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「関心領域」:人は悲劇が隣近所で起こっていてもシャットダウンできる生き物。アイディアは面白いが、、

<あらすじ>
第二次世界大戦中、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)たち家族は、収容所と壁一枚隔てた屋敷で幸せに暮らしている。広い庭には緑が生い茂り、そこにはどこにでもある穏やかな日常があった。空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは、大きな建物から黒い煙があがっていた……。

KINENOTEより

評価:★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

今年(2024年)のアカデミー賞国際長編映画賞と音響賞を受賞した、「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」のジョナサン・グレイザー監督作品。僕も誤解していたけど、本作の舞台になっている有名なアウシュビッツ収容所はドイツではなく、ポーランドの南部クラフク地方に存在している。なので、本作はドイツ映画ではなく、ポーランド製作の作品になっています。「関心領域」という題名と予告編の作り方も絶妙で、映画ファンの中では公開前から結構話題に上がっていた期待作となっていました。

話は少し飛びますが、僕の実家の近くには大きな牛・豚の屠畜工場がありました(今もあるのか、あまり実家に帰っていないのでちょっと分からないですが汗)。結構な街だと、こうした屠畜場があるところは部落地域があったりするのですが、小さい頃はあまり意識していなかったのと、大きなショッピングモールがある今と違って、だいぶ田舎なところだったので、そうした鶏も含めた養鶏場などの畜産文化も地域問わずどこにもあった印象でした。強烈だったのは、そこの屠畜場に運ばれる直前にプールされている養豚場が本当に僕の小学校の通学路にあって、今のような夏になると糞尿の強烈な臭いを漂わせていたこと。今思い浮かべるだけでも、臭いの記憶がよみがえってくるのですが、でも僕にとっては臭いというよりは小さい頃の心象風景になっていて、当時はあまり臭いと思っていなかったこと。さすがに風が吹くときは洗濯物にも臭いがつくので、苦情ものでしたけど、日常風景になっていると意外と人間は気にならないことって多かったりします。

本作の強烈なところは、世界中の誰しもが様々な映像作品で知る、強制収容所の惨劇の隣には、ナチス将校たちの普通の生活(将校なのでちょっとセレブリティな生活)が行われていたこと。もちろん、人体の処分も行われていたことは知っているので、工場のような施設からは強烈な臭いもしたでしょうが、これが日常になってしまうと、惨劇も怠惰な生活の中に押し込まれてしまうということでしょう。ただ、本作は収容所の隣の風景に限定されて描かれるので、悲惨さは作中に響いてくるバックグラウンドノイズでしか伝わってこない。本作に「シンドラーのリスト」(1993年)のような収容所の悲劇を求めると、だいぶ肩透かしを食らいます。あくまで悲劇が行われたという想像をもとに、その中でも、例えばユダヤ人家族から強奪した各種豪華品をさりげなく選別して着飾っている将校家族の当り前さにこそ、日常に織り込まれていく恐怖の鋭さに震える作品でもあったりします。

<鑑賞劇場>MOVIX京都にて


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