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読書メモ #12 『タダイマトビラ』 村田沙耶香

読み終えてから数日経ってしまったのは流行り病にかかっていたからで、今も自宅療養中ですがPCを触れるくらいにはなったので忘れないうちに感想を書きます。

『コンビニ人間』を先に読もうとしていたけどこっちの方がページの進みが早く、結局読み終えてしまった。
読んできた村田さんの作品の中では一番平和だったというか、グロテスクさがなかったと思う。というのも、読んできた『殺人出産』や『生命式』などは生と死・産まれることと殺すこと、を中心に据えていたので流血どころか内臓をえぐり取る描写まであった。刺激が足りないなと思いつつもどんどん読み進められたのはこの作品のテーマが家族愛だったことが何より大きい。

ほぼ家庭崩壊と言える恵奈の家族。
家庭を顧みずに外で暮らす父、子供に愛情を注がない母、湧き出る家族欲を「カゾクヨナニー」で満たす恵奈、家族欲を両親に満たして欲しくて目立った行動を取り続ける弟。
家族というだけで無条件に愛情を注ぐなんて、と達観しつつも恵奈の家族欲は止まらなかった。おそらく、家族欲をわかりやすく表現している弟を見てこうなったんじゃないかと勝手に考えている。
また、家族欲に飢えていることを認めながらも、自分の友達が親に愛情を向けられている様子を気持ち悪がっていたのは、ある種の嫉妬ともとれる。

結局恵奈はカゾクヨナニーをする側からされる側へ、最後は傍観者になった。

最後のシーンでは、恵奈が半ば強引に家族を「元の世界」に返そうとする。なるほどねと読んでいたけど、恵奈は最後まで家族にこだわっていたんじゃないかとも思った。でなければ、家族を巻き込もうとしたことにどんな意図があったのかよくわからない。

読者の家族観によって好みが別れそうな内容だった。私は家族への違和感や嫌悪感をずっと持っているので、ほぼ共感しながら読み進めることになった。インナーチャイルド療法が出てきたのも印象的、あれは私はうまくできないけど。

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