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「Q&A:発達障害、増えてるの?/べき思考への対応/障害特性の理解だけでは足りない」

(6,086文字/個人差はありますが、約10分~15分程で読めると思います)

こんにちは。よこはま発達グループの佐々木です。
今回はご参加頂いている皆さんからお寄せ頂いたご質問にお返事をしていく「Q&A回」です。どうぞお付き合いください。


Q:発達障害は増えている?

いつもお世話になっております。2022年に「小中学生の8.8%に発達障害の可能性」と文科省の調査で公表されたと思います。この調査は10年に1度行われているそうで、2002年は6.3%、2012年は6.5%と調査の度に増えているように見受けられます。
  
「発達障害は増えているのか?」とご質問をいただくこともあり、この辺り佐々木先生のお考えを教えていただければと思っています。    

A:増えているかどうかはわからない

ご質問ありがとうございます。確かに数字を見るとどんどん増えているように見えますよね(ただし、文科省が出しているこの結果は「診断」ではなくて、学校の先生方へのアンケートの結果です)。

疫学調査ではどうなっている?

昨今の疫学調査でも、ASDの有病率はかつては1万人に3~4人と言われていたのが、現在は1~2%と言われています。例えば、疾病管理予防センターの報告によると、アメリカの子どもの約 54 人に1人が自閉症と診断されていると報告があります(2020)。
  
ADHDについても同様で、昨年7月に報告された英国での調査によると、過去20年間でADHDの診断は増加したとされています。その中では、女性よりも男性の方が多いこと、2000年には10-16歳の男子の1.4%がADHDと診断され、2018年には3.5%、成人においても、特に18-29歳の男性で診断数が20倍に増加している可能性を示唆しています。
   
このように研究における発症率は増加していますが、実際の数が増えているのかどうかについては結論が出ていません。では、こうした増加の背景にはどのようなことが考えられるでしょうか。

診断基準や概念の広がり

一つは診断基準の変化。
発達障害の定義や診断基準が過去数十年で変化しており、より広範な症状や行動を含むようになったことが、診断率の増加に寄与しているかもしれません。

もう一つは概念の普及。
保護者や支援者たちの間での発達障害に対する概念が広がったこと、早期療育や介入を含めた環境調整の重要性が認識されるようになったこともあるでしょう。

過剰診断?

一方で、過剰診断の問題も指摘されることもあります。
ただ、個人的な見解を述べると、過剰かどうかよりも診断のプロセスが適切になされているのかどうかの方が問題ではないかと思うこともあります。
   
診察する側の経験則に基づいたり、ごく短時間の診察で直感的な判断で診断を下してしまうなどです。少なくとも、数十分、診察室で会っただけで診断を確定するのは適切とは思えません。ましてや、簡単なアンケートのみで診断というのは尚更不適切です。ですから、過剰かどうかよりも、診断に至るまでのプロセスや根拠が適切かどうかの方が本質的な問題だろうとも思います。

発達障害特性が明確でも、社会生活上の適応がよい方もいれば、そうでない方もいます。その場合には、どこまでを診断し、どこからは診断しないのかはその目的によって様々だとも思います(特性がある=診断をしなければならないわけでもありません)。
  
特性があり、社会生活上の困難も大きければ診断をすることで、サービスに繋げる意義は大きいと思います。そうではないのに、まるでレッテル貼りかのように「発達障害」とだけ伝え、具体的な支援がなされないのはどうなんだろうかとも思います。
    
過剰な診断かどうかよりも、こうした視点を持ちながら議論していく方が良いのではないでしょうか。
   
ですので、頂いたご質問に対しては「現時点ではわからない」というのが結論です。   

Q:〇〇すべき思考にどう対応すれば?

成人の方と普段お会いすることがあります。その中で「〇〇すべき」という思いが強い方がいます。もっと楽に考えられると良いと思うことが多いのですが、その時につい説得しがちになってしまいます。どのようにご相談を進めていくといいでしょうか。ケースバイケースだと思いますが、何かヒントになるような視点をいただければと思います。

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