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障害と性に関する現場での悩み

(9,022文字/個人差はありますが、約15分~20分程で読めると思います)
こんにちは。よこはま発達相談室の佐々木です。

月曜日には門下祐子先生(東洋大学福祉社会開発研究センター客員研究員)とのトークイベントを実施しました。その様子を配信しておりますが、実は想定以上に多くのご質問をいただき、全てにはお返事ができておらずでした。今回のコラムでは、関連することがらや、お返事できなかった内容について、現時点でのぼくの考えを書いていきたいと思います。

現場での対応

コンサルテーションの中では、異性への距離感がご質問に上がることがしばしばです。例えば、特定のスタッフへの身体接触が多いけれども、愛着の問題もあるだろうから明確な線引きをするのもどうかと思って悩むというようなご質問です。

確かに、悩むところかもしれません。ただ、いつもお返事しているのは、愛着の問題があってもなくても、こちらができることは「ご本人にとっての安心した環境の提供と、不都合があればそれを小さくすること」です。

以前のコラムにも書いたことの一部を引用します。

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  • 愛着の問題→背景にネグレクトがあるので、それに対する介入(つまり虐待防止)が必要で、子どもへの支援としては安心できる環境を提供すること

  • ASD→背景に発達特性があるので、それに対する介入(環境調整)が必要であり、子どもへの支援としては安心できる環境を提供すること

となります。このように考えると、どちらであっても我々が子どもにできる支援としては、「安心できる環境を作ること」になります。Mukaddes先生(イスタンブール児童青年精神医学研究所)のグループでも、2000年頃から愛着障害の子どもたちは環境調整をすることで改善が見込まれること、2014年にも構造化された指導や環境調整はASD、愛着障害ともにポジティブな結果をもたらすことを報告しています。つまり、アタッチメントの視点から考えても、環境を構造化すること(安心できる環境を作ること)は有効であると言えます。

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愛着の問題とだけ捉えない

これらから考えることは、愛着云々の話をする前に、「今の支援は十分なのだろうか?」を考えてみることです。本当にそれぞれの方の特性にあった支援と言えるのかどうかを考える必要があります。実際に、支援の不足から不安になり、落ち着かず、一人で安心して過ごすことができず、反応の得られる人にいくことがあります。その結果として、相手への接触が見られることもあります。この時の本質的な問題は「異性に接触しないように教えること」ではありません。

そもそも、そうならざるを得ない環境(=安心して過ごせる環境)になっていないことが本質的な問題ですから、ご本人の行動を変えようとするのではなくて、環境を変える方が、優先度も必要性も高いのではないでしょうか。

その上で、「異性への接触」について考えていきます。でも、この時に「愛着の問題があるから」とだけしてしまうのではなく、「人付き合いのルールや意味について学ぶ機会を奪っている可能性はないのか?」も考える必要もあります。個別にルールをお伝えしていくこともあれば、全体に向けてお伝えをしていく場合、どちらもあるでしょう。  

ご本人に伝えることが難しい時にはどう考える?

そうしたことをお伝えしていくのが難しい方々もおられるかもしれません。そうした時にはどうすると良いのか?と聞かれることもあります。もっともな疑問だと思います。

でも、まずは「どのような時にそうした行動が見られるのか」や「その方の特性」を確認していくことが大切です。時々、「異性の髪の毛を触ろうとする=性的関心がある」とされることがあります。もちろん、そうしたこともあるかもしれません。でも、中には「触り心地」や「シャンプーやヘアワックスの香り」など、感覚的な好みからそうした行動になる場合もあります。その場合には性的な問題ではなくて、その方の特性という部分から対応を考えていく必要があるだろうと思います。例えば、別の不都合ない形に置き換えられないかなどはその一つで、好みの香りのシャンプーがあればそれをミニボトルに入れて香りをかげるようにすることもあります。もちろん、それは選択肢の一つでしかなくて、唯一の対応ではありません。大事なことは、行動だけですぐに判断しないということです。

重度知的障害を伴う方々への対応についての疑問

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