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【キネマ宅配便!!】2020年9月の推し映画#2 『言葉で語ること、語らないこと』

グズグズしていると10月も終わりそうなので、次の映画を(笑)。今回選ぶテーマとしては、「言葉として語ること、語らないこと」です。若干、意味不明ですが、、

言葉にすることの大事さを伝える作品

「幸せへのまわり道」を観ました。
(評価:★★★(最高が★5つ、最低が★))

雑誌記者として華々しいキャリアを積んできたロイド・ヴォ―ゲル(マシュー・リス)は、愛する妻、そして生まれたばかりの子どもと一緒に暮らしていた。そんなある日、姉の結婚式に招待されたロイドは、絶縁していた父・ジェリー(クリス・クーパー)との再会を果たす。ロイドは、家庭を顧みず自分たち姉弟を捨てた父を許せず、些細なことで手を上げてしまうなど、心の内にわだかまりを抱えていた。その数日後、編集部の依頼を受け、子ども向け番組の人気司会者フレッド・ロジャース(トム・ハンクス)に関する記事を書くことになったロイドは、彼の仕事場を訪ねる。ひと目でロイドが抱える家族の問題や心の葛藤を感じとるフレッド。そして、ロイドもフレッドの不思議な人柄に惹かれていく。やがて2人は、取材という名目を越え、公私に渡って交流を深めていく……。

トム・ハンクスがアメリカTV教育界のスター、フレッド・ロジャーズを演じた伝記映画、、、では実はなく、ハンクスがロジャースを演じるものの、そのロジャーズにインタビューをしようとしている少し落ち目になっているジャーナリスト、ロイドを主人公にした物語となっています。

この映画を取り上げたのは、近年観た作品の中でも少し異彩を放っている作品だからです。よくいえば落ち着いている、悪くいえば、監督や脚本家の好き勝手に(ロジャースを狂言回しとして)描いた奇抜な作品になっているのです。落ち着いているけど奇抜って真逆なようですが、例えると、落ち着いた静かな美術館で奇抜な現代アートを観ているのに近いかな。そう、この映画は少しアート映画な側面もあると思います。

この作品のテーマになっているのは、「言葉として語ることの重要さ」。僕はフレッド・ロジャースという人物がどういう人なのか、この映画を見るまでは知りませんでしたが、作品を観る限り、日本だとEテレ(旧NHK教育テレビ)に出てくる子どものスターでもあり、大人たちにも慕われているホンワカキャラといってもいいかもしれません。こんな当たり障りのなさそうな人がなぜ人気を保つのか、それを主人公ロイドの視点から分析していくのですが、これが一筋縄ではいかないのです(笑)。

ロジャースが活躍したのは1960〜1990年代まで。ときは各先進国にて高度経済成長が終わり、ベトナム戦争など混迷を経て、バブル崩壊からの混迷期を迎えるまでの激動の時代となります。幼き頃から家庭に問題を抱え、仕事もうまくいかず、何もかも嫌気がさしているロイドは誰にも打ち明けれない心の悩みを抱えている。しかし、それを誰にも打ち明けられず、投げやりに日々を送ることでうまくいっていた妻との生活も危ぶむ毎日。それがロジャースの「心に抱える悩みをすべて言葉にして、打ち明けてごらん。そしたら僕が何とかしてみせる。」ということから徐々に開放されていくのです。

心にもやもや感を抱えるというのは今でも誰しもがあること。それが大きくなるまえに、打ち明けられる人がいれば状況は違うのかもしれないですが、誰もが気を張って生きている現代社会ではなかなかできない。それをロジャースは子ども心を失わない大人として、真正面から受け止めていた。だからこそ、何気ない子ども番組の司会者が誰しもから愛されるスターになった要因ではないかと思うのです。

反して、今の社会はTwitterなどのSNSで誰しもがよくも考えずに汚い言葉を吐き出す時代。今、ロジャースが生きていたら、彼はどんな言葉で子どもたち・大人たちに語りかけていたのだろう。そんなことをふと考えさせる良作でした。

次に、同じく言葉を紡ぐ人を描いた、ちょっと毛色が違う作品を。

言葉にできないことを伝えることの難しさと重要さ

「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を観ました。
(評価:★★★→シリーズファンなら+★)

人々に深い傷を負わせた戦争が終結してから数年。世界は少しずつ平穏を取り戻し、技術開発により生活が変化、人々は前を向き進んでいく中、代筆業に従事するヴァイオレット・エヴァーガーデン(声:石川由依)は大切な人への思いを抱えながら、その大切な人がいないこの世界で生きていこうとしていた。そんなある日、一通の手紙が見つかり……。

こちらは手紙に文章をしたためるということで、言葉で語る・語らないに入れていきたいと思います(笑)

よくも悪くも名前が全国区となった京都アニメーション製作の作品ですが、僕が京アニの作品の中では一番好きかも(「響け!ユーフォニアム」が一番ではあるんですが、こちらは僕が吹奏楽部活経験者というフィルタがどうしても入ってしまうし、「聲の形」は作品的には素晴らしいけど、ちょっと辛い話でもあるんで)。

シリーズを知らない人のために、ちょっと物語の概要に触れておくと、戦争孤児であり、戦争人間兵器として育てられた少女ヴァイオレット(一応作品上は本名不明)。彼女の実質上の育ての親だったギルベルト少佐が戦争で行方知れずになってしまい、戦争後、ギルベルトの親友・ホッジズの経営する郵便社のもと、代筆業を行う自動手記人形として、様々な人の触れ合いから愛を知っていく、、という話になっています。

映画としては、このヴァイオレットと彼女が愛したギルベルト少佐の物語が最終章となり、シリーズとしても終結するという形になっています。今までのシリーズを知っている人だと涙涙でスクリーンが見られない(実質、僕もこっち)となるのですが、作品単体で見ると、今までのクールな作調ではなくて、甘ったるいラブロマンスの色合いが強くなるのが賛否が分かれるかと思います。

僕はどちらかというと本作より、このシリーズが知られるようになった外伝ストーリーとなる前作「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 永遠と自動手記人形」か、もしくはNetflix等で配信されているアニメシリーズのほうを見てから、本作を鑑賞するのが適切かなと感じます。

シリーズの中でいいなーと思えてくるのが、やはり手紙の重要さですね。今はIT化の中でも、EメールからSlackやLINEなどのチャットがメインストリームになり、TwitterなどのSNSメディアが従来のマスメディアにも大きな影響を与えています。でも、すぐ全世界に向けて発言できるのはいいけど、炎上などに象徴されるように、その言葉を発することの意味をよく考えずに文章を発信してしまう危うさもあるのです。

従来なら、こうした一言発言って、会議や飲み会などの場でポロッと出ることはあっても、そこは失言としてしか残らないし、(誹謗された人には記憶には残るかもですが)、人の記憶からも徐々に忘れられることが多かったと思います。でも、今はそうした失言はたとえ本人が消したり訂正しても、誰からに拡散され、面倒なことにネット社会では永遠に残っていく。それが人の評価にもつながってきて、下手したら仕事や生活の中にも大きな影響を残していくのです。

手紙って、僕もたまに筆を取って書くことがありますが、Twitterやブログのような多数への発信ではなく、手紙の送る相手に対して、その人のことだけを100%想って、その人の読んだ反応を想像したり考えたりしながら書けるって素敵ですよね。Eメールだったら、CCなどを駆使して、その人以外も読めることができる保険をかけたり、チャットだと後から削除したり、フォローコメントしたりとしどろもどろにできるけど、手紙はそこに紙で残る美しさというか、潔さがある。手紙を書く人は正直減ってくるかもですが、手紙という文化はいつまでも残ると僕は思います。

今回の映画に関する参考書籍として、以下を上げておきます。タイトルはいささか過激ですが、中身は驚くことが結構書かれています。また、人に伝えることが最終的に言葉であるなら、その言葉を紡ぐ前によく考えるということが重要ということを改めて考えさせられます。


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