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肺について

肺のはたらき
百脈の朝/気や津液をまくスプリンクラー/空気から気を取り込む

肺という臓は、五臓六腑の一番上に位置していて、脆いと言われています。脆い、というのがどこから来ているのかはよく分かりませんが、この位置と特徴により、肺をよくしたい場合には、重たい薬は使わないようにとされています。とはいえ、薬膳では「重たい」食材がそれほどないので、あんまり気にしなくて大丈夫です。方剤だと、石膏とか牡蛎とか、重たいものがあるので気にします。
人間は、気を自分の活動エネルギーとして使っていますが、この気の素は2種類あります。飲食物つまり水穀から取り出すタイプと、空気から取り出すタイプです。
水穀からの精微としての気は脾で、空気からは肺で、それぞれもらうわけです。
科学の考え方でも、肺で空気から取り込んだ酸素は、エネルギー産生にとても大きな役割を果たしています。(三大栄養素からエネルギーを取り出す流れの中で、クエン酸回路に至る際に酸素が不可欠です。ないと、乳酸が生まれるタイプの産生経路になり、筋肉疲労を感じやすくなるとされています)また、吐く息では二酸化炭素を排出して、体の液体のpHを調整しています。これを中医学でも言っていると思ってもらえればいいです。
そして、中医学の肺は、その他にも仕事をしています。
脾から送られてきた気と肺で取り込んだ気を、合わせて全身にまき散らす仕事です。これを宣発と呼びます。各臓腑に運ばれるのは通路を使うかもしれませんが、「全身」へは文字通り、まき散らすイメージの方が近いでしょう。何といっても「宣発」ですから。
そして、それは、この作用が衛気の充実にも関わっていることからも分かります。ぶわっと撒かないと、全身の表面には行きわたらないのが想像できますか。
宣発は肺よりも上へ表面へ撒く、そんな感じで、これが下へ向かう働きを「粛降」と呼びます。宣発でほりなげて、それが粛降で下へ降りていく。お庭のスプリンクラーのような、噴水のような、そんな働きです。
この宣発粛降の働きは、気だけでなく津液にも使われます。津液は水穀から脾が取り出して作られますが、これも肺の宣発粛降により全身に送られるのです。
気と津液は、肺でまき散らされ、脾と肝のポンプにより巡らされ、腎に集まっていきます。気は腎で蓄えられ、津液はリサイクルされる。再利用できる気と津液は、また肺に昇り散布されます。新たに作られた気や津液と混ざって。この循環、想像しただけで気持ちが良いですね。
また、肺に血脈が全て集まってくる、という考え方も、科学の医学とシンクロしています。中医学の場合、これにより心を手伝って血脈を管理する、とされていますが、実際何をどう管理しているのかよく分からない表現です。しかしながら、肺が弱ると血の状態が悪くなったりするようです。
肺は、基本的には陰の臓です。が、気虚にも陰虚にもなります。どちらにしても咳が出ることが多いです。
気虚や陽虚の咳の場合、痰が薄くて多めで咳自体に力がないことが多く、陰虚の咳の場合は痰がないか濃縮されて濃くなっていることが多いです。呼吸器にできる痰は、素になる肺周りの津液がうまく宣発粛降され利用されていれば出来ないものです。これが出来てしまう上に、気虚や陰虚が乗っかっていると考えると、この痰の状態の違いもイメージしやすいのではないでしょうか。覚えるより、想像して連想です。

肺の気虚、陰虚、そして宣発機能が落ちている、という状態が考えられるのでそれぞれのための食材をメモしておきます。咳痰などに対症療法的に使えるものも載せておきます。
・補肺気:牛乳、からし、山芋
・補肺陰:ヨーグルト、白きくらげ、蜂蜜、つばめの巣、鴨、鶏卵
・潤肺:クレソン、百合根、蓮根、柿、すだち、バナナ
・宣肺:からし菜
・止咳:くわい、生姜、いちじく、枇杷(実と葉)
・定喘:あんず、銀杏、杏仁、
・消痰:りんご

以下、余談です。

日本人はいつの頃からか、食べ物から取り出す気ばかりを意識するようになりました。お腹がすくことは悪いこと。お腹が鳴るのは恥ずかしいこと。そんなおかしな常識に支配されてもいるように見えます。
食べ物は地の気をメインに、空気は天の気をメインに、それぞれ人間に分けてくれます。人間というのは、間のヒトであり、それは天と地の間の存在を意味するともされています。どちらかだけではなく、両方から気をもらい使い、巡らせることで、人間としての役割を果たします。天地をつなぐ存在が人間。もっと呼吸からの気を意識した方が、色々といいのではないかなと思います。
食べることを一生懸命すれば、自然と脾胃に負担がかかります。あれが体にいいらしい、これを食べると健康になるらしい、と、バラバラの情報をそれぞれで取り込んで、あれもこれもと食べる様子をイメージしてください。当たり前に食べ過ぎになって、脾胃はいつも働いていないといけない状態になりますよね。
自分の体の状態にとって良いものを、的確に選んで組み合わせて、少量で効率よく気を取り出し調子を整えるような食事内容にしたいものです。その為の薬膳・中医理論です。
そして、そこに呼吸を組み合わせれば、良い気がしっかりと巡り、快適な生活を送る基盤となります。

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