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「パリ、テキサス」:鬼才ヴィム・ヴェンダースによるロード・ムービー。孤独な男が息子の存在で一変する姿がキュート。

<あらすじ>
テキサスの原野。一人の男(ハリー・ディーン・スタントン)が思いつめたように歩いている。彼はガソリン・スタンドに入り、水を飲むと、そのまま倒れた。病院にかつぎこまれた彼は、身分証明もなく、医者(ベルンハルト・ヴィッキ)は一枚の名刺から男の弟ウォルト(ディーン・ストックウェル)に電話することができた。男はトラヴィスといい、4年前に失踪したままになっていたのだ。病院から逃げ出したトラヴィスをウォルトが追うが、トラヴィスは記憶を喪失している様子だった。。

KINENOTEより

評価:★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

午前十時の映画祭より。

「ベルリン 天使の詩」(1989年)や近作では役所広司と組んだ「PERFECT DAYS」(2023年)が中高年を含めてクリティカルヒットした、ドイツの鬼才ヴィム・ヴェンダースの1984年の発表作品。予告編もあるように、カンヌ国際映画祭でも最高殊勲賞であるパルム・ドールを獲得しています。昨年の「PERFECT DAYS」のヒットもそうですが、日本人にとってヴェンダース監督というのは結構身近な存在で、「ベルリン 天使の詩」や本作、そして「ブエナビスタソシアル・クラブ」(1999年)まで、1990年代のミニシアターブームをけん引した一人だなという認識が僕の中では強いです。ちょうどその頃、積極的に映画を観ていた20~30代の人間は、今や50~60代になっているので昨年「PERFECT DAYS」の全国的なヒットは、ちょうどその世代が観ていたということになりますよね。

という、ヴェンダースの代表作として、「ベルリン 天使の詩」と並んで紹介される本作。彼の作風というのは劇映画に関してはとにかく寡黙なキャラクターが出てくることが多いので、結構主人公の目線なり、動作で魅せることが多いのですが、「ベルリン~」は白黒ということもあり、僕にはちょっと眠気を誘う作品なんですよね(汗)。。それ比べ本作は、典型的なアメリカン・ロードムービーで、主人公のトラヴィスが最初は言葉を失ったように喋らないキャラクターだったのが、弟と再会し、息子と再会し、そして忘れていた元妻に会いに行く過程の中で、どんどん変わっていく。出会いによって主人公が変わっていくという典型的なロードムービーではありますが、そこになぜ冒頭では打ち捨てられたような孤独だったのかという謎を解き明かしていくというミステリーな要素も含んでいるのです。

基本的には哀しい話だとは思うのですが、その中でもトラヴィスが様々な出会いを通して希望を見出していくところに”救い”も存在するなと思います。特に、息子との再会と新たな旅立ちの中で、子どもが自然と発揮する人としてもピュアなところに、閉じていたトラヴィスの心も自然と開いていく。旅立ちのシーンのワクワク具合など、無口なトラヴィスの少しキュートな動作で表現しているところなど素敵だなと思うところです。人はいつも幸せなときばかりではない。逆に、怒りや悲しみ、どうしようもない持っていきようのない感情を抱えたときこそ、旅に出て、人に出会うことが重要なのだなということを思い起こさせてくれる良作だと思います。

<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて


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