佐久間宣行 インタビュー 〜表現において重んじていること〜 前編
本日お招きするトークゲストはTVプロデューサーの佐久間宣行さんです。大東さんは、佐久間さんがプロデュースを手がけたコメディドラマ『潜入調査アイドル刑事ダンス』(2016)に俳優として出演したことをきっかけに、そこから『ゴッドタン』『ウレロ☆未確認少女』などでも現場を共にされてきました。今回は『37 Seconds』をモチーフとして、メディア論やお笑い論まで軽やかに展開していきます。
インタビュー・大東駿介/テキスト・長畑宏明/写真・岩渕一輝
佐久間宣行
テレビ東京プロデューサー。2005年から続く名物深夜バラエティ『ゴッドタン』の仕掛け人。「キス我慢選手権」や「マジ歌選手権」などリアルイベントも大盛況の人気企画はまさに佐久間さんの代名詞とも言えます。現在、ニッポン放送『オールナイトニッポン0』で水曜日のパーナリティを担当。
個人的に「そこはグレちゃってもいいんじゃないの」って思っていたので、彼女はちゃんとグレてるなって。
大東駿介 インスタグラムで『37 Seconds』のことを絶賛していただいたみたいで、ありがとうございます。
佐久間宣行 そんな、普通の感想なんで。でも本当に良い映画でした。僕は事前に「障害者が主人公」という情報しか入れていなかったんです。そしたら、話の途中で性に興味を持ち始めて最後はロードムービーになるんだ、っていう驚きがありました。もちろん自分の中にある差別意識に思いを馳せることもあったんですが、あくまで映画として普遍的に魅力にあふれた作品だなと。
大東 僕も脚本を読んだ時点では「障害者が主人公」っていうところに意識がいってしまったんですが。そうじゃない見方を提示するPRの方法とかってあるんですかね?
佐久間 観た人は一発でわかると思うんですけど。そうやって括ってしまうともったいない作品だってことがね。
大東 佐久間さんの場合、ご自身の番組を宣伝される時は何を意識しているんですか?
佐久間 企画を立ち上げた時に自分の中で何を一番おもしろいと思っていたか、それが社会とどうコミットするか。バラエティだったら「これは見たことがない」という笑いを提供すれば話題になります。さっきの質問に戻ると、映画の場合は「めちゃくちゃ笑える障害者の映画」とか、何か真逆の要素を組み合わせたキャッチコピーを作る、そういうことは考えられますよね。「ここには先入観をぶち壊してくれるものがあるかも」って興味をひくことが重要じゃないかなと。
大東 佐久間さんは鑑賞される前、『37 Seconds』はどういう映画になると予想していましたか?
佐久間 主人公が周囲の人とのコミュニケーションに支えられて、徐々に自立していくような話だと思っていました。そういうジャンルなら馴染みもある。だから、(この話の展開は)あまりに予想外でした。『ワンダー 君は太陽』みたいな話なのかなと。そしたら……もっとロックな映画だったんで。青春映画の主人公がたまたま障害者だった、ということですよね。
大東 それは一番うれしい感想です。映画のどのあたりから障害を意識しなくなりましたか?
佐久間 青春マンガの編集部に自分の作品を持ち込むシーンからしてぜんぜん違っていた。あとは飲み歩いているシーンの爽快感。「障害者=聖人」っていう価値観が根底にある作品もあるじゃないですか。個人的に「そこはグレちゃってもいいんじゃないの」って思っていたので、彼女はちゃんとグレてるなって。大前提として障害者への差別はあるべきじゃないんだけど、それにしたって性格悪いやつもいるわけだし。
自虐にしたって、本当に思っていることなら面白いんだけど、コミュニケーションの手段としての自虐は面白くない。
大東 いやあ、それはまさに現場でもよく話していたことだったんですよ。佐久間さんの分野でいうと、障害って笑いに転じることができると思いますか?
佐久間 うん、笑いの良いところって、いじめられた経験とかコンプレックスをいくらでも後で取り返せるところだから。ただ、それが自虐になりすぎると昔からある価値観を打破できない。今だったら自分の経験の中でも一番おもしろかったところだけを抽出した方がいいと思います。
大東 濱田祐太郎さんっていう漫才師の方がいますよね。彼は視覚障害者で、舞台でも杖をついている。でも彼の芸は本当に面白いし、一瞬で障害を突破している感じがします。
佐久間 彼の場合は圧倒的に技術がありますよね。ちゃんと勉強してきて積み重ねがあるからこそ、「はいはい、分かっていますよ、笑いにくいですよね」っていう地点から始められるのが新しい。差別ありきで笑いにしている。それをナシにして笑いにしようとする人も多い中で、彼はとても現代的です。
大東 笑いの潮流も変わってきています。
佐久間 生まれ持ってどうしようもない要素をバカにする笑いは、お笑いのコミュニティ内だと分からないんだけど、少なくとも世間では確実に受けなくなってきている。それと昔は女性タレントが「美人ですね」って言われると「そんなことないんですよ、ノーメイクですから」って謙遜していたのが、今だと「めちゃくちゃがんばってるんで」って正直に言った方がお客さんに支持される。嘘のないものが好まれる世の中。それはね、息苦しいところもあるんだけど。自虐にしたって、本当に思っていることなら面白いんだけど、コミュニケーションの手段としての自虐は面白くないんです。
大東 それは僕もすごい実感しますね。
佐久間 芸人マジ歌選手権(佐久間さんがプロデュースする番組『ゴッドタン』内の企画)の時もそのことについてはよく話します。この前、日村さんの「YASHENAI」っていう曲を作ったんだけど、「やせなくてもいいんじゃない」っていう落とし所にした方がいいんじゃないとか、細かいニュアンスを気にしたりして。
大東 企画ってどういう風に生まれてくるんですか? マジ歌とか、いつも企画の鮮度にびっくりするんですけど。
佐久間 「これまでやっていないことをやろう」と思って、そこで気付いたのが「めちゃくちゃ一生懸命やってクオリティの高いものって笑っちゃうよね」ということ。矢沢永吉さんとか長渕剛さんとか、マイケル・ジャクソンもそうなんですけど、格好良いのに笑っちゃう。様式美がもはや面白いの域に達していて。で、今までのテレビならそういう方々をパロディにしちゃうところを、マジ歌の時は「マジで格好良いから面白いんだ」っていうエッセンスを参考にして企画を作ってみたんです。
大東 僕も佐久間さんの番組に何度か出させてもらってるんですが、俳優がお笑いに出るのって実はすごく恐いことなんですよ。面白い脚本に対して「面白いことしないと」と思ったらダメで、実際にそれを舞台でやるとイタくなっちゃう。劇団ひとりさんとかは全てのリハを馬鹿正直にやるし、ずっと面白くて鮮度が落ちないんですよね。何ですかね、あれは。
佐久間 マジっていうのと、劇団ひとりは驚異的に間が良い。その「間」だって演者が慣れてきたらリハごとに変えてくるし。ああいうコント番組って下手な芸人さんだと編集で間を変えたりするんですが、彼の場合は絶対にいじっちゃダメなんです。
僕は昔からハードSFマニアでして、アイザック・アシモフとかテッド・チャンが大好きなんです。
大東 佐久間さんはそもそもなぜ笑いを職業にされているんですか?
佐久間 昔から価値観を揺さぶってくれるものが好きだったんですよ。僕が中学生の時は、それがダウンタウンの『夢で逢えたら』でした。思春期に僕の価値観を一番揺さぶってくれたのが、音楽や映画より先にお笑いだったと。で、そこから映画とか芝居が好きになっていって。そのあとテレビ局に就職して「ドラマかバラエティ、どっちやりますか?」って聞かれて、当時の価値観だったらバラエティの方が面白いものができる気がして。20代の頃ドラマの脚本を書いてみたこともあるんですけど、なんか格好つけてたんですよね(笑)。
大東 今はバラエティを軸に、音楽も芝居もやってますもんね。
佐久間 ある程度笑いをしっかりやってきたからそっちに展開できる、ということだと自分では解釈しています。
大東 佐久間さんの作るドラマって、僕は最初単なるコメディを想像してたんですが、実はものすごく構造がしっかりしていますよね。僕も出演させてもらった『潜入捜査アイドル・刑事ダンス』は、後半いきなりシリアスになったりするじゃないですか。
佐久間 実は昔からハードなSFマニアでして、アイザック・アシモフとかテッド・チャンが大好きなんです。だからそこから影響を受けているんだと思いますね。
大東 えー、その話は初めて知りました。
佐久間 『SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜』も一見オムニバスのコントで、岸井ゆきのさんがAV女優とラーメン屋で働く女の子の二役を演じているんですけど、第三話くらいで実は2人は同一人物だったことがわかる。あれは、エクセルであらかじめ細かい設計図を作り、前半はコント作家に渡して、後半は福原充則さんっていう脚本家に渡すっていうやり方でした。
大東 へえーー。僕も演者として色んな脚本に触れてきたんですけど、やっぱり持続力がないものも多い。でも、佐久間さんの本は最後の仕掛けに向けて進んでいくのが痛快なんですよ。
佐久間 バラエティとドラマの中間にあるものっていうアイデアの着想点は、SFと、あとはアニメもありますね。アニメの世界って昔は6話くらいで読者を裏切る展開がきていたのが、今は数もどんどん増えた中で勝ち残るために3話、下手したら1話の終わりには裏切りがきちゃう。そういうものに影響を受けています。そうだ、日朝の特撮モノもヤバいんですよ。
大東 仮面ライダーとか?
佐久間 (侍戦隊)シンケンジャーですね。
大東 ああ、そこなんですね。
佐久間 最初は松坂桃李さんが赤で、ずっと「殿」って呼ばれながら部下を従えていたんです。だけど、40話くらいやったあとに突然女性の赤が出てきて「ご苦労」って。つまり、彼は影武者だったんですよ。
大東 うわー(笑)。
佐久間 え、お前影武者だったの!?っていう(笑)。そこからも何回か関係が逆転したりして、とにかく話が最後まで読めませんでした。
*第一回ここまで。第二回は次週公開予定です。
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