製薬マーケは楽しいか?

とあるMRの方からTwitterで質問をいただき改めて考えを整理したいと思った。「製薬マーケに行くために何が必要か?」という質問は数多くいただいてきたし巷に色んな回答が溢れていると思うのだが、「楽しいか?」という観点ではこれまで深く考えたことがなかった。自分が経験した範囲内になることは注釈した上で持論を述べてみたい。
ここでは下記の4つの軸から仕事としての製薬マーケの「楽しさ」を考察する。
·         戦略を担当するのか遂行を担当するのか
·         その会社は営業が強いかマーケが強いか
·         担当する疾患領域はPrimaryかSpecialtyか
·         担当する製品のライフサイクルはどこか (Launch前、新発売直後、成長期、成熟期)
 
最初はまずそもそもマーケティングとしてどの部分の業務を担当できるかだ。マーケティングには大きく分けると戦略 (売上予測なども含む)と遂行に分かれる。戦略の担当はいわゆる市場分析を行い (ただし顧客や営業観点を含めるという意味では遂行担当でもここには関わる)、その分析結果に基づき戦略の大枠を決め、戦術、アクション、KPIへと落としていく。そしてその後のPDCAサイクル評価も行う。一方で遂行担当は主にイベントの実施、KOLエンゲージメント、資材の作成、デジタルプロモーションの企画実行などなど、いわゆる戦術の実行を担う部分だ。営業とのコミュニケーションも多くなる。もし戦略を自分で立てて上層部への製品の説明責任・成果責任を背負うことに楽しさを見出だせるなら戦略を担当できた方がいい。一方でMRのように顧客と多く接したい、MRに近しいイベントや資材を生み出し改善することに楽しさを見出すなら遂行を担当するのもアリだ。
 
続いて、営業とマーケティングの力関係。どの会社にいても多少なりとも営業とマーケティングの衝突はあると思う。というかある程度はあった方が健全だ。営業はよりよいPlanを求めるし、マーケティングはより良いExecutionを求めるからだ。とはいえ、会社によっては伝統的に営業の力が異常に強いところがある。そうなると時に「マーケティングの戦略に従わなくてもよい」と勝手に判断することがまかり通ったりする。そうなるとマーケティングとしては一気に楽しさがなくなる。マーケティングの計画を実行してくれないから立てる意味がない上に、そもそも実行してないから計画が正しかったのかどうかの検証もできなくなるからだ。なのでマーケティングと営業が相互にフィードバックし合って行ける環境があるかは確認したほうがいい。

3つ目は疾患領域がPrimaryなのかSpecialtyなのか。これはイメージが付きやすいと思うが、基本的にPrimaryは顧客対象が多くの非専門医、開業医を含むことになるため多くのMRの人員を割いてShare of Voiceで競合優位性を発揮することが肝要だ。そこで必要なのは(もちろん必要ではあるが) 疾患や製品知識よりも多くの顧客と深い関係を築く力、多くの訪問をこなす力、差別化が難しい製品群の中で印象を残す力、などなどだ。そうなるとマーケティングとして大事になってくるのはいかに多くのチャネルでSOVで勝つかという観点でイベントや資材を多く作ることになる。これもこれで楽しいが、同じ業務を多く繰り返す傾向になりやすい。また、戦略は多くのMR人員が腑に落ちるシンプルはものであることが求められる。
一方でSpecialtyになると基本的に処方するのは専門医で、高い疾患知識を持っていることが前提になる。そうなるとMRもそこに合わせてPrimaryと比較すると少ない人員で高度な専門知識を持つことが求められるようになる。よってマーケティングとしてはその疾患のCustomer Journey、顧客のニーズ、製品の差別化要素などを加味した上で比較的細かなポジショニングやセグメンテーションを行う傾向が多い。SOVよりもいかに対象顧客に対して的確なプロモーションを積み重ねて製品価値を拡大させていけるかが肝になるため、Primaryとは楽しさを感じ方が異なる。
 
最後に担当する製品のライフサイクルはどこなのかだ。これはめちゃくちゃ重要だ。基本的に製薬のビジネスは「製品立ち上げには多くのリソースを投下して成熟期になれば徐々に減らしていき、後発品が参入すれば最低限の投資しかしない」だ。これはどこの会社もレベルの差はあれそうなっている。というかそうしなければ生き残っていけない。そして製薬のビジネスは薬価を自分たちで決めれない、対象顧客が大きく動くことがない (その疾患を治療する医者)こともありライフサイクルが成熟期に入るとそこからトレンドが大きく変わることはほぼほぼない。そうなると、どうしても製品立ち上げ前からその後数年はマーケティング戦略が重視されるし多くの人員が投下されるが、成長期をすぎればマーケティングの業務はExecutionの質と量をひたすら改善していくことがメインになる。ということで1つ目の軸で述べたようなExecutionをひたすら行うことが楽しいなら発売後数年の製品を担当しても楽しいだろう(ただ特許が切れる頃には次を探さなければいけない)。逆にそういう場合は基本的に過去の戦略を踏襲しつつ改善することが多いので戦略が楽しい人には楽しさは少ないだろう。一方で発売前後の製品であれば逆に戦略立案の自由度が高い上に裁量も大きく、やりがいが大きい。多くの人が新製品を担当したいと言うのはこのためだ。ただ一方でまだ市場に出ていないため不透明度と上層部の期待値が大きく、激しいプレッシャーにさらされることになる。それの楽しめる人はぜひ新製品のマーケティングを狙うといい。(ただポジション争いとしては間違いなくレッドオーシャンだ)。
 
以上が製薬マーケとしての楽しさを自身の経験を元に考察したものだ。もっと多くの経験をしている人もいると思うのでぜひご意見聞いてみたい。
 
 

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