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「聴く」と「贈与」が組織にもたらす力|聴き合う組織をつくる『YeLL』のnote

2020年12月6日、日曜日。YeLLサポーター向けのトークイベントが開催されました。

題して、【『世界は贈与でできている』✕YeLLコラボ企画 近内悠太さん✕篠田真貴子さんトークイベント】。参加予約は80名超の、大規模イベントです。そんなサポーターなら「要チェックや!」なイベントを、先日サポーターデビューしたばかりのわたくし、ミムがお伝えいたします。

対談

近内悠太さんは、『世界は贈与でできているーー資本主義の「すきま」を埋める倫理学』の著者。哲学研究者として活躍されており、生徒との対話を大切にする教育者でもあります。『世界は贈与でできている』は第29回山本七平賞奨励賞を受賞。師匠は脳科学でおなじみの茂木健一郎さんです。

一方の篠田真貴子さんは、今年の3月にエール株式会社の取締役に就任。経歴だけを拝見すると「バリキャリ」な印象ですが、とても親しみやすいお人柄です。YeLLサポーター向けのイベントに登場するのは、今回が初めて。「開始1時間前に『世界は贈与でできている』を読み終えたばかり。まだ消化しきれていない部分は、質問しますね」とおっしゃっていました。

さてさて初対面のおふたり、どんなトークが飛び出すのか・・・予測不可能なセッションが始まりました。

「贈与」とは「愛」だ

この本は、結局何について語っていたのかーーその問いに、近内さんは「愛です。愛という言葉を使わずに愛について論じた本です」と答えました。「贈与というから経済や哲学に近いような話だと思っていたら愛についての話だった」という読者からのTwitterを見て、改めて「確かにそうだ」と気がついたといいます。

「自分でも盲点でした。担当編集者にも『贈与っていきなり言われても、読者は分からない』と指摘されたので、”お金で買えないもの”と定義しましたが、確かに別の角度から見たら”愛”ですよね」

と語る近内さん。執筆には3〜4年ほどかかったそうです。

「本にしようとしたきっかけは『贈与のクオリア』が自分にあり、それに輪郭を与えたいと思ったから。つい最近も、こんな出来事がありました。
4人の子どもがいる友人宅に行って、ふと気付いたんです・・・自分もこんな小さい時があった。そして今、自分がこの子たちを見ているような眼差しを周囲の大人にもらっていた。まるで目の前で、幼い時の自分自身を見ているような感覚になりましたーーまさにこれがクオリアなんです。
小さな自分と出会い直したその時、『どうかこの子どもたちがすくすくと育ちますように』と祈るような気持ちがブワッと沸いてきた。それが『ああ、自分は贈与を受け取っていたのだ』と気づいた瞬間でした」

好き・嫌いっていう感情が、好きなんです

「この本は、近内さんの好き嫌いに触れる本だと思った」と語る篠田さん。実は、人の好き・嫌いの話が大好物です。

「特に企業は『あなた個人の好き嫌いはどうでもいいので、仕事上のスキルの高さや、社内で良いとされることに評価軸を合わせてください』と求めてきますよね。学校もそう。世の中が勝手に決めた尺度があり、それに合わせて点数を稼いでいく。一方で、『好きなことを仕事にしましょうね』とも言われて、そこまで好きなことがないと悩んでしまう。なんか、どちらにも強く違和感を覚えてきました。本書からは、近内さんの好き・嫌いがはっきり感じ取れました」

と目を輝かせました。

組織と人はもっと調和できる余地があるのに、できていなくて腹が立つ。
そう感じた体験で最も象徴的なエピソードは、篠田さんが30代半ばの頃の話でした。

「当時勤めていたマッキンゼーから、あなたは仕事ができない。つまりいい人ですけど、バカですと言われたんです。ところが半年後に転職したノバルティスでは、『篠田さんは頭がいいけど、人当たりがきついですね』と評価された。真逆ですよね。いい大人が、わずか半年で変わるはずはありません。
『そうか、組織の中の自分に対する期待値が違っているだけなんだ』と気がつきます。論理思考力を期待されていたマッキンゼーと、周りとの調和を求められるノバルティス。自分がどんな組織に属しているかで、期待される側面は変わっていきます。
結局、評価は組織の都合でやっている。だからこそお互いを客観視できるかが大切です」

いまだかつて、これほどまでにいきいきと怒る篠田さんを見たことがあるでしょうか。(私はなかった!)

近内さんは、そんな篠田さんに「YeLLの活動はまさに、組織が抱えているそうした課題をうまくコーディネートできるはず」と返します。

愛は技術。聴くのも技術

YeLLがもたらす1on1によって、従業員は「心を整える」ことができます。すると「組織の期待はこれです。では、あなたは組織に何を求めますか?」という問いにもうまく答えられるようになり、ストレスから解放されると近内さんは分析します。

「自分が置かれている状況がどうなっているかわからないのが、人間にとって一番の苦痛。でも1on1を通じて自分の気持ちや想いを言語化できれば、『モヤモヤするのは、正しい憤りだったんだ』と気がつくわけです。これだけ自分と組織の間に齟齬があるのに、意外と結果が出せているなんて上出来じゃん・・・そう思えるのっていいですよ」
「『諦める』の原義は、『明らかに見る』ということです。だから、心を整えるというのは、組織と従業員間の『期待のすれ違い』をなくすということを意味します」

さらに近内さんは続けます。

「資本主義は、いつも”時間”を設定されています。本来、その人の成長や気づくスピードには個人差があり、誰もが社会で求められている時間に合わせて進めるわけではありません」
「組織が求める(納期あるいは結果を出すための)時間と、あなたの求める時間にもズレがある。でも、『ここまでは努力できそうでは?』と促すことが、サポーターにはできます。初対面同士が対話をすることの意味は、客観的な視点が入ることで『そうだった!』と気がつくところにあるのです」

篠田さんも同様に、YeLL代表の櫻井さんの言葉を紹介しました。

「初対面の人と1on1をすると、『自分はこんなことを感じていたのか』と気がつく。自分の輪郭がくっきりするんです。そうなると、会社の方針や理念と重なっている部分が見えてきます。ご本人が『ここは会社の想いと重なる。ここはちょっと違う』と感じるようになると、従業員エンゲージメントにつながっていくんです」

さらに”愛”についても、話が及びます。

「実は”愛する”ことは技術であって、習得できる。エーリッヒ・フロムの著書『愛するということ』でも書かれていますが、YeLLの考える”聴く”は、この考え方にとても近いんじゃないかな。誰もができる構造があるからこそ、事業化できているわけです。個人の動機はとても大切ですが、それに頼ってしまうと、再現性がなくなってしまう」

近内さんも大きく頷きました。

YeLLの”聴く”の半分は、現場でサポーターをしている方の個性がある。そしてもう半分は構造として、再現性のある”聴く”がある。『聴くための方法論はありますが、後の半分はあなた次第。自由に任せました』と、バッファがある方がパフォーマンスとしては向上しますよね。すべてサポーターにお任せとなると、負担になってしまう。”構造+個性を出していいよ”というのが、ベストな対話を生み出せるんじゃないでしょうか」

「対話」は背景と文脈が違う相手とのコミュニケーションであり、「会話」は背景と文脈を共有している相手とのコミュニケーション。知らない人同士で行なう対話によって気づきを得て、スキルレベルを向上させた従業員が会社にもたらす力には、大きな影響力があるのです。


「聴く」のも「愛」だ

どんな質問にも軽快、爽快、明快に答える近内さん。時に感情豊かに経験を語る、チャーミングな篠田さん。セッションはあっという間に終了しました。

「聴く」という行為は、「愛する」ことと同義です。そしてその行為は「贈与」として、こっそりと相手に渡されます。相手は自分が愛されていることに、その瞬間は気がつかないでしょう。しかし時間が経って自分の人生を振り返った時、「あの時あの人が聴いてくれたから、自分は本当の気持ちに気がついた」と理解する。それでいいのです。

聴かれた人自身が自分で気づくように、ただ存在を差し出し、聴く。
その行為は知らぬまに「贈与」となり、社会を動かす大きな流れになるのかもしれません。「聴く」と「贈与」のつながりが、鮮明に見えた90分でした。


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