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みちのく東北ひとり旅.2 #不老ふ死温泉と太宰編

7月5日月曜日、東北ひとり旅2日目。

その日はレンタカーで2時間以上かけて不老ふ死温泉まで行く予定だったので、前日は運転が心配でよく眠れなかった。なにせ、ひとりで車に乗るのは5年ぶりぐらいだったのだ。

眠たい目をこすりながらホテルで朝食をとり、予約していた弘前駅前のレンタカー店で軽自動車を借りた。高性能な車内の設備に感動しつつ、カーナビの目的地を不老ふ死温泉に設定していざ出発。

大阪市内に比べるとかなり交通量は少ないものの、朝の通勤ラッシュの時間帯だったのでそれなりに道路が混み合っていて最初はハラハラしながらハンドルを握った。

その後市街地を抜けると目的地までほとんどずっと道なりで、前後に他の自動車もなく安心してドライブを楽しむことができた。基本的にコンビニもないような田舎道を走っていたので、時たま町っぽいところに出たらスーパーやコンビニの駐車場に車を停めて休息をとった。

海沿いの道に出てからは、前日リゾートしらかみで通った道のりを逆向きに進むようなコースを走った。途中で前日行った千畳敷も通過した。

朝8時に出発し、お昼前にようやく不老ふ死温泉に到着。

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本館と新館があり、内湯がそれぞれひとつずつと、旅館の外には海辺の露天風呂がある。

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新館の大浴場で軽く身体を洗い流したあと海辺の露天風呂を探して館内をうろうろしていると、入れ違いで露天風呂から出てきた親切なおばあさんが女風呂の入り方を教えてくれた。
ご存知の方も多いかと思うけれど、ここの露天風呂は海岸に設置されていて、お風呂の目の前には海が広がっている。一応混浴と女性専用のお風呂が簡易的な仕切りで分けられているものの、脱衣所が屋外にあるようなワイルドな建て付けだ。

おばあさんに教えてもらった通り建物の外に出て露天風呂の手前にある脱衣所で服を脱ぎ、誰もいない赤褐色の湯船に浸かった。
風がびゅーびゅー吹いていて、目の前の海は荒れ模様。運良く雨こそ降っていなかったものの、天気は前日に続く曇り空で、鉛色の海面に絶え間なく白い飛沫があがる。湿気を帯びた冷たい風に吹かれながら空と海だけがどこまでも広がる空間にひとり裸でぽつんと座っていると、なんとなく心細い気分になった。

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風呂上がりに旅館の食堂でまぐろ丼を食べたあと、午後からは太宰治疎開の家と斜陽館に向けて出発。

記念館がある金木は弘前市内から津軽半島方面に向かって車で1時間ほど北上した位置にあるため、不老ふ死温泉がある日本海側のエリアから再び市街地方面へ2時間以上の道のりを戻った。

車移動の時間が長すぎて不老ふ死温泉の近くに泊まればよかったと少し後悔したものの、午後からは前日と打って変わって晴れ間がのぞいていたので海沿いのドライブコースを走るのは気持ちよかった。午前は運転に不安があって肩に力が入っていたけれど、お風呂に入っていい気分になったこともあり、午後からは開放的な気分で純粋にドライブを楽しめた。

金木に到着し、まずは太宰治疎開の家へ。

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ここは太宰の生家である津島家の離れで、東京大空襲から逃れるために太宰が疎開してきた場所だ。館内に入ると、係の男性がしばらくお話をしてくれて、そのあと自由に家のなかを見学することができる。

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太宰について流暢に語れるほど彼の著作をたくさん読んだわけではないけれど、中学生の頃にはじめて読んで以来、なんとなくずっと心の中にいる作家だ。
「生きづらい」という感覚を実感したことのある人の多くが、シャイで繊細な彼の言葉に深く共鳴するのではないだろうか。かく言う私も彼にはなんとなくシンパシーを感じていて、旅先で彼にちなんだ観光スポットがあるとついつい覗いてしまう。

施設はそれほど大きくないが、室内のいたるところに彼の作品から抜粋した言葉がちりばめられていて、太宰の世界観をじっくり楽しむことができる。学生時代は「中二病」という言葉で彼や彼の作品を揶揄する人が周りに多かったけれど、社会人になったいま改めてそれらを読んでみると初読のときとはまたちがった意味合いを帯びて胸に響いてくる。

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久しぶりに『駈込み訴え』が読みたくなったなぁと思いながら、閉館時間の迫る斜陽館へ。

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言わずと知れた太宰の生家であるこの館は、とにかく大きくて立派なお屋敷だ。ぎらぎらと黄金色に輝く巨大な仏壇のある和室もあれば、2階にはモダンな雰囲気の洋室もあり、彼が桁違いのお金持ちであったことが一目でわかる。家のなかに銀行があるなんて、私の知りうる限りでは聞いたことのない話だ。
しかしその一方で、津島家が伝統的な名家ではなく新興地主であったというバックボーンや、それに対して太宰がやや屈折した感情を抱いていたことがなんとなく頷けるような雰囲気も漂っていた。

閉館ギリギリまで記念館を見学したあと、弘前へ出発。すっかり晴れわたった田園風景のなかをひたすら走っていると、道の駅の駐車場にたくさんの紫陽花が咲いているのが見えたので思わず寄り道した。

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その頃大阪の紫陽花はもうすっかり萎んでしまっていたので、青森に来てから紫陽花がたくさん咲いていて驚いた。私は植物のなかで紫陽花がいちばんすきなのだけれど、今年は仕事が忙しくて紫陽花をゆっくり楽しむ時間がなかったので、タイムスリップして失った時間を取り戻しているような気がして嬉しかった。

弘前市内に戻ってきた頃には主要な観光施設はどこも閉館してしまっていたので、駅の近くでアップルパイを購入してからレンタカーを返却した。遠くに行きすぎてあまり弘前市内を堪能できなかったことが少し悔やまれる。

記念に、一日を共にしたレンタカーを撮影。初めてのひとりドライブ旅を無事に終えられてちょっとだけレベルアップした気分だった。

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弘前駅でお土産を買ったあとはJRで青森駅へ。

青森駅は駅舎が大きく、駅前の繁華街も栄えていてびっくりした。駅から徒歩5分ぐらいの距離のホテルにチェックインしてから、電車のなかにアップルパイを置き忘れていたことに気付いて慌てて引き返す。親切な駅員さんのおかげで無事に翌朝の朝食であるアップルパイを回収できた。

翌日も車で遠くに行く予定だったのでこの日もコンビニのご飯で夕食を手短に済ませ、早めに就寝した。

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