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「笑いのカイブツ」:お笑い好きの超陰キャが表舞台に立とうとする成長劇。弱肉強食の世界で、人の陰陽が見える面白さ。

<あらすじ>
愚直で不器用、人間関係を築くのも得意ではないツチヤタカユキ(岡山天音 )は、笑いに人生を捧げており、気が狂うほどにネタを考える日々を送っている。念願が叶いお笑い劇場の小屋付き作家見習いになったものの、笑いだけを追求し常識から逸脱した行動をとるツチヤは、周囲から理解されずに淘汰されてしまう。ヤケを起こしながらも笑いを諦められないツチヤは、ある芸人のラジオ番組にネタや大喜利の回答を送るハガキ職人として情熱を注ぐ。やがてラジオ番組を通して憧れの芸人から東京に来て一緒にお笑いやろうと声がかかり、ツチヤは東京で必死に馴染もうとするが……。

KINENOTEより

評価:★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

テレビの大喜利番組やお笑いラジオ番組の投稿に心血を注いだ実在の人物・ツチヤタカユキの半生を、近年若手ヴァイブレーターの位置を確立しつつある岡山天音の主演で描いた作品。僕も知らなかったのですが、このツチヤさんというのは実在の人物で、現在でも関西を中心にお笑い作家として活躍されている方とか。今は野球・サッカーなどのスポーツ放送とNHKニュース以外、全くテレビを観なくなったのでなんともなのですが、本作を観ていて、昔(今もやってる?)「タモリ倶楽部」であったり、「ボキャブラ天国」であったり、「生ダラ」であったりと、漫才に留まらない(無論、昔をさかのぼればドリフのコントであったりはありますが)”お笑い”の形も多種多様に展開されていた時代があったなーと、テレビを見ていた頃の懐かしさ(ラジオもメインのメディアであったりとかも含め)を感じる作品となりました。

こうしたお笑いの世界を生きる人々を描く作品というのは、表舞台に出る芸人さんの物語はたくさん映画化されていると思いますが、本作が珍しいのは本当にお笑いなり、エンターテイメントを知る人以外着目されない、作家(メディアを中心に言ってしまえば、放送作家)と呼ばれる人々に焦点が当たっていることでしょう。お笑いの世界も若手は自分が古典であれ、現代ものであれ、ネタを考え、話や構成を考えていくのですが、テレビやラジオの番組なり、公演とかになってくると、裏方も含め多くの人間が動くので、1つの流れを作るために構成を考える人がメインを張る芸人以外の人物である作家が担うことが多くなってきます。でも、結構お笑いのネタとなる要素は顔として前に出る芸人に光が当たるので、ネタも十中八九、芸人が考えているだろうと思われている(もちろん、有名になっても自分自身で考えている人たちもいますが)ことが未だに多いんですよね。本作を観ていると、私たちが単純に観ている舞台なり、番組なり、今だったらYoutubeなどのコンテンツも、思った以上に多くの人たちの力で成り立っているんだなということを知れると思います。

当然、これだけの人が集まるのだから、純粋に笑いとしての実力だけでなく、力がなくても人当たりが良くてのし上がってきている人もでてくるのは当然のこと。会社でも、なんでこんな仕事しない人が重役なんだろうとかいう人がいたりしますが(笑)、どこの世界でも、その人に合った役割・役回りというのがあり、それは単純に仕事ができるできないで決まっているわけでもないのです。でも、実力主義なツチヤにとっては、陰キャを自覚しているからこそ、そうした上にいる実力がないやつに、自分の仕事が無茶苦茶にされるのが気に入らない。そんな弱肉強食な世界でも、ツチヤが放つ良さを分かって守ってくれる人もいるのも人生の不思議。仕事を全面的に任せ、守ろうとする仲野太賀演じるベーコンズの西寺、前原滉演じるマネージャー的な立ち回りの氏家、ツチヤのやるせなさを全身で受け止める菅田将暉演じるピンクなど、素敵な男たちに囲まれたツチヤの半生は(結論どうのこうのは別として)幸せだったのかもしれません。

<鑑賞劇場>アップリンク京都にて

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