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「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」:戦時下のポーランドでユダヤ人難民の子どもを救った男の半生。人を救いたいという想いがつないだ奇跡。

<あらすじ>
第2次世界大戦直前の1938年。ナチスの迫害を逃れた多数のユダヤ人難民が、プラハで住居も十分な食料もないまま、悲惨な生活を送る様子を目にしたイギリス人のニコラス・ウィントン(若き日:ジョニー・フリン、老年期:アンソニー・ホプキンス)は、子どもたちを英国に避難させようと、同志たちと共に里親探しと資金集めに奔走する。ナチスの侵攻が迫る中、ニコラスたちは次々と子どもたちを列車に乗せるが、遂に開戦の日が訪れてしまう。それから49年。救出できなかった子どもたちのことが忘れられず、自分を責め続けるニコラスに、BBCからTV番組『ザッツ・ライフ!』の収録に参加してほしいと連絡が入る。そこで彼を待っていたのは、胸締め付けられる再会と、思いもよらない未来だった。

KINENOTEより

評価:★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

TV番組が映画の題材になることはよくあります。有名なのはイギリスのオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」で、美声を披露し、シンガーとしてのし上がったポール・ポッツの半生を追った「ワン・チャンス」(2014年)だったりしますが、もう1つのイギリスの老舗エンタテイメント番組「ザッツ・ライフ」で取り上げられたユダヤ人難民を救った一人の男を追ったのが本作。番組放送時の1980年代の老年期の主人公ニコラス・ウィントンを演じるのは、80歳後半(2024年時点)でスクリーンでの登場回数はめっきり減ってきたが、演じればすごく味わい深い演技を魅せる名優アンソニー・ホプキンス。回想劇で登場する戦時下の若き日々のニッキーたちはイギリスの若手俳優が活きよく演じているが、ニッキーの母親をへレム・ボナム=カーターを演じていて、現在と回想の両翼をしっかりとした俳優陣が支えていることが映画がすごく地に足ついたものになっていると思います。

もともと映画世界の集約地であるハリウッドがユダヤ人たちが中心に作られている世界でもあって、「シンドラーのリスト」(1993年)など、いわゆるナチス・ドイツのユダヤ人迫害などファシズムが起こした悲劇は定期的に描かれています。日本における太平洋戦争だったり、原爆だったり、戦争の悲劇を映画というのメディアを通じて描き続けることはすごく重要なのですが、第二次世界大戦が終結して、もうすく80年が経とうとしていて、当時の記憶を持っている人たちが次々といなくなっている中、悲劇を伝え続ける戦争映画の枠組みを考えると、当時の経験者が直接的に作り上げる作品が(当然ながら)徐々に難しくなっているなと感じます。だからこそ、その時代を生きた人たちの子どもであったり、孫であったり、ひ孫であったりという今を生きる人たちが伝え続けることは重要であったりもしますし、もう1つ、昔のお話にしないためにも、本作のように当時を紐づけるもう1つの世界(TV放送が行われた1980年代という時代)を挟むことで、単なる昔話にしないというのも1つのやり方だったりするのかなということを観ていて思いました。

ただ、日本でも別の観点から多くの迫害ユダヤ人たちを救った杉原千畝の物語(2015年にも映画になっている)など、本作のニコラスたちのように戦時下で少しでも多くの命を救うべく奮闘していたお話を知っている人にとっては、ちょっとテンプレートにハマった作品かなという物足りなさは感じたりします。ただ、僕が着目したいのはTV番組で称賛されたニコラスだけではなく、彼を支え、ある人は戦争で散っていた周りの人たちの物語が回想劇でふんだんに盛り込まれていること。シンドラーや杉原千畝のお話でもそうですが、こうした大胆なことは一人でできることではなく、彼らの行動に賛同し、様々な人が裏で支えたからだからこそ、救われ、繋がれた命であるというのは、映画として重要なメッセージになっていると思います。ホプキンスの繊細な演技も、そうした陰で支えた命を理解した上だからかなと思います。

<鑑賞劇場>MOVIX京都にて

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