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雑記 80 詩--冬の朝

   冬の朝   
      山口佳紀

冬の朝ひげを剃ると
初めて剃刀を使った
遠い日のことを思い出す
あの時
大人の世界に入る代わりに
私が置き忘れて来たものは
何だったのだろう

中年になった今も
剃刀を使うと
肌の下から不意に
顔を出す青年期
なめらかな肌に
快い寒さが
散弾のように沁みて来る
こんな冬の朝は

(産経新聞「朝の詩」1990年12月12日 選者新川和江)

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