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「夜明けのすべて」:観ていて優しい気持ちになれる映画。こんな職場はないかもしれないが、人を信じたくなる良作!

<あらすじ>
藤沢さん(上白石萌音)は月経前症候群(PMS)を抱えており、生理前になるとイライラを抑えることができなくなる。ある日、やる気がなさそうに見える同僚の山添くん(松村北斗)のちょっとした行動が引き金になり、藤沢さんは怒りを爆発させてしまう。一方、山添くんもまたパニック障害を抱え、心が思い通りにならず、電車など逃げ場のない場所に行けなくなってしまっており、様々なことを諦めて生きがいも気力も失っていた。少しずつ互いの事情と孤独を知り、友達とも恋人とも異なるどこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。職場の人たちの理解に支えられながら、二人は自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと思うようになっていく。

KINENOTEより

評価:★★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

世の中は多様化の時代。働き方についても然りで、僕が社会人になった数十年前でもセクハラという言葉はあったものの、ハラスメントは性に関わるものだけで、パワハラとか、モラハラとか、いろんなパターンで定義される世界ではなかったです。だから、職場でも怒号や叱責が飛ぶ場は平気であったし、そうする人も職場を引き締めるという意味合いでわざと他の人が見える場で堂々とやっていたような気がします。そういう時代だったんでしょといえばそれまでですが、飲み会とかの場で人間関係としては仲良く見えていても、それぞれに心に傷をもって働いていたのではないか、、うがった見方かもしれませんが、今思い返すとそういう想いに囚われたりします。ネット社会になった今では職を選べば全く人と関わらないで仕事をできたりするのかもしれませんが、たいていの仕事はまだまだ他人とコミュニケーションを取らないと(個人事業主であれ)稼げない世の中。そんな中で、心身に問題を抱える一組の男女の物語が本作となっています。

観ていて思い出したのは、何年か前に職場にいたパニック障害の女性のこと。普段はとても明るい方でしたが、何かのきっかけで酷い過呼吸になったり、座ったまま軽い貧血状態になったりされたりしていました。普段の仕事の場(オフィス)ではご本人もうまく自分自身をケアされていたいたのか、そんなに問題ではなかったのですが、本作の山添くんのように、特に会議室など狭い場に多くの人がいるような状況だと発作が出て、会議が中断することも度々あり、結局入職から数か月で退職されました。。直接同じ部署の方ではなかったので詳しい事情は分からなかったというのは今考えると少し言い訳で、当時も、本作を観た今でも、パニック障害とは何なのかを表面上は分かっても詳しく知らないし、当時も一緒の職場にいて、問題があったらどうすればいいのかを本人なり、本人の近くにいた人に任せてしまっていたなと思います。自分も身体障害を持っている身だから分かりますが、自分がどういう障害で、どういうことに問題があったらどうして欲しいとかは直接の上司であったり、人事の人には一応話すものの、同僚とか、社内外も含めて積極的に自分から言うことも、逆に聞かれることもあんまりないな、、と思います。病気や障害のことを聞くのはタブーであったりする風潮が(特に、日本の職場では)あったりするのですが、僕は聞かれて困ることはないもないし、かといって積極的に話すことでもないし、、という、”ん、ん、、ん、、、”な状況が続いたまま、今まで来てしまっているというのが正直なところです。

本作が上手いなと思うのは、そういった様々な心身の病を持っている人に対し、周りの人間が心地よい距離感で接してくれることでしょう。コミュニケーションという言葉はよくできている言葉で、単純に病気について話せばいいことではなくて、お互いが何気なく自分のことを話せてしまう距離感ではないかなと思うのです。対比で描かれる藤沢さんの前職場の状況でも分かるように、様々な障害を抱える人とともに仕事をすることは法律的にも、世の中の風潮的にもみんなが分かっていることではあっても、やっぱりそういう人がいるだけで仕事の効率は下がるよね、、という暗黙の圧力はかかってしまう。だから、周りの人間は受け入れるようで、受け入れていない。溝はどんどん深まって、双方がその場にいずらい状況になってしまうのかなと思います。大事なのは言葉では簡単ですが難しい、優しさをダサくでも見せ合うことではないかなと思います。優しい人は強い人だというのは前から思っていることですが、優しさとは自分の弱さを堂々と見せれる人だと思うのです。弱さやダサさを堂々を見せれるからこそ、それがその人にとってどれだけ辛いことだということも知っている。そんな優しさをお互いが気づけば、ちょうどよい距離感を保ちつつ生きていくことができる。そんな職場はないよと思うものの、そういう職場があることを信じれれば、少しでも明るい夜明けを世界のいろんな人が迎えられるのではないかなと思います。いい映画でした。

<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて


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