「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」:スコセッシ映画にしてはマイルド気味なので、初心者にはお勧めの良作!
評価:★★★☆
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)
「グッドフェローズ」、「ギャング・オブ・ニューヨーク」で知られるマーティン・スコセッシの最新作。1942年生まれの彼は今年(2023年)で81歳とまだ老け込む年齢ではないですが、ここ近年の作品はNetfilxなどでのネット配信が多くなってきて、あまりスクリーンで見られないのが残念なところ(本作も、AppleTVで今後独占配信予定)。彼の名前を知る人は多分二世代くらいに分かれていて、1つはスコセッシが30代後半~40代に手掛け、主にデ・ニーロと組んだ「タクシードライバー」(1976年)、「レイジング・ブル」(1980年)、「キング・オブ・コメディ」(1983年)から「グッドフェローズ」(1990年)くらいのファン、もう1つが本作でも主演を務めるディカプリオとのコンビ作をいくつも生み出した2000年代の「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002年)、「アビエイター」(2004年)、「ディパーテッド」(2006年)くらいのファン層でしょう。ちなみに僕はこの間の迷走期(「カジノ」(1995年)、「救命士」(1997年)など)から映画ファンになったので、前者も後者もどちらも好きな天邪鬼(あまのじゃく)な世代です(笑)。
多作な時期と寡作な時期が交互に来る方な印象はありますが、こうしてフィルモグラフィを改めて書いてみると、一貫しているのは狂気に囚われた人の栄光とその末路をずっと描いているなと思います。どんな人でも大なり小なり経験はあると思いますが、長い人生の中で、仕事(もしくは学業)も、プライベートも順調な時期もあれば、やることなすことうまいこと行かない時期もあったりします。もちろん、こうした調子の波を少なくしようと、いろいろ自己研鑽を積み、個々人の能力を上げている人はいますが、結局人生生まれてから死ぬまでずっと幸せという人は、この世にはいなく、だからこそ人生は辛く面白いものなのかなと思います。スコセッシが描くのは、そうした人生の旨味を一瞬でも感じた人が、その旨味を逃したくなく、もがきながら沈んでいく人たちを哀愁をもって描くことが非常に上手い。無論、映画なので、自分であったり、他人であったりに、その狂気をバイオレンスな形で表出していく主人公たちが多いのですが、それを彼独自の暑苦しいまでなカメラワークやギトギトさが伝わってくるような映像美で描いていく。それが結構好き嫌いが分かれるところで、おまけに彼の作品は結構長尺なものが多いので、何にハマるかハマらないかで、彼の作品の評価が大きく分かれるかなと思います。
という意味で、本作を見てみると、結構スコセッシ作品の中ではマイルドな作品かなと思います。それは主人公アーネストと先住民の女性モリーとの恋物語が映画の序盤から、様々な暗躍が始まってくる中盤以降も底辺に存在しているからでしょう。でも、やっぱりお話の主軸に出てくるのは石油、そしてその利権を争う男たち(一部女たち)の激しい抗争。この辺りはギャング映画が初期から長く軸にあるスコセッシの上手さが感じられます。結局、殺し殺されって、収まるところがなくなってくる。それが分かっていても殺し合ってしまうというのは、もはやギャグにしかならない(スコセッシの底辺にはブラックな笑いがやっぱりどこかにあるのですが)ことを上手に描いていきます。
とはいいつつも、スコセッシファンにとっては(ラストのビックリな演出以外は)ちょっと暑苦しさは足りないかもしれません(笑)。。でも、話自体はすごく面白く、206分という長い上映時間も感じさせないので、予告編を観ていただき、何か感じた人は是非見て欲しい作品でもあります。
<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて
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