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「この時には食べちゃだめ」なモノたち

薬膳は他の食養生と違って、「その食べ物自体が害悪だ」というものはありません。なぜなら、そういうものは食物と呼ばないことになっているからです。
若干毒性のあるものですら、危険度を記載して、食物として扱っているくらいです。銀杏なんかはその一例。
ですが、その人のその時の体のバランスによっては、これは毒にしかならんぜ、というものも出てきます。そういうもののまとめが教科書にちゃんとあるので、日本語訳しておこうと思います。自分用メモと言っても過言ではないw
『神農黄帝食禁』『神農食忌』『老子禁食経』などを出典としているようです。
治ったと思っても100日は禁止を続けてね、と書かれている本もあるみたい。

1.こういう証の時は食べないで

・脾胃が虚寒で下痢している人:「生冷」…冷たいものを飲み食いすること。生野菜や果物。
 脾胃は食べ物を消化して気を作り出すところ。そこが冷えて弱っているところへ、アイスクリームやかき氷、フラッペを詰め込むなんて、脾胃からしたら拷問のようなものですね。冬に冷え切った体で川へ入れと言われているのと同じですから。
 でも、生野菜や果物までがそれに当たるとは想像しづらいかも。これを機に、野菜は加熱して食べてみてください。
 果物はコンフィチュールとかオシャレに決めてみるのもありかも。でもコンフィチュールを冷蔵庫に入れて冷やして食べたら同じことです。食べる前にせめて常温に戻しましょう。そして口の中でしっかり味わって、体温と同じくらいにしてから飲み込みましょう。その方が香りの変化まで楽しめて贅沢です。

・脾が弱く膨満する人や外から邪気に襲われ始めた人:「粘滑」…米、大麦、小麦を使った麺。
 麺に限られているのが面白いですね。グルテンの「ねばねば」が脾にこびりついて、脾が弱りやすくなるんでしょうか。それだとすると、餅麩とかもだめそうです。
 脾は湿邪に弱く、食べ物の「ねっちり」「ベタベタ」は湿邪に変わりやすいとされています。膨満は胃酸分泌が弱いか胃の動きが悪いかで起きることが多いですが、脾が湿邪にやられるとどちらも起きそう。外から邪気が入り始めている時の一番多い例はカゼです。風邪引くとうどんやラーメン食べたくなりますが、引き始めは避けた方が良さそうですね。邪気が内側へ入りやすくなってしまうのだと思われます。

・脾が湿邪にやられている人や痰湿が体に溜まっている人:「油膩」…脂の多い肉。揚げ物。乳製品(牛乳・バター・ヨーグルト)。
 これも脾と湿邪の話。脾そのものが湿邪にやられている時と、それ以外の場所が湿邪や痰に侵されている時を分けて考える必要があるのですが、避けるべきものは同じ、ということです。
 むくみ、体がだるい、頭が重い、気質が粘着質、などが起きます。

・風熱証、痰熱証、皮膚になんらかの発疹やできものがある人:「腥膻」(生臭い)…海の魚。鱗のない魚。えび。かに。貝類。羊。
 熱っぽい症状がある場合、ちょっと体の声を聞いてみてください。
 むくみがあって水が余っている感じなのに体は熱い、怒りの感情が溜まりすぎて鬱々として体調悪くなってきた、なんかも痰熱の場合があります。
 鱗のない魚の例としては、ヒラメ、カレイ、太刀魚が挙げられています。

・内熱証の人:「辛辣」…ネギ。生姜。にら。唐辛子。花椒。酒。
 内熱なので陰虚が元にある場合が多いです。辛い味は熱のものが多いのと、乾燥させる力も持つので、陰血津液がますます減ってしまう。だからこれらを避けるのでしょう。
 そうか!酒も確かに、強いのは舌にピリッときますね。甘口の日本酒やシェリーでもだめですよ。

・喘息、動風、皮膚病のある人:「発物」…上記の「腥膻」と「辛辣」。もやし、アルファルファ。鴨。(これのみ、再発の恐れや新たに病が始まる可能性と書かれています。)
 動風の説明がしづらいですが、肝火が上炎して起きる風のことだったりします。で、3つ合わせて、喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎などの日本三大アレルギー性疾患のことかなと。「発物」を避けるのはわかるけど、もやしとアルファルファもだめなのか。芽が出るエネルギーがダメってことでしょうか。となると、この時代にはあまりなかったかもしれない各種スプラウトはどうなんだろう?豆苗が特に書かれていないので、もやしとアルファルファ以外はまあよしなのかな。
 これらの他に、いろんな種類の鳥も載ってますが、日本ではほぼ食べないので割愛します。

2.こういう薬を使っている時は食べないで

基本的に薬を使うようなレベルの病気状態の時には、胃を元気付ける養生をすることが大事で、生もの冷たいもの、湿邪をうむもの、肉、麺、辛いもの、酒、乳製品、匂いのきついものは避けるという前置きがあります。
その上で次の組み合わせは避けてくださいとあります。
・甘草・黄連・桔梗・烏梅:猪
 
猪を食べることがあまりないのですが、甘草はほとんどの漢方に入っていますし、桔梗はのど飴にエキスが入っていたりします。カゼ薬やのど飴の漢方系のものを使った時には、ぼたん鍋は避けましょう。

・薄荷:すっぽん
 すっぽん。これもなかなか食卓には上がりにくいのではないかな。しかし、まる鍋食べにお店に行って、食後に口をさっぱりさせるためにガムを噛むのは避けたほうがいいのかな?なんて考えてしまう組み合わせですね。

・茯苓:お酢
 桂枝茯苓丸飲んでる女性増えてるので、気をつけてくださいね。他にも結構茯苓入ってる方剤あると思います。

・蜂蜜:ネギ
 一緒に、なので、味の都合上ほぼやらないのではないかなと思いますが、同じ献立内にあるのは良くないかもしれません。

・白朮:ニンニク・桃・スモモ
 むくみのある方の漢方に入っていることが多いので、そういう方は要注意。

・人参:大根
 この人参は生薬の方です。
 ですが、生の大根とだと、オレンジ色の食材の人参も力を発揮できなくなる、とは言われます。

3.妊娠中・産後の時期は食べないで

 妊娠中は母体の臓腑経絡の血は沖任脈(子宮と関わりの深い気血の通り道)に注がれて、胎児を営養します。それと、赤ちゃんが陽気の塊であることからも、母体は陰虚陽亢の状態になりやすいです。
 なので、1で出てきた熱系の人にだめなものはだめです。
 「辛辣」と「腥膻」。これらは母体の陰血を消耗し、赤ちゃんの元気を損います。
 甘味で平性・涼性のもの(あくまでも涼性のもので、冷たいものではありません!)は食べても良いです。寒性・熱性の甘味は避けたい。
 体を冷やすと子宮が収縮しやすくなったり、血行が悪くなって胎盤の状態がよく無くなったりするので、寒性は避ける。そして、熱性のものを摂りすぎると、赤ちゃんの強い陽気と戦ってしまうので良くない。でも、赤ちゃんの強い陽気のせいで母体が熱を持つのもまずいので、涼性ならあり。という感じです。これは、甘味に限らずです。
 つわりの時期は、「油膩」も避けます。胃や脾に優しいものを少量ずつ。理気のものは少しだけ入れると良いかも。でもつわりのひどい時は、気をめぐらせることよりも、補うことを中心にしましょう。
 妊娠後期は赤ちゃんが大きくなってきて、物理的にも気がつまりやすくなります。お腹が張りやすくなるものや便秘になりやすくなるものを避けましょう。穀類や芋類です。
 中医学では、産後は必ず虚すると言います。陰血の不足と瘀血が大体見られる。でも母乳を出さなければならない。母乳は陰血から作られ、それが乳管というほっそーい管を通って出てくる訳なので、足りなければ作られず出てこないし、瘀血でも管が詰まって出てこない。後者は乳腺炎にもなりやすくなりますね。
 なので、滋陰養血をメインに、補うものを食べていきましょう。甘味で平性・涼性のものや、家畜の肉・鳥類、卵や乳製品が良いです。「辛辣」のものや「発物」は陰血を損なうので避ける。体は冷やさないのが基本なので、寒性のものや生物は控えましょう。
 ここまでは大枠の考え方として、ですが、妊婦さんについては、詳細にまた書くことにします。→12月20日に記事追加
 お母さんの体が元気なら、子供も元気。お母さんが病気になると子供も病気になる。と言われます。体の調子も大事ですし、病は気からなので、いろんなことを考えすぎず過ごすことも大事。
 その為には、この食べ物はいいのか?悪いのか?とひとつ一つ気にするより、

・ざっくりと捉えて知っておくこと
・だめなもの以外で、安心安全なものが手に入るルートを確保しておくこと

がいいのかもしれません。

 いかがでしたでしょうか。「こういう時にはだめ!」として書いてみましたが、健康な人でも、たくさん食べたらだめっぽいものたちでしたね。
 色々覚えるよりもまずは、消化のしやすいものをよく噛んで腹八分で。
 ここができるようになれば、病気の時の食養生も辛くないですし、うまいものを今よりうまく味わえるようになってきます。
 養生のためにグルメをやめる必要はありません。でも、不健康になったらグルメをやめる必要が出てきます。
 そうならないように、「辛辣」と「油膩」を控えるところから始めてみませんか。

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