見出し画像

読書メモ #7 『うつくしい人』 西加奈子

またも図書館で借りてきた、明日には返す予定なので忘れないうちにとnoteを開いた。西加奈子さんの作品はいくつか読んで、中でもこれはかなり好きなほうだった。

まず百合の性格。
他人の目を気にしていて、特に他人のイライラを敏感に察知して自分も消耗してしまう。会社の上司や友達だけでなく、全くの他人のそれにもいちいち反応しては不安になる。最近の言い方をするなれば、”HSP”の気があるのかもしれない。
彼女のこのような性格、というか癖は私にも通ずるところがあって特に前半はほとんど自分のことのように読んだ。ただ、あまりにも百合が周りを気にしてぐるぐる考える描写が続くので、「読者」としての私は少し疲れてはいた。

飛行機に乗るときも、フェリーに乗るときも、現地についたときも、百合はどうにか自分とこの状況にマイナス要素を見つけて安心しているように見えた。めっちゃわかる。「一人で旅行をすること」に何か価値を見いだせるかもしれないという期待はありつつも「どうせ」という思考が上回って、それを正しいものにするためにマイナスなポイントを探してしまっていた、ように見えた。読んでいて痛々しかったし、何より自分を客観視しているようでしんどかった。

風向きが変わり始めたのはやっぱり坂崎とマティアスとの出会いがきっかけだろう。マティアスの死んだお母さんが図書館に入ってきて、そして出て行くのを百合が感じ取っている場面がすごく好きだった。ある種ファンタジーじみた内容なのに変に場所を取らずに描かれていて、ほんとにお母さんがいるんじゃないかとすら思った。

百合の抱えているものとマティアスの抱えているものは似ていて、それに気付いているのは百合だけだった。百合はマティアスを助けたいと思っていたし、その百合は坂崎に(不本意ながらも)救われていた。
じゃあ坂崎はどうやって救われるのか、と読み終わってすぐ心配になってしまった。彼がなぜバーテンになったのか、そしてその理由を語ろうとしないのかは最後まで明かされなかった。でも、私も百合と同じように勝手に坂崎を哀れんだ目で見てしまっていたのかもしれなくて、坂崎にはあの場所があればよかったのかもしれない。

ところで表紙には女性2人が描かれていて、多分、というか絶対これは百合と姉だ。作中で姉は百合の回想の中でしか喋らないので登場人物とは言い難い。

一つ疑問がある。
ホテルを後にするとき、百合はマティアスに「マティアスも、美しい人です、とても。」と言った。
その少し前、美しさとはなんだろう、という場面。それは、姉のように自分であり続け、自分の欲望に従って生きることだとされていた。それを踏まえると、現時点でのマティアスは美しい人に入らないんじゃないか?母の教えに囚われ続け、男友達とサッカーをして女性を好きになってセックスをしなければいけないと思い込んでいるマティアスは美しい人だと言えるのか?
そこがあまりしっくりこなかったので、またいつか読み返したい。

もう2泊くらいしてほしい、と思った終わり方だったけれど百合と姉の関係は確実に変化するんだろうなあと。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?