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雑記001

優しく美しい誰かや今日辿り着いた場所は、果たして私が手に入れたものなのだろうか。運良くこの手にある幸福は、一体いつからここにあったのだろう。

月の匂いを知らなかった。それが花壇の隅や電柱の先にまで届くなんてことも。たとえば私たちは、おびただしい量の希望や後悔を着古し、時おり新品に着替えては、季節と引き換えにまた仕舞う。慣れてしまえば、感動も恨みも、なかったことになるのだろうか。この匂いも、昔に嗅いだそれなのか。

感性が死ぬことを、歳や多忙のせいにしたくない。時々の喜びと苛立ちを、過去の例に嵌めて簡単に分かりたくもない。自分を納得させるための言葉ばかり上手くなって、波も風もない湖面に映るのは退屈なものだけだろう。節約した感情では無二の幸福だって見逃すと、私だってそれぐらいは知っていたはずなのに。

生きることに、どうか死ぬまで不慣れであれ。

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