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「クラユカバ」、「クラメルカガリ」:構想十年で作られた劇場用ファンタジー映画。独特の世界観は良いが、もう少し物語に奥行きが欲しい。

<あらすじ>
(クラユカバ)
今、世間を惑わす”集団失踪”の怪奇に、探偵・荘太郎(声:六代目神田伯山)が対峙する。目撃者なし、意図も不明。その足取りに必ず現れる“不気味な轍”の正体とは……?手がかりを求め、探偵は街の地下領域"クラガリ"へと潜り込む。そこに驀進する黒鐵(=くろがね)の装甲列車と、その指揮官タンネ(声:黒沢ともよ)との邂逅が、探偵の運命を大きく揺り動かしていく……。

(クラメルカガリ)
零細採掘業者がひしめく炭砿町、通称”箱庭”。日々迷宮の如く変化するこの町で、地図屋を営む少女カガリ(声:佐倉綾音)と、”箱庭”からの脱却を夢想する少年ユウヤ。やがて2人は個性豊かな住人たちと共に、町全体を揺るがす謀略と相対することに……。果たして”箱庭”の命運は? そして、カガリの描く地図の行末や如何に!?

KINENOTEより

評価:★★★(両作とも)
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

自主制作作品などを発表してきたアニメーション作家・塚原重義が、構想10年をかけたファンタジーアニメーション。作品の分類的にはどこか日本の大正~昭和初期の独特な江戸文化のような背景をもとにしたSFミステリーといったところでしょうか。でも、「クラユカバ」がクラガリという世界と対峙していく江戸川乱歩のような探偵ものという感じですが、「クラメルカガリ」は「クラユカバ」のスピンオフという位置づけのように、ミステリーというよりは「風の谷ナウシカ」(1984年)や「天空の城ラピュタ」(1986年)のような異なる世界との衝突と、戦争前夜もののような世界観に似ているかなと思います。どちらも独自の世界観が貫かれていて、観ていて興味をそそるものでした。

それにしても全世界共通に思うのですが、こうした地下の世界にしろ、夜の世界にしろ、いわゆるダークサイドの物語というのはファンタジーとの融合レベルが高いなと思います。これが欧米だと「ハリー・ポッター」の世界のような魔法ものであったり、「ドラキュラ」のような吸血鬼のようなモンスターものであったりするのですが、日本だと古来からの神道的なもののけなり、妖怪だったり、西欧だと闇=悪魔という白黒はっきりする世界観であるのとは対照的に、この世とあの世の境界線である”うつし世”の世界である、獣(もののけ)的だったり、霊的な世界観になるのは私だけでしょうか(笑)。それをはっきり描くのは「もののけ姫」(1998年)であったり、「千と千尋の神隠し」(2001年)だったりして、エンターテイメントにふると最近の「鬼滅の刃」なんかも広い意味でそういう世界観に覆われているかなと思ったりします。だから、日本だとこうした世界は灰色っぽい世界を使うのが非常に上手いなと思ったりします。

こうした灰色の世界と大正ロマン(大正モダニズム)満載な世界観は上手く描かれているし、フィルム映画のような独特なざらつき感や色あせ感まで、アニメの絵としてこだわりは凄いなと思います。ただ、見終わった後にすっきりしてしまう感が少しあって、物語の粘っこさが若干希薄なところが、せっかく出てくる面白いキャラクターを少し平板に見せてしまっているところがもったいないなと思ったりします。劇場での鑑賞特典で、オンライン小説なども配布されていたりしまうが、そこも含めての世界観が壮大に作られているかもしれないのですが、そこをもうちょっとアニメ作品の中で追及して欲しかったかなと思います。

<鑑賞劇場>アップリンク京都にて


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