見出し画像

社会インパクトが広がるエコシステムをかたちにする

エールが掲げている「聴く価値」について、投資家たちはどのように思っているのか。「聴くこと」が、社会の未来にどうつながっていくのか。なぜ、投資をしたのか。「投資家がみる『聴く』の可能性」第2弾は、SIIFインパクトオフィサーの加藤さんに、お話をお伺いします。

多様な働き方・生き方を創造する「はたらくFUND」のインパクト投資とは

2018年に立ち上げられた「社会変革推進財団(SIIF)」。「社会課題解決と多様な価値創造が自律的・持続的に起こる社会」を目指し、日本における「インパクト投資」のエコシステムを構築していこうとしています。なかでも「はたらくFUND」は、日本ではまだ数少ない機関投資家が投資できるインパクト投資ファンドとして注目を集めています。少子高齢化や労働人口の減少などの「働く人」にまつわる社会課題に着目し、日本社会における「働く人を支える仕組み」を充実させようと、子育て、介護、次世代人材育成などの領域における投資を行なっています。

――今回お話をするにあたり「インパクト投資」という言葉を初めて知りました。

そうですね、グローバルでは74兆円という規模に達しているのですが、日本ではまだ始まったばかりです。インパクト投資は、投資判断に、金銭では換算することが難しい社会的・環境的なリターンを生み出す可能性も織り込む、新しい投資の考え方です。SIIFが立ち上がった大きな目的のひとつが、この「インパクト投資」を日本に普及・定着させることです。そのために、新生企業投資さんのような先進的なパートナーと連携しながら、新たな投資モデルの開発を進め、再現性のあるモデルを横展開し、広く国内に普及していく流れを作りたいと考えています。

経営者の「想いの強さ」が投資家を動かす

――インパクト投資を行なう際の基準はありますか?

はい、はたらくFUNDでは、VCとしての経済的リターンの基準に加えて、社会的価値を生み出すポテンシャルの大きさをみます。経済性と社会性の両面での成長を追うという投資なので、社会的価値を高めることで事業が成長する、事業が成長すると社会的なリターンが拡大する、という相関関係の強さを重視しています。

社会的リターンで言えば、例えば、社会課題に直面している人は誰で、どの程度いるのか、その困難はどれほどの深さがあるのか、といった課題の重要性の視点や、投資候補先はその課題を根本的に解決できる可能性を持っているのか、といったソリューションの効果、課題解決が実現した場合の社会に対するインパクトの大きさ、経営陣の社会的価値創出へのコミットメント、などいくつかの切り口をもとに、「インパクト戦略」の全体像について投資家としての仮説を立て、インパクトの側面からのリスクとリターンを検討します。こうした投資の判断に参考となる考え方や指標は世界的にも日々進化しています。はたらくFUNDでは、各国のプレーヤーからも学びながら、投資評価手法そのものの開発にも取り組んでいます。

とはいえ、スタートアップは日々大きな変化に向き合いながら進んでいきます。特にアーリーステージでは、投資時点で見えている社会的リターンや経済的リターンでは判断できません。投資判断のためのロジックの解像度はできる限り上げるよう努力しますが、最終的な基準は全てをひっくるめて「覚悟を持ったチームかどうか」かもしれません。これは通常のスタートアップ投資と変わらないようにも思います。「これから何が起こっても、社会的な価値追求と経済性な成長の両面で、ブレずに事業を進めていくのか」です。エールは、経営陣やメンバーの方々、サポーターの皆さんが「聴く・聴かれる」ことの価値を誰よりも知っていて、それが実際に顧客の高い満足度にも繋がり、成長を始めようととしている段階。その繋がりが見えたとき、「このチームが作る未来を見たい」と思いました。

印象的だったのが、まだ投資検討中だったにも関わらず、どちらからともなく「ちょっと、合宿しませんか・・?」という提案が出たことでした。さらに、合宿で対話が深くなっていく中で、櫻井さん、篠田さんから、「エールの短期的な経営戦略は見えているが、もっと先の未来を考えていくとはっきり答えが出ない」「まだうまく言語化できていなくて、わからない」と率直に心を開いていただいたことでした。こうした自己開示は簡単なことではないと思うのですが、もしかするとこのコミュニケーションの深さとオープンさこそが、エールが実現しようとしている世界を象徴しているのではないのかと感じました。そしてまだ答えの出ない問いを、同じ気持ちで見つめている、という確信が生まれました。

――「事業を進めていくなかで答えの出ていない部分がある」という点は、投資家から見ればリスクになりませんか?

もちろん、投資チームのメンバーとはとことん話し合いました。その結果、「このリスクは取ろう」との結論が出たんです。

今回、本質的な論点になっていたのは、いまの事業を起点にして、「エールは将来、社会においてどのような存在になっていたいのか」「どのようなインパクトを生み出したいか」「そのためには将来的に誰に対してどのような事業が必要となるのか」という部分でした。これに答えを出すのは櫻井さんや篠田さんが持つ、「想いの大きさ 」 に比例して難しくなります。 まだ具体的な事業として見えていない部分 があるのは、当然不確実性 にはなります。しかし、それが実現できた時に見える未来はむしろ楽しみでしかない ですし、エールの皆さんだったらそこへ挑み続けるだろうと思います 。 リスクとリターンは表裏一体です。これはインパクト投資家が取るべきリスクではないかと考えました。

贈与を資本主義に組み込む

――エールのサービスに共感したポイントはどこにありますか?

共感したポイントは2つありました。ひとつは、エールは企業社会やはたらく人を「マス」や「ターゲット層」のような名前のない人々のかたまりとしては捉えず、一人一人が異なる世界をもつ個人の集まりとして扱っていること。この世界の捉え方 が、プレーヤーに深く寄り添う、解像度の高い 事業を根本で支えていると感じました 。今後はデータ分析の精度を高めていくと伺っています。そうなれば、一人一人の個に寄り添ったまま組織全体の価値を高めていくことも可能になる、むしろ従業員の個に寄り添うからこそ企業経営の質を高めることができる、という、大きなパラダイムシフトを担える存在にもなれるのではないかと期待しています。もうひとつは、経営陣からサポーター、そして顧客企業まで、エールに関わる方がみな「Give」の精神に溢れていること。それは「聴かれる経験を提供する」というサービス設計に反映されているように思います。 大げさな言い方になってしまいますが、「贈与経済」のあり方を、 資本主義の中に組み込もうとしているとも感じました。

――結果として投資を決められたわけですが、最終的な決め手はなんだったのでしょうか?

ビジネスとしての成否も、社会的リターンの拡大可能性も、かなりの程度はロジックに支配されていると感じています。 個人的にも、事業戦略やインパクト戦略のさまざまな構成要素の間に整合性が取れていない場合は、簡単に「やってみよう」とは言えない タイプです。 その上で正直に言いますと 「直感」です。 経営陣の皆さんの言葉を沢山伺い、 顧客企業の方にもヒアリングさせて頂き、1on1セッションも体験させて頂いたうえでの「体感」と言っても良いかもしれません。その 結果、出てきたのは 「自分のこの感覚は信じられるだろうか 」という気持ちでした。 ロジック自体が 、未来を保証してくれるわけではないと思います。 はたらく人の心理の機微や人間関係の奥深くにアプローチすることがYeLLの社会的インパクトの源泉だからこそ、「エールっていいな」と思う感覚 を信じたい気持ちが生まれ 、「じゃあどうしていいなと思ったんだろう?」「中長期に成功するためのカギは何だろう?」と逆算して自分なりに検証していきました 。

――最近では、YeLLのサポーターにも挑戦 されていますね。
まずは、プレーヤーとしてセッションを体験させて頂いたときの圧倒的な経験が大きかったです。「自分も誰かの役に立てるか な」という気持ちが生まれました 。 投資担当者としてサービスの根幹に触れたい とも思い、参加しています。さらにエールのコミュニティに関わってみたいという側面もありましたね。今日は僕個人として、エールに対する想いをお伝えできて、とても楽しかったです。

SIIFさん記事内写真


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?