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「学生レポートのレベル」論の注意点

定期的に出てきている気もしますが,大学生のレポートのレベルが低すぎるということが話題になっています。

この手の「今どきの学生は」みたいな論にうんざりしているというのが正直な感想です。大学進学率が上がっている現状で,大学の役割や昔と比べることに意味があるかというのが1つ,そもそも「昔のレポートはみんなレベルが高かったか」ということに疑問があるのがもう1つです。

この記事に対する反応は様々あったのですが,そのうちの一つに「書けないなら書き方を教えればいい」という類のものがありました。こういった反応は「大学生はひどい」という類のものとは比べものにならないくらいまともなものだと思います。ただ,この意見にも注意しておきたいポイントがいくつかあります。

(ほとんどの)大学ではレポートの書き方は教えている

まず,非常に多くの大学でレポートの書き方を教えているということです。文部科学省が2016(平成28)年度の調査では大学の90%でレポートの書き方を教えているという回答が得られています(文部科学省「大学における教育内容等の改革状況について(平成28年度)」)。

大学レポート結果

もちろんこれは急激に上昇したわけではありません。2006(平成20)年度でも約70%の大学が初年次教育でレポート・論文の書き方に取り組んでいました。

レポート20

注意する点があるとすれば,これは授業の一部として実施しているものも含めています。したがって,15回のうち1〜2回でもやれば上の数値に含まれます。

なぜ書き方が身につかないのか

それでは,実は学生はレポートの書き方が身についているといえるのでしょうか。卒業論文の指導で苦しんでいる先生は今でも多いですし,就職活動でエントリーシートを書くのに苦労している学生が多いことからも分かりますし,私の実感としてもそうです。

これは初年次教育としてのレポート指導が機能していないことを意味するのでしょうか。私はそうは考えていません。文章力の向上には「文章の構想から完成までのプロセスを体系的に学ぶこと」(これは初年次教育でやっていること)のほかに「継続的に書き,添削を受けること」が必要です。しかし,特に2年次にそういった機会がカリキュラムとして保証されている大学って実はけっこう少ないのではないでしょうか。

これは「1年次と同じような文章作成用の科目を2年次にも作るべき」という話ではありません。例えば数十人規模の授業でも100字程度文章を添削するとか,学生同士で添削をするという方法もあります。文章力は漆塗りのようなところがあり,こういった地味な取り組みを続けていくことで4年間かけて文章力を向上させられたら,よりよい大学教育を作れたと胸を張って言えるかと思います。

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