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【キネマ宅配便!!】2020年9月の推し映画#3『LGBTとBL』

もう10月も終わろうとしているので、4つのテーマに分けたかった「9月の推し映画」の1作品は来月に延ばします(10月にも、もう一回その作品観たし)。ということで、最後の推し映画テーマは、「LGBTとBL」です。

2020年9月は多くのLGBT関連作品を観たので、それを心に残ったものから順番に紹介していこうと思います。

非常にセンシティブなテーマではありますが、最初に少し切り込んでお話をしていきます。僕は愛し合うこと自体に同性も、異性も関係ないと思っている人間です。いろんなセクシャリティのご意見やジェンダー論はあると思いますが、僕自身の認識としては、性としては2つあると思います。

1つは「性自認」のお話。人は誰しも、生まれながらに性を持っています(性器もそうですが、身体障害で形としてはなくても、細胞レベルでは男性・女性とでは遺伝子の違いもあるので、必ずあると言ってもいいでしょう)。しかし、これは形としての性でしかない。形ある性の身体として生まれても、実はその反対の精神を持ってしまうということはあることは社会的にも認知されてきたし、(僕はそうではないですが)想像するだけでもかなり大変なことだと思います。こうした性自認に問題を抱えた人は、社会全体でしっかりサポートする必要は今後も然りではないでしょうか。

もう1つは「性指向」のお話。ぶっちゃけ同性と異性(もしくは両性)に、どちらにオーガズムを感じるかということです。これは生まれた時点に先天的に抱えるものかもしれないですし、成長の過程でどちらかに決定されるものかもしれない。そもそも科学として、メカニズムで解明するべきものでもないとも思います。これも近代までは性指向が同性に向かう人は病気や障害として、治療の名目で強制変更しようとしてきた悲しい歴史もあるのです。

この2つの性に関する話は、個人の非常にパーソナルなことだし、もし悩んでいる人がいるとしても、それを変えることで自分を殺してしまうことは絶対しないほうがいいと思います。難しいのは個人で完結するところはいいとしても、人は社会で他者との関わりの中で生きるので、多様性が認められつつある中で、どう性との問題を生きるかですね。これは一昔前なら、存在を社会から抹殺することでないものとして扱ってきたのですが、これからはよく考えていかねばならない永遠の課題だと思います。

こういいながらも一方で、同性愛などの問題で括られる、他人との愛情物語では同性も異性も関係ないと思います。よく恋愛話でも最初は全然タイプじゃなかったけど、話すうちに惹かれていったということがよくあるように、性はきっかけにこそなれ、愛はどこで育まれるかは分からない。でも、結果として恋愛は性にも行き着くから難しいことでもあるんですけどね(笑)。前段が長くなりましたが、今回紹介する作品は、こうした性と恋愛をテーマで絡めてみると深く感じることができる作品です。

自然な同性愛の形に好印象な爽やか作品

「リスタートはただいまのあとで」を観ました。
(評価:★★★☆(★5つが最高、★1つが最低))

会社をクビになり、都会生活にも疲れた孤塚光臣(古川雄輝)は、10年ぶりに故郷に帰ってくる。そこは昔と何一つ変わらない田舎町。そんなある日、光臣は、近所で農園を営んでいる熊井のじいちゃんの養子・大和(竜星涼)と出会う。父親から実家の家具店を継ぐ事を拒絶された光臣は、大和がいる農園の手伝いを始めることに。光臣は当初、大和を「馴れ馴れしくてウザい奴」と思っていたが、大和はふさぎこんでいる光臣を励まし、心の痛みに寄り添う優しい一面を持っていた。やがて、大和は光臣にとって大切な存在に変わっていく。ある夜、光臣と大和は酔いつぶれてしまい、目覚めた光臣は寝ている大和に思わずキスをしてしまう……。

原作はBLコミックの同名作品を映画化した作品。上記のようなことを語った上で、(BLとLGBTはそもそも世界観が違うっていう話はあとから展開するとして)まず、本作は単体で見た感想をいうと、とっても爽やかに尽きるでしょう。BL(ボーイズラブ)作品というと、男同士が絡み合って気持ち悪いという人もいるかもですが、本作はそもそもキスシーンが中盤に少しあるのみで、物語の中心は都会の生活に疲れ、生まれ故郷での生き方を見いだせない一人の青年の成長劇に置いているのが成功していると思います。

そうした一人の青年・光臣の成長を手助けする、馴れ馴れしい大和という不思議な男。こういう前向きポジティブ男だったら、誰でも惚れてしまうというあるある感が、二人が終盤に恋人同士というか、同じ道を歩んでいくであろう同志として見れるところが、男同士の恋愛映画として受け入れやすさにつながっているのです。何でもできそうだった大和が、初めて見せる弱みに寄り添う光臣の姿。胸キュン系なピュアな愛情物語なのです。

LGBT映画に収まらない芸術作品

「ブエノスアイレス」を観ました。
(評価:★★★★★)

アルゼンチン。旅の途中で知り合ったゲイのカップル、ウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)。やり直すため、イグアス滝へ向かって旅立つが、道に迷って言い争い、それが別れ目に。しばらく後。ブエノスアイレス。タンゴ・バーでドアマンをしていたファイの部屋に、傷ついたウィンが倒れ込んでくる。ウィンはしばらくファイの部屋に居候。だが、二人にかつてのような情事はない。傍若無人なウィンの振る舞い。怪我から回復したウィンは、コックをはじめたファイの留守中は外出が目立つように。ファイはパスポートを隠した。ウィンは怒り狂い、ファイに「返せ」と迫るが、ファイは取り合わない。ある日。ウィンの姿は消えていた。うつろな思いのファイ。だが、厨房の後輩チャン(チャン・チェン)は心を安らがせるのだったが・・・。

ちょうどアップリンク京都でのリバイバル上映で見ましたが、「欲望の翼」などで知られるウォン・カーウァイ作品の代表作(1997年カンヌ国際映画祭最優秀監督作品)。僕はスクリーンでも、作品としても初鑑賞でしたが、いやーいいですね(笑)。何本か観ているカーウァイ作品でも一番かも。冒頭のクレジットから、各エピソードでモノクロームやカラー、ダーク調と色彩を変えて描くところは、もう1つの完璧な芸術作品を観ているよう。単語酒場での喧騒や、終盤のイグアスの滝の部分などサウンドや音楽にもめっちゃ心を奪われます。

そうした見た目、聞こえ目の芸術な部分を除いた物語としての部分は、「リスタート〜」と違って、本当にある程度関係が成熟してしまったカップルの危機を描いていて、これはゲイだからどうだからということもないかなと思います。ストーリーラインを読むと、ウィンとファイの物語にチャンが入ってきた三角関係なのかなと思わせるのですが、そこは意外にそうでもない展開にするのが、やっぱり恋愛の美しさというか、難しさを描いているなとも思います。これはLGBTだからではなく、映画作品として死ぬまでには見たい一作でしょう。

同性の友人が急に恋愛対象になるのか?

「マティアス&マキシム」を観ました。
(評価:★★★)

30歳で幼馴染のマティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマキシム(グザヴィエ・ドラン)は、友人が撮る短編映画で男性同士のキスシーンを演じることになる。二人はその偶然のキスをきっかけに秘めていた互いへの気持ちに気づき始めるが、美しい婚約者のいるマティアスは、親友に芽生えた感情に戸惑いを隠せない。一方、友情が壊れてしまうことを恐れるマキシムは、想いを告げずにオーストラリアへと旅立とうとしていた。別れの日が目前に迫るなか、ふたりは抑えることのできない本当の想いを確かめようとするが……。

ふとした何気ないキスから親友が恋愛対象に変わっていくというぶっちゃけちゃうと、そういうお話ではあるのですが、冒頭の性指向の話があるきっかけで変わってしまうという経験も、想像もできないので、物語の共感力としては、、、、というのが僕の感想です(そういうのが、100%ないとはいいません)。でも、友達になった後の関わりの中で、全然タイプでなかった人に惹かれる(惹かれるというのは同性・異性問わずあるので)のはあるあるだし、経験はあるのですが、そこで性指向まで変わる大転換が起こるかということは、、、もしくはその人なら大丈夫ということかも、、かな。やっぱり性の問題は複雑なのです。

作品としては、そうした人に惹かれるという誰しもが起こる心の描写を、ドラン監督独特のカメラワークで心象風景として見せるのが上手いなと思います。ただ、ちょっとハード目な二人の絡みシーンがあるので、ちょっと強めなゲイ描写が嫌いな人には難しいかも。ラストはちょっと「グッドウィル・ハンティング」っぽくないですか?(笑)

SEXで相手を落とし込むというのは腐女子が喜ぶ展開か、、、

「窮鼠はチーズの夢を見る」を観ました。
(評価:★★★)

広告代理店に勤める大伴恭一(大倉忠義)は、学生時代から受け身の恋愛を繰り返していて、結婚した今も不倫を繰り返していた。ある日、妻・知佳子(咲妃みゆ)から派遣された浮気調査員として、卒業以来7年間会っていなかった大学の後輩・今ヶ瀬渉(成田凌)が彼の前に現れる。今ヶ瀬は、不倫の事実を隠す条件にカラダを求めてくる。恭一は拒絶するが、7年間一途に思い続けてきたという今ヶ瀬のペースに乗せられ、少しずつ心を開いていく。しかし、恭一の昔の恋人・夏生(さとうほなみ)が現れ、二人の関係が変わり始める……。

探偵という職業上の浮気調査で、大学時代に一方的に好きだった大伴に出会ったゲイの今ヶ瀬。彼が大伴の弱みを握ったことから、脅迫的な身体関係を求めることから、大伴と今ヶ瀬の恋愛が始まっていくというお話。恋愛映画としてはあまり描かれることがない、身体の関係(キスではなく、SEXというレベルから)から始まる恋物語。「マティアス&マキシム」での性指向の転換には懐疑的だった僕ですが、本作のほうは逆にしっくりときました(笑)。そもそも性欲というのは、食欲などと同じで身体にとっては必要な欲望の1つ。SEXは互いに裸という隠しようのないところから始まるので、そこでの関係の延長線上で、衣食住をともにしたくなる関係になるというのは分からなくもないのです。

ただ、この関係はよくも悪くも身体でつながっているだけなので、それを超える愛せる存在が現れたら脆い。後半に、急接近する大伴の仕事の後輩・岡村の存在。大伴にとっては、今ヶ瀬を否定する都合のいい存在になるのですが、それが大伴の心を捉えるのか、、、は作品を観て確認してほしいなと思います。

本作も性(身体)の関係から始まるので、邦画としては結構頑張った絡みもあるのを、二人の若手俳優がいとも簡単にこなして見えるのはなかなか良いです。「マティアス&〜」のほうは互いを求める純なラブシーンなので、描写が少々強烈ですが、こちらは(異性・同性問わず)カップルで鑑賞しても自然なラブシーンに思えたのは行定監督の腕なのでしょうか。

BLはそもそも宇宙観が違う

「ギブン」を観ました。
(評価:★☆)

卓越したギターの腕前を持つ高校生の上ノ山立夏(声:内田雄馬)は、ある日、同級生の佐藤真冬(声:矢野奨吾)の歌声に衝撃を受ける。やがて、ベース担当の大学院生・中山春樹(声:中澤まさとも)、ドラム担当の大学生・梶秋彦(声:江口拓也)と共に活動しているバンドに、立夏は真冬をボーカルとして加入させるのだった。真冬加入後の初ライブを成功させ、バンド「ギヴン」が始動するなか、立夏は真冬への想いを自覚し、ふたりは付き合い始める。一方、密かに秋彦に想いを寄せている春樹だったが、秋彦は同居人の天才ヴァイオリニスト・村田雨月(声:浅沼晋太郎)との関係を続けていた……。

これはBLアニメ映画。BLって、女子を中心に人気がある分野らしいのですが、そもそも世界観というか、宇宙観が少し違う気がしてます。何ていうか、男同士が愛するということがデフォルト(初めから決まっている)なんですよね。だから、描写どうのこうのよりも、作品を観てもすごい違和感しかない。じゃあ、なぜ観たんだという話ですが、たまたま見たTVシリーズが音楽青春作品としてはいい感じなんですよね。本作もライブシーンはすごく迫力があったのに、メインのキャラクターではなく、どちらかというとシリーズではサブキャラ的な存在だった中山と梶に焦点が当たっているのも、少し違和感があるんですよね。

ということで、9月は結構映画を見たんですが、その中でもLGBTやBLという分野の作品群が多かったので、テーマとして1つ取り上げました。何度もいうように、性の問題はパーソナルだし、全然ありのままの姿で僕はなんら違和感はありません。作品群が増えてきたのは単純にいう嬉しいのですが、社会全体がそういう雰囲気になるように(LGBT映画とか、BL映画とか括らずに人間ドラマや、恋愛映画として)同性同士の恋愛を尊重できるようになれるときっともっとハッピーになるのではと思うのです。

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