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「罪と悪」:22年前の殺人事件から紐解かれる閉鎖的な地方の若者たちの世界。出口のない空気感がビンビンと伝わる良作。

<あらすじ>
13歳の少年・正樹が殺され、遺体が町の中心にある橋の下に無残に捨てられる事件が発生。小さな町はたちまち不安と恐怖に包まれ、あらぬ噂が飛び交い、警戒心を強めていった。正樹の同級生である春・晃・朔・直哉は、正樹がよく遊びに行っていた怪しい老人おんさんが犯人に違いないとにらみ、家に押しかけもみ合った末に、一人がおんさんを殺し家に火を放った。それから時は流れ、晃(大東駿介)は刑事になった。父が亡くなり町に帰ってきた晃は、葬式に来た朔(石田卓也)と久々に話をする。朔は親の後を継ぎ、引きこもりになった双子の弟・直哉の面倒を見ながら農業を営んでいた。それからほどなくして、正樹の事件と同様に橋の下から一人の少年の遺体が見つかる。晃は捜査の中で春(高良健吾)と再会。春は建設会社を営む一方、不良少年たちの面倒を見ており、殺害された少年も春の元に出入りしていた。罪を背負った幼馴染3人が再会したことから、それぞれが心の奥にしまっていた22年前の事件の扉が開き始める。

KINENOTEより

評価:★★★☆
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

22年前の少年殺人事件と、その殺人事件の当事者となり、成長した若者たちの現在点を浮き彫りにしたサスペンスドラマ。物語のキーとなるその殺人を紐解く要因になっているのは、同じその事件の当事者となり、育った同級生たちという組み立てになっています。あくまで今を生きる若者・青年たちの闊歩している田舎町の現実を捉えながら、その中で過去に起きた事件にフォーカスしていくというお話の進め方が実に上手い。そして、そのベースにあるのは今でも田舎社会の束縛に苦しみながら、その社会の構造から抜け出せないという、今でもどこかの地方都市に起こっているだろうと思う情景を浮き彫りにしていると思います。

僕も岐阜の田舎町で育ち、今でも年に数回(ちょっと前まではあまり帰らなかったけど)は地元に戻っています。そんな僕の地元も本作で登場するような、そんな緑多き場所でもなく、都会的な風情はありながらも田んぼや野山は迫っているという、地方の主要都市からはちょっと車で離れているような場所。多くの人は農業だったり、土建業・建設業だったりを営む人が多く、
僕のような郊外族で会社員の息子というのは小中のクラスでも半分くらい。あとの半分が昔から地元で何かしらの産業をやっていて、今もたいていは親の仕事を継いだり、直系の仕事はしてないまでも関連の会社で働いたりする連中が多い。もう大学の頃に地元を離れてしまったので、僕らの世代はどうなのか分からないですが、親世代を見ると、新興住宅地区に住んでいる人は別として、多くの昔からある地区に住んでいる人たちは自分たちの仕事関係がその地区に縛られていて、農業だったら組合や隣同士の助け合い、土建業とかだったら工事の下請け・孫請け関係で変に序列みたいのがあって、当時子どもの目線から見ても、○○は上だから地区代表とかをし、○○は下請けだから(表現悪いけど)いろんな人にヘコヘコしているとか、その構図が地方議会などの議員構成そのままになってたりとか、本作に登場するような暴力団っぽい集団はなかったけど、腕力が強そうな族っぽい若者たちがあったりとか、、まぁ、どこかの地方あるあるではないけど、昨今の田舎に住みましょーみたいなキラキラしたイメージは、ほんとに山奥とか行かない限りはないのかなと思ったりします(笑)。

本作では、そうした田舎に縛られ続け、かといってエリートみたく都会に出ることも躊躇してくすぶっている田舎の不良青年・少年たちが物語の中心にいます。その荒くれる者たちを抑えるリーダーになった元少年、エリートとなって警察として地方に戻ってきた元少年、そして親の跡を継ぎ、細々と家業を営む元少年、、3人の元少年たちがある事件をきっかけに再び出会い、そして22年前の謎が紐解かれていく。。サスペンスの展開としては最後のネタになる部分は少々驚きましたが、結末のあっけなさとともに、闇に葬られていく形も地方の闇をちょっと象徴しているかなと思います。全体的によく構成されているお話だし、回想シーンの少年たちの名演も含め、観ていて引き込まれるのですが、椎名桔平演じる佐藤刑事であったり、大東駿介演じる吉田刑事など、警察側の闇を感じる部分の掘り下げが少し物語の本筋に絡まないなど消化不良点もちょっとあるかなと思った点は少し減点ポイントとななったかと思います。

<鑑賞劇場>大阪ステーションシティシネマにて


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