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「オッペンハイマー」:原爆の父といわれる科学者の苦悩。ノーラン監督作の割に出来はそれほどでも。。

<あらすじ>
第二次世界大戦下のアメリカ。極秘に立ち上げられたプロジェクト“マンハッタン計画”に参加したJ・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、優秀な科学者たちを率いて世界初の原子爆弾を開発する。しかし、原爆が実戦で投下され、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩する。その後、冷戦や赤狩りなど、激動の時代の波に飲み込まれていく……。

KINENOTEより

評価:★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

母国アメリカより、原爆を投下された日本のほうが知っている人が多いかもという、原爆の父こと、ロバート・オッペンハイマーの半生を、戦争映画という枠組みでは「ダンケルク」(2017年)以来となるクリストファー・ノーラン監督が描く作品。以前どこかの感想文で書いたと思うのですが、僕は学生時代に物理学科を出ているので、本作で出てくるアインシュタインであったり、ボーアであったりと、いわゆる現代物理学といわれる量子力学や相対論をを生み出した物理学者たちが活き活きと活躍していた1900年代初頭~中盤までを描いているので、物理をちょっとかじっている人だと、あの科学者をこういう人が演じているんだとか、原爆を作るマンハッタン計画にこう関わっていたんだとかをリアルに感じることができ、それだけでも(物理マニア)的には面白さが1つあるかと思います。

それでは、このオッペンハイマーという人が物理学者としてどうだったのかというのを考えると、僕の記憶では大学時代の教科書に出てくることがあまりなかったなと思います。事実、Wikipediaの「物理学の歴史」を見てみると、2024年春時点は彼の名前は見当たらなかったです(確か量子力学の本で、チラッと出てきたくらいの記憶しかないです)。アインシュタインやシュレディンガーと比べるとアレですが、本作にも出てくるボルンなり、ボーアなり、ファインマンなりに比べても、正直物理学界で考えると、功績と考えると後世に大きく名前を残すことはなかった。それは本作でも序盤で大きく描かれていて、学者として成長していけない苦悩が、彼をマンハッタン計画という政府のプロジェクトに組み込まれていくことになる。もちろん名声ということだけが人生の生きる糧ではないものの、彼はプロジェクト成功に尽力していくことになるのです。

この映画の描く功績をみると、オッペンハイマーは実験物理学者だなと思います(もちろん、原爆を完成させたわけですし)。実験物理学者というと研究室にこもって、一人で手を動かしてモノを作ることが多いイメージがあるかもですが、(僕も実験系研究室にいたので分かるのですが)現代物理に絡む多くの実験は一人でやることはできません。モノづくりが得意な人、データ解析が得意な人、観測用具などの設計が得意な人、理論と結びつけることが得意な人等々、複数の人が協力し、そのテーマを実現していく人がプロジェクトリーダーとして動くことが多いのです。なので、コミュニケーション下手な人は理論系のほうにいくしかない、でもでも頭が飛びぬけてよい人でないと理論ではやっていけないなど、結構厳しい世界だったりするのです。オッペンハイマーの苦悩は、こうした厳しい物理学界でどう生き抜くのかを考えた末に、マンハッタン計画という大きなプロジェクトを動かすことに到達していった。日本ではもちろんネガティブなイメージだし、原子力の在り方はエネルギーの外部依存度が高い日本では特に考えないといけない課題ですが、その中でも、数多い物理学者なり、関係者が息づいていたということがよく分かる良作になっているとは思います(ノーランらしさはあまり感じれないですが笑)。

<鑑賞劇場>109シネマズ大阪エキスポシティにて


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