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猫日和 58 Tさんの家のハル〈3〉 大怪我

Tさんの家にも猫扉がある。玄関の上がり框と居間を隔てるガラス戸の下方に、スルリと抜けられる出入口があって、猫達はそこから出入りする。そして、玄関の扉を押して外に出る。

家は細い路地に面していて、呼び鈴は、お父さん力作のバードカービングのキツツキ。紐の下に丸い玉がついていて引っ張ると、キツツキが頭を上げ、手を緩めると、戻る時コツンと硬い音を立てて柱を叩くことになっている。だから2度3度と紐を引っ張り、コツンコツンと鳴らす。
素敵な家だ。

猫達は夜行性なので、夜出かけて散歩してくることもあったが、ある時、ハルが車に跳ねられたのだろう。怪我をして、息も絶え絶えで戻ってきた。Tさんはびっくりして、そのまま抱えて動物病院に直行し、即入院となった。
意識は混濁、体温はどんどん下がり、この先、持ち直すか分からない、と獣医に言われたそうだが、何とか命は繋ぎとめられた。

長く動物病院に入院して、退院した後、しばらくは以前のような元気がなくなってしまった。じっとして横になっているばかりで、たまに遊びに行く私も心配したが、お父さんとお母さんが、毎日仏壇にお経をあげ、御先祖様にお祈りしているので、ことさら猫にまでお守りがあったのだろう。

しばらくして、また会いに行った時には、かなり回復して、歩く姿も普通になり、安心した。

本当に、生き物を飼うということは大変なことがある。
玄関の前は細い路地だが、道一本行くと国道1号線で、夜でも車通りは絶えず、事故があって以後、玄関の猫の出入りは自由に出来ないことになった。

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