見出し画像

【エッセイ】恐怖のマージゲーム

突然だが、「マージゲーム」というものを知っているだろうか。

同じアイテム同士を重ね(マージし)て、新しいアイテムを生み出したりフィールドをアンロックしたりして経験値を積んでいくゲームである。

ここ数日、とあるポイ活サイトの案件で、とあるマージゲームに興じていた。

ポイントを得るためには「アプリをダウンロードし、承認待ち反映後35日以内にレベル21を達成」する必要がある。

わたしはひたすらアイテムをマージして、作物を収穫して料理を作ったり、資材を産出して城を建築したりしていた。

こうして文字にしてみると、これを現実世界でやってるんだから、やっぱりTOKIOってすごいことしてるな、とつくづく思う。

ところでこのマージゲーム、手を出したことのある人ならおわかりだろうが、非常に恐ろしい代物なのだ。

不足したエネルギーを補充したり、無料でアイテムをもらおうとしたりすると、1回30秒程度の広告を再生する必要がある。それが数分おきに行われるので、30分~1時間は軽くこのゲームで溶ける。

うっかりすると、ドラマや漫画でおなじみの「あら、もうこんな時間?」というセリフが素で飛び出すはめになる。そうなってくると、もはやゲームが仕事と言っても過言ではない。収入無いけど。

そもそもマージゲームに限らず、こうした無料で遊べるアプリゲームというものは、その多くが広告収益とアプリ内課金で成り立っている。

だが、ポイントを得るために始めたゲームに課金するというのはなんとも本末転倒な話なので、わたしのような人間はどうしても広告再生を選択せざるを得ない。

「ポイントが欲しければ時間を差し出せ」ということだろうが、この人質ならぬ”ポイント質”が取られている30秒間は、この世で最も複雑な思いを抱かせる時間である。

しかも「40~50代の独身男性の方にお願いです!」という広告が流れてきた日には、30代既婚女性はどうすることもできずに、おそらく人生で1番虚無な30秒間を過ごすのだ。

運営側にはぜひ改めていただきたい。

そんなポイント欲しさに始めたゲームも「承認待ち」となってから実に32日が経過した。

現在、レベル17。達成まで、あと3日で4つレベルを上げる必要がある。

控えめに言って、詰んでいる。

所詮は無課金。課金の前には無力ということか。

資本主義の弊害を嘆きながら、スマホをそっと閉じた。

息子の散歩の時間だ。
ポイ活も大事だが、子供の成長はそこと比べるまでもない。

家を出て数分歩いていると、最近建った戸建て住宅の庭が視界に飛び込んできた。

青々とした芝生がひかれ、2~3種類ほどの小さな樹が何本か植えられている。家主のこだわりがあるのだろうか、樹は横並びだったり、1区画あけて植えられていたりして、よく手入れされたきれいな庭である。
次の家に引っ越すときは、こんなおしゃれな庭付きの戸建てに住んでみたいものだ。

ふと気がつくと、わたしはよそ様の庭を見ながら、無意識に指を宙で動かしていた。

そう、樹をマージさせようとしていたのだ

マージゲームが日常生活に侵食し始めた瞬間である。
知らず知らずのうちに「あの樹とあの樹をマージしたら、新しいアイテム取れるんじゃね?」とか考えてしまっていたのだ。
我に返り、わたしは自分自身に恐怖した。

変な汗をかいたまま家に帰りスマホを開くと、ゲーム画面が表示される。と同時に、レベルが17から18にアップした。

おそるべし、マージゲーム。
もう逃げられない。

残りは3日。エネルギーは満タン。
わたしは今日も、時間をかけてこの小さな世界をつくっていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?