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Remoで学術イベントを運営してみて(もしくは言語学フェス2021の総括)

先日の記事でも書いたとおり,1月24日(日)にRemoを使用して「言語学フェス2021」というポスター主体のオンライン交流イベントを行いました。

記事でも書いていますが,理論的背景,対象言語,方法論など多岐にわたり,研究発表だけでなく研究紹介も入れることで,専門家から一般の方まで広く射程に入れた会となることを意図しました。

幸いなことに発表44件,参加申込約240人と多くの方に関心を持っていただき,当日も200名ほどの参加をいただきました。運営チームを代表して,発表,参加いただいた方々に感謝いたします。

鉄は熱いうちに打てと言いますので,忘れぬうちに運営と発表の両方の立場から感想を書いておきます。ちなみに運営チームと言ってますが,現場で動いていたのは私を含め2〜3人です。オンラインなのでそんなに人数もいらないのですが,適正な規模はよく分かりません。

キーワードは交流だと思う

コロナ禍で学会や研究会がどんどん中止になり,研究者同士の交流が少なくなりました。もちろんオンライン学会やオンライン研究会が開催されるようになり,全国から気軽に参加できるので知見を得る機会はむしろ増えたようにも思います。また,個人的に親しい人達だったらzoom飲み会をするとかしてそれなりに交流は保っていたと思います。だけど,学会や研究会の隠れた機能であるあまり知らない人同士が知り合う機会はがっくりと減りました

そこで,「言語学の集い」というSlackコミュニティが作られ,さまざまな分野の研究者などが集まる場となりました。「言語学の集い」には雑談的なチャンネルやお仕事情報などさまざまなチャンネルもあります。ただ,場所はあくまで場所なだけで,その場所を活用した仕掛けがないと交流が深まりにくいというのもあります。昨年6月は言語学会がオンラインビデオ発表になったこともあり,言語学の集いで研究会を行いました。

今回もその流れを(たぶん)受けて,交流を目的としたイベントが企画されましたが,もうひとつ目的がありました。それは,社会一般への還元です。私たちの研究費は運営費交付金や私学助成など,その資源として国や地方自治体からのものが多く含まれます。研究成果を社会に紹介することは今後も研究を続けていく上で必要なものだと考えます。私の場合,2019年に大学祭で研究展示企画をしましたが,そのノリで進めていた面もあります。

ちなみに運営については下の記事を書いています。

また,言語学の場合,「いわゆる町の人」の他にも,さまざまな語学を学ぶ人や,在野の研究者・言語愛好家というのもそれなりにいます。そういった方々ともつながりを持つのは言語学という分野の「ファン」を増やすという意味で大切だと思っています。

緩い話をする場が欲しかったんですよ

あと,私の場合,院生の頃は他の院生と緩く言語の話(こういう現象あるんだってーとか,これってこういうことじゃない?とか,なんかこれ面白くない?みたいな話とか,レベルはさまざま)をしていてそれが心地よかったり,後で共同研究に繋がったりとか良いものになっていたんですが,就職してひとりの研究者として独立して以来,そういう「ちょっとゆるい話をする場」がなくなってきました。本当は札幌言語学ミーティング(TwiFULL札幌)はそういった場として機能するかなと思っていたのですが,避けられない法則なのか,小さな研究会も年を経るに従いレベルアップしていき,なんとなく違うような感じになってきました(僕は気にしないけど,他の人は気にするかなあというぐらいに感じてます)。

また同時に「研究発表」となると「博士院生じゃないとだめ?」とか身構えてしまい,やっぱり発表する人が減るなあと思います。たぶんポスターであればちょっと慣れれば1〜2日で作れますし,見る方も数分で終わるります。そういったわけで今回は「研究紹介」というジャンルを入れたり,「研究相談歓迎」などの文言を入れることで,敷居を下げてみました

ちなみに研究紹介は個人の研究もありますが,研究室の紹介も募りました。下のは九州大学言語学講座の太田真理さんの研究室紹介です。

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ただ研究室の紹介は3つぐらいだったと思うので,もうちょっとあってもよかったかなと思いますが,例えばどこそこ大学言語学講座の紹介だと個人では怖くてできない人が多いかなという印象もあります。

とにかく人を集めなければはじまらない

発表者,参加者の募集ですが,Slackのコミュニティ自体は外からは見えないものですし,突然「いついつ発表会やるよ。申し込んでね」だけでは申し込んでくれそうもないなあと考えたので,個人的にはなるべく多くの,そして多岐にわたる分野の友人知人にどんどんslackへの参加と,発表のお誘いをしていきました。なんだかんだでたぶん発表者の半分ちょっとはそうやって声かけして参加してくれた人じゃないかなと思います。なんというか,個別アプローチってホント大事って思います。引き受けてくださった皆さん,どうもありがとうございました。またよろしくお願いします。

参加者については,たぶん発表者が増えれば自然と話が広がって増えていくだろうと思っていましたが,まさかそれで200名超えになるとは予想しておらず,うれしい誤算でした。

目的は交流にありましたが,これは「人と人」に限りません。研究者は研究書を読みます。また,言語学だと院生が博論を提出後出版することも珍しくありません。そのため,出版社との交流を持つことも同時に大切だと思っています。そういった機会を作るべく,今回,出版社からの出展も依頼しました。ちなみにこういうイベントへの出展だと出展料が設定されがちだと思いますが,今回についてはそれは設定しませんでした。大きな理由としては会計処理が面倒ということですが,コストもRemoの料金だけで,それは科研費から十分出せる(書き忘れましたが,私の科研費が共催です)のでそのようにしました。あ,竹輪大学出版会についてはそういう発想というよりはあったら面白いんじゃない?というノリでやりました。乗ってくれてありがとうございました。

なぜRemoだったのか?

今回はRemo(リモ)というオンライン会議サービスを使いました。Remoはブラウザを使用し,会議室全体をひとつの大きな建物と見なし,そのなかで小さな部屋を設定して会議します。そして,実際にブラウザで表示されるのも建物です。その点で,zoomにあるブレイクアウトルームがより可視化されたものだと考えてもいいです。今回は自分らでフロアの設計をしてそれを使用しました(謝金を支払って細かなデザインや設定を発注)。

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オンライン会議サービスとしてはzoomが有名で学会・研究会でも使われています。しかし,今回Remoを使った理由には大きく分けて「最大人数が絞られること」と,「参加者が自分でポスターの大きさを制御できること」がありました。

最大人数が絞れることの良さ

Remoでは会議をする単位(zoomもブレイクアウトルーム1つ分)を「テーブル」と呼びます。1テーブルの最大座席数は契約プランで変わってきます。

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今回は当初Directorプランの契約を予定していたので,発注したフロアもポスターは3人テーブルと6人テーブルにしていました。ところが上にも書いたとおり参加者がどんどん増えて200名超えが見えてきたので,850ドル(ただし教育機関なので15%引)支払ってProducerプランにしました。その段階ではフロアデザインはすでに発注していましたし,私の方もテーブルあたりの人数を増やすつもりはありませんでした。

zoomを使ったポスター発表では40人とか100人とかより多くの人が同時にポスターを見ることができます。これだけを見るとzoomの方が人数が多いからいいじゃないかと思うかも知れません。しかし,特に学会では顔を出さない(カメラオフ)でポスター発表をすると,説明をしてもそのあとにあまり質問やコメントが出ません。僕の感覚ではカメラオフのzoomでは,誰が話すかという間の取り合いとでも言うのか,主導権の握り方が顔を合わせた会話のときと大きく違うようです(誰か研究してない?)。

実際にzoomでのポスターを見ていてもけっこうこの無言時間の空気の悪さはかなり私としては気になりました。Remoの場合は人数に制限が入る分,zoomよりもインタラクティブに会話を進めることができるので,その意味でポスターは特にやりやすいように感じました。この辺は発表者,参加者からも一定の評価をいただいたと思いますが,同時にちょっと違う考え方もあり難しさを感じました。この点は後に書きます。

幻の3人テーブルプラン

人数が少ない方がコミュニケーションが進むというのは,私としてはかなり強く考えていました。そのため上にも書いたとおり当初のフロアプランでは下のように3人テーブルを多く設置し,1フロアあたりのポスターを増やすことで過疎感が出ず,密なコミュニケーションが取れるようになると考えていました。

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でもこのプランで進めていたら,たぶん満員で聞けないポスターが増えてしまったでしょうね。これは一緒に運営した矢野君の助言に従ってよかったとホントに思います。彼を褒めましょう。

ちなみにこのカスタムフロアは会の1週間前にアップするよう求められていました。なので体験会をやる1週間前にアップしたのですが,実際は翌日には使えるようになっていました。1週間前はうまく行かないときのパターンだとは思ってましたが予想より早く使えるようになったのはうれしい誤算です。

参加者が好きなように見れる形式

今回,ポスターは画面共有ではなく,ホワイトボードに貼り付けるかたちで掲示してもらいました。ホワイトボードを使う利点は,発表者が好きなようにポスターを見ることができることにあります。これって対面の学会ではホント当たり前のことだったんですが,オンライン,特に画面共有でのポスター発表では難しいことでした。

画面共有の場合は発表者がいないとポスターを見ることができません。また,人によって詳しく見たい部分というのも変わってきます。Remoの場合,見る人が好きなところを拡大・移動できます。

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また,ホワイトボードは削除しない限りポスターはそのまま残せるので,コアタイム(在室時間)以外でも自由にポスターを見ることができます。もちろんこの辺は例えばポスターをどこかにアップしてそれを置いておくことで実現できるんですが,これはやはり「そこにいる感覚」がないんですよね。もちろんいっそ「ポスター」なる形式をやめるということは十分に考えられるんですが,「軽く話をする形式」は捨てがたく,何か別の方法で実現できないかなと思っていました。

僕らはオンラインの発表スタイルをもっと柔軟に考えていいはず

ホワイトボードを使った発表は通常のポスターのようなボードの広さの制限がかなり緩和される(感覚的にはほぼ制限なし)ので,複数枚のポスターや追加資料を貼り付けるという使い方が簡単にできます。

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たんにポスターが貼れること以上の使い道がありました。例えば私の発表では調査結果をGoogleマップにプロットしたのですが,紙だとただ印刷するだけになるところが,ホワイトボードでは地図そのものを埋め込んで参加者自身が操作することができました

地図

これはiframeにさえ対応していればどのウェブサービスでも使えるようで,他にもアンケートを埋め込むという使い方もありました。ちなみに実は複数枚のスライドをPDFにして貼り付けると,スライドを各自が再生するなんてこともできます。ただこれはちょっと重たい感じでしたが。

他にも,付せんを貼り付けることもでき,これをあらかじめたくさん貼り付けて,コメントを書いてもらうというスタイルの発表もありました。これだと不在時にコメントが残しやすいですね。これは中川奈津子さんのポスターと付せんコメントです。

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付せんの使用についてはこちらからも積極的に案内はしていて,活用してくれた方もおります。

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実はポスターに付せんを貼るというスタイルは対面で僕も何度かやってみてるんですが,思いのほか書く場所がなかったり,書きづらかったりで難しいなあと思ってるところだったんです。この辺はホワイトボードの利点を活かせたんじゃないかなと思います。

こうやって見てみると,オンライン学会でポスターをどうやるかというよりも,オンラインのサービスを活かした発表形態にはどういうものかを考えるのが大切なんだなと改めて感じました。1枚のポスターを貼ってそれを説明して質問やコメントをもらう以上のことができます。質問を募るのもslidoのようなチャットをおいてもいいし,中川さんのようなスタイルでもいいし。

慣れなさは参加者向けガイドと体験会でカバー

とは言うものの,使い慣れてないツールを使って参加するのはハードルが高いです。そこに対応するため今回は約10日前に参加者向けガイドを公開しました。おおよその内容は以下のとおりです。

・Remoの画面構成
・各種ツールの使い方
・ポスターのアップロード方法
・ごく簡単なポスター作成ガイド
・Remo公式情報へのリンク
・プログラム

ただ私も使っていくうちに発見や変更があり,数日おきにバージョンが上がって,最終的には1.3.3になりました(実はそれでもまだ発見があったが,混乱を避けるためにここで打ち止め)。ダウンロード数を観察していたんですが,おそらく半分ぐらいの方は当日ダウンロードしていました。このガイドについては他の学会の説明を流用したりしていて,一般公開はちょっと憚られる(たぶん著作権的サムシングは問題ない範囲のはずだけど)ので,欲しい方は個人的にご連絡ください。

この他にRemoの体験会を1週間前から実施しました。はじめ体験会は1時間×2回で考えていたし,そうアナウンスしたのですが,サポートよりも慣れだと考え5時間×6回に変更しました。ただ,ずっと運営チームが参加するのも大変なので,常駐していませんという断り書きは付けました(でも空いたほとんどの時間にいるようにはしました)。参加数は6→ 13→ 9→ 22→ 12→ 28(重複あり)でした。まあ日中だしこんなもんかとは思いましたが,2日に1回とか,前日に集中的にやるのでもよかったのかもしれません。

反省点1:座席の移動とプログラムの一覧性

このように,なかなかいい会ができたのではないかと思いますが,反省点がいくつかありました。まず座席数の問題です。私は先ほども書いたとおり,発表者と参加者が多く交流できるようにするためにRemoを選択しましたが,座席数が上限に達していたので(なかなか)話を聞けなかったという感想を目にしました(けっこう強い表現で批判される方もいましたが,優しくしてほしいとは思う←弱い人)。

目当てのポスターがいっぱいのとき,とりあえず別のところに行くと思いますが,同じフロアにどの発表があるのか分かりづらいという声も聞きました。もともとポスター番号の決め方が二転三転したところもあって,そこを決めていった人として責任を感じます。ポスター番号はコアタイム・階数・番号の順で振っていて,A408ならAの時間帯・4階・8番という意味になっていました。サイトはコアタイム(在室時間)ごとに分けていたので,例えば同じ4階にどの発表があるのかは分かりづらいところがありました。

実は僕は個人的に時間帯・フロア以下の番号・発表者・タイトルで分けたExcelファイルを始まる直前に作ったのですが,これをフロアごとに色づけして交流用のテーブルに貼り付けておけばよかったですね。

一覧プログラム

ちなみに同じポスターにずっと居続ける方がいたらしく,上限数が厳しいRemoだとそこは考えてアナウンスをしていってもよかったところです。

反省点2:「顔出し」とぼっち席

今回,交流を重点に置いたのでカメラ・マイクはオンにしてもらうのをお願いしてました。これはインターネットのコミュニケーションとして難しいところなんですが,顔出しに後ろ向きな反応がそこそこありました。

今回,宣伝ではSNSを多用していました。Twitterも多く使ったのですが,FacebookやもとのSlackと大きく異なるのは,Twitterには多くの匿名利用者がいることです。匿名利用者の場合,やはり顔出しはしたくないものです(よく分かります)。ただ一方でポスターのホワイトボードを出すと,カメラ・マイクがオフの人が自分のテーブルに来てもかなり分かりづらい(ノック音が鳴るだけ)ので,来聴者に気づかないことがありました。

解決策として思いつくのはマイクは常時オンにしてもらい,マイクを使いたくなければマイクの入力音は切るよう案内すればよかったというあたりですね。その意味では次にも関わりますが,文字でのコミュニケーションももっと前面に出ていいのかもしれません。

また,今回リクエストとして交流席がほしいということだったので,ポスターと出版社以外は交流席としていました。一方で,静かに休んで次に行くポスターを決めたいが他の人が入ってくるのでそうもいかないという感想もありました。実は「ぼっち席」を作るかというのは考えないでもなかったんですが,それならいったんログアウトすればいいだろうと考え,そうはしませんでした。でもたしかにログアウトは面倒ですからねえ。Remoの仕様上1人席を作るのはたぶんできるし,今回も常時いたのは150名前後で座席としては300ぐらいはあったので,フロアの設計でうまくできそうだなと思いました。

反省点3:音声のコミュニケーションと情報保障

今回のフェスの参加者の中にはろう者の方もおりました。事前に伺っていましたし,Twitterでつながっている方でしたので,Remoのチャットを使ってほしいということを伝え,参加者向けガイドの中にろう者がいらっしゃることと,チャットに気をつけてほしい旨を記載しました。

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ただ,これだけでは注意喚起としては弱く,チャットの通知に気づかない方がそこそこいたようでした。また,テーブルチャットに書き込んでも,書いた人が席を離れると削除されるようになっていました(ずっとそのテーブルにいる人には見えると思う)。

今回のケースであれば,次のようにしてある程度は解決できそうです。

・Remo内のホワイトボードにノート機能を使えば記録が残るので,発表者には常にノートを表示してもらう
・Remoではホワイトボードを使っていると誰がテーブルに来たかが分からないので,(自身は使わないのですが)ろう者もマイクをオンにしてもらう
・人数が少なければアイコンと名前を事前にガイドに記載する(あるいはこちらが指定する)

他に聴者同士のやりとりが分からず孤独感が出るということもありました。具体的には以下の感想のツイートにあります。ちなみにご本人に確認していませんが,この「課題」というのはフェスに固有の課題というよりもそれも含め,オンラインでのイベントにろう者が参加する際の情報保障を考える上で社会的に解決されるべき課題のことだと思っています。

もっと短く伝えたものは次のツイートですね。

こういった問題を一気に解決することは難しいと思います。だって,解決したと思ってから気づく問題だってありますから。なので,キャパオーバーにならない範囲(オーバーしたらイベントがなくなる)で,できることをやっていくというほかないのだろうと思います。

ちなみに,音声でやりとりしながら文字のチャットをするというのは慣れた人でないと頭の切り替えからして難しいということがあります。僕はわりとそこはできるようなんですが(オンライン内職者?),どうも聞いてみると苦手にする人がけっこういるようです。そこを考えると,音声でやりとりしている人に突然文字のやりとりに移ってもらうというより,いったんやりとりを切ってもらうことになるのかなと思います。

次はどうなる?

次回の予定は未定です。僕個人は前向きに考えていますが,僕だけで運営ができてもしょうがないですし,続かなくなります。いろんな方に開かれた「ゆるい」イベントとして続けていけるような方法を考えてみたいと思いますので,そういう視点でフィードバックなどいただければ幸いです。


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