長井さんは初めの稽古を引っ張ってくれた立役者である。また、同時に前に出る=他の人の声を抑え込むということにもなるため、長井さん自身もその葛藤の中で頭を巡らせていたと思うが、その悪い役を買うことになったとしても稽古を和やかにしてくれたことの貢献は大いにあった。

小林さんは一番感覚的に動いていて、作品の中での立ち回りや目くばせは光っていた。演技の展開をつくるということではなく、細部のディテールをケアする、言い換えるなら感覚に反応して動く行為こそがこの演技を作っていることを小林さんはよく理解していたと思う。

また、青柳さんもこういう演劇のシステムを自分でも志向しているために、その落着きが、まわりの演技をまとめる働きをになっていた。

荒波さんは強い独自の雰囲気があり、話の中心となりつつ、笑いの種をまくような立ち回りとなった。荒波さんは今回のシステムにすぐシフトしていたが、そこに荒波さんがぽつんといる構造に見えがちなので、時間を経て周りとのセッションが増えてくるとより面白くなっていくと思う。

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まとめ

硬質を気取った文章で偉そうなことをいっている小生であるが、自分がいつかエンニュイにでるかもしれないことも事実、そのときは皆様にぼこぼこにされることも事実として受け入れる準備は出来ております。腕を後ろにまわし、俯き、頭でパソコンを閉じ、この文章は終わります。


南里亮 
https://twitter.com/nanri_tapeerror


↓この記事を読むと更に公演が楽しくなります。是非読んでみてください。

今月もナタリーに載せていただきました。


Performance of the day
『無表情な日常、感情的な毎秒』3月公演

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2021年3月16日・21日 CHARA DE新宿御苑
原作・演出 長谷川優貴

公演情報・感染対策はこちら
https://yennui.com

【クリエイションメンバー(50音順)】
<16日出演チーム>
浦田すみれ
鈴木まつり
長井健一
二田絢乃

<21日出演チーム>
小林駿
齋藤永遠
波多野伶奈
結木ことは
ヨシオカハルカ(演劇ユニットRe-birth)

【タイムテーブル】
2021年
3月16日(火) 14:00/19:00
3月21日(日) 13:00/18:00

【チケット】
<券種・料金>
劇場観劇チケット【各回10名限定】(当日精算・日時指定全席自由) ¥2000
配信観劇チケット(事前精算・1週間アーカイブ付) ¥800
(予約・当日共通価格)

<予約>
劇場観劇 カルテット・オンライン

配信観劇 ツイキャス プレミア配信(1週間アーカイブ視聴可能)
<16日14時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58758

<16日19時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58760

<21日13時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58761

<21日18時>
https://twitcasting.tv/hase0616/shopcart/58762

【会場】
CHARA DE新宿御苑
〒160-0004 東京都新宿区四谷4丁目7-10 小林マンション3階

【お問い合わせ】
yennuinfo@gmail.com

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